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獣の王に愛されて:選び放題と言われましても!  作者: 高瀬さくら


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19/38

19.好きな理由を教えて

 里の中でも、護衛は必要かあ。森羅が来ないのはなぜと思うけど、もしかしたら離れる時間をくれたのかもしれないと思いなおす。


 屋敷の外を出ると、森羅の言葉通り黒雨がいる。大きな体躯の彼が笑みを深める。


「言った通り、問題なく終えられましたでしょう」

「問題がなかったのかどうか……」


 呟くと彼は気にした様子もなく、出口まで案内してくれた夕月ちゃんの方を見て笑う。


「調子はどうだ、ゆう

「何事も問題ありません」


 そっけない彼女の態度はいつも通りだった。


***


 黒雨が案内をしてくれるのかと思ったら、どうぞお好きに、と言われて雪花は里の自然の中を歩き回る。

 黒雨は後ろからのんびりとついてくる。彼の獣の正体はなんだろう、そう思うと同時に、とても強くて大きい獣で、雪花にはわからないことに気が付いた。


 たぶん、ある程度の力のある獣人の正体は、雪花には見抜けない。そう気づいた。


 ――子どもたちが遊んでいる。なんと、宙がえり。しかも、回転するたびに人と獣とが入れ替わる。狸と犬? 時折、人間の姿でも耳やしっぽが残ったままの時もある。


「ああやって、獣化を覚えていくんです」

「――私、獣になれないんですけど」


 黒雨を見上げて言ってみる。


 名前と同じくらい漆黒の髪はやはり長めで、後ろで無造作に束ねている。ただし、結構硬そうな髪だ。ラフな着物姿、前開きから少し胸が見えている。

 かなり立派な身体だなーと思いながら、筋肉の塊のような胸から目を逸らす。


「そんなこと、大したことじゃないでしょう」


 そして降ってきた言葉に驚いた。


「え?」

「俺たちは全員獣人ですがね。その能力が出るかどうかは本人にはどうにでもできないでしょ。確かに特殊な種族なんで、男は女を護るために、獣化の力が必要ですがね。かといってそれが個人の価値の決定打になるわけじゃない」

「でも、それが何よりも大事って……」

「人と同じですよ。個性の一つだ。獣化の力はあっても、後はどう磨くか、本人次第だ」

「……そう、だけど」


「雪花様の魅力は若が知っておられる。獣の部分とそうじゃない部分に惹かれたんでしょう」

「私の魅力って何ですか?」


 彼は声を立てて笑った。


「それは、若にお聞きなさい」


***


「――と、言われたんですけど」


 私と森羅は、同じ部屋にいた。


 雪花はお風呂をいただき、浴衣姿で髪をおろしたまま。森羅は単衣の着物姿、半幅帯で貝の口という楽そうな結び方をしていた。


(着物姿……似合ってるな)


 着慣れていないと、すぐ合わせがずれてきちゃって胸元や裾がさばけちゃうのだけど、森羅はそういうところが全然ない。そして雪花も夕月が着つけてくれたおかげで、今のところ崩れていない。


「雪花、どうした?」

「森羅、着物姿にあっているなーと」


 森羅は嬉しそうに笑って、雪花においでと手招きしたと思えば、そのまま腕を掴んで引き寄せてくる。


「雪花」


 彼は雪花の頭をぎゅっと抱きしめると髪に顔をうずめて、情感を込めて名を呼ぶから、胸がきゅっと痛くなるような気がした。


 反対に、森羅の後ろでしっぽが揺れている気がした。彼も嬉しい、そう思うと、気持ちが弾んでくる。


「それで、雪花の魅力についての続きを話そうか」

「改めて言われると、ちょっと恥ずかしいのだけど――」


 こんな条件の厳しそうな旧家、しかもお相手もいるらしい状況でよそ者の変身できない雪花を連れてくる理由を“自分が好きだから”、というだけでは、納得できない。


(彩媛ちゃんという候補もいるもんね)


「雪花じゃなきゃダメだって、言わなかった?」

「聞いたけど」

つがいというのは、すぐにわかるものだ。野生の鳥でもそうだろ、求愛行動は必要だけれど、迷いはしない」

「動物はそうでも、森羅のその確証はなに?」

「……舐め方?」


 またそこ!? 彼はクスクス笑って雪花を離す。いつも余裕だなあ。


 里のみんなの前では威厳のようなものを漂わせているのに、雪花の前では笑ってばかりいる、しかも雪花の動揺ぶりにだ。


「それだけじゃない。先程の続きだけど、獣としては雪花の匂い、慰め方、物おじしない触れ方、そんなところかな。あとは……獣としてのさが

さがっていわれても……?」


 なんだか褒められた気がしないぞ。


「保護欲をくすぐられるんだよね。雪花はそういう生き物(けもの)なんだと思う」



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