32.生涯絶対に、っていいよね
(ううううう!)
胸から何かがせりあがるぞくぞくした感じ。
雪花は森羅の胸に顔を押し付けて、ひゃああという声を小さくあげた。目を閉じてと言われたのに、つい開けてしまった。
緑の鮮やかな木々の茂みに垂直に森羅は足先から落ちていく、そして片手で雪花を抱いたまま、近づく太い枝を掴んで、一度墜落の衝撃を和らげて、何度か、下へと向かっていく。
そうしてたどり着いたのは、不思議な場所だった。
上には、木々が生い茂っている。でも正面の岩肌には薄い流れの滝が滴り、清涼な水たまりをつくっている。足元は丸みを帯びた玉砂利だ。
森羅がゆっくりと雪花を下ろす。なぜか空気が一層済すんでいる気がした。
川の流れの岩壁の奥には、ぽかりと人が通れるほどの穴が空いている。
「ここって聖域?」
頭上を見上げると太陽の光もみえない。上からは茂みに覆われていて見えなかった。なのに光が差し込む場所。
森羅の袖を掴んだまま尋ねると頭一つ分高い森羅が目を向けて頷いた。
「そうだよ。ここは、番の誓いに来る場所なんだ」
「え!?」
驚くと柔らかな笑みが返ってくる。けれど少し彼も雪花の反応に不安そう。
「えーと、あの、その?」
それはつまり、結婚の誓い、とか。恋人が将来を約束するとか?
「違うよ、ああでも、そうだね、もっと神聖なものかな」
雪花を再度抱き直して、彼が穴の方へと歩んでいく。
「この穴を先に雌が入る。そして雄が追って入る。中は迷宮になっていて、最後に二人で出て来られれば、二人は番の絆を結べる」
「……そうなんだ」
奥は真っ暗で、何があるのか見通せない。猫の目ならば少しは暗闇でも見えそうだけど、人間の雪花の目では全然。森羅ならば大丈夫だろうけど。
「迷宮ってことは試練みたいな」
「だろうね。中がどうなっているかはわからない。道は入る者それぞれによって違うらしい。だからどういう道で何が待ち受けているのかはわからない」
彼はその穴を見据えている。何か決意を秘めているみたいだ。
「ただ、いつか。俺と一緒にここに来て欲しい」
雪花が気持ちを決めたら、と森羅は付け加えた。
***
「ほこら、ですか? はいりました」
そして百合ちゃんに訊いてみたらあっさりと頷かれてしまった。こういうのって、小さい時の方が怖くないのかもしれない。
「その、亜紺君と一緒に出て来れた?」
こくり、とうなづく百合ちゃんは、はにかんでいてカワイイ。
「亜紺がずっと手をにぎっててくれたから。雪花さまもこわくないです、森羅さまがいるから」
「そう、だよね」
亜紺君がいるから、何も怖くない。そう思える百合ちゃんはすごいし、そう感じさせる亜紺君もすごい。二人の間には何も遮るものはない。
「森羅さまも、雪花さまをぜったい守ります。はなれません、しょうがい」
そう言われるとそうかな、って思える。贅沢だよね、なんだか照れてきちゃう。
「ところで、そこに入るのっていつ?」
少し百合ちゃんは首を傾げた。
「その時がきたら、です」




