18.挨拶ですか、面接ですか、見極めですか?
ふすまを開けた先には、森羅のお母様がいた。
(目の前で騒いでいたの、私達!?)
いやもう、これなんの罰ゲーム?
いくらささやき声でも、おそらくみんな獣人、だよね。耳がとてもいいはず。人間とは比べ物にならないくらいね。
(というわけで、すでに撃沈!)
そう、みんな。
部屋の中にお母様以外の人達がいた。しかも、聞こえていたはずであろう会話には誰も触れてくれない。それは優しさだろうか……。
「そちらが、森羅殿が選んだ娘か」
「母上、雪花です」
母上さまは、かなり広い部屋の上座に鎮座されておられました。もう「殿」とか森羅が呼ばれ出してもおかしくない。さすがに御簾はなかったけれど、結構な距離だ。
「ふうむ」
まじまじと見られて、雪花は落ち着かなく身じろぎした。人間ではない眼差し、なんだろう、この人。人ではないことはわかるのに、すごく落ち着かない。
横に控えるのは先ほど紫籐と呼ばれた森羅の弟で、彼も姿勢正しく膝を開いた正座をしている。目は伏せたまま。もうこの人たち何なの。
あと、三人ほどおじさんがいたけれど、彼らの紹介はない。
「雪花と申します。初めまして……よろしくお願いします」
もう何が正しい挨拶かわからない。そういえば手土産もないし、私もうダメダメ。
とりあえず先ほどの夕月ちゃんのように、指をついて頭を下げる。
頭をあげると、やっぱりまじまじと見つめられているが、その視線が先ほどとは違う、好奇心に満ちているものになっていて、あれと思う。
「森羅殿が選んだのであれば、間違いなかろう。言うことはない」
そうだろう、とばかりに三人のおじさんたちも頷く。なんだかその頭に耳が見えた気がした。“狸”という言葉が浮かんだ。そうだ、狸だ。
お母様の正体はわからないけれど、このおじさんたちはみんな狸だ。
(狸親父……って、ダメ考えちゃ。笑っちゃう)
慌てて自分の太ももをつねる。緊張が高まりすぎて、笑い出しそう。
笑みだかなんだかわからないものを浮かべている雪花をよそに、母上様の視線は森羅に向けられる。
「番の結びは――まだか」
「申し訳ありません」
え、その結びって……えええと、まさか行為のこと!? お母様、そのこと聞いちゃう?
「情けないことよ、と申しませぬ。――雪花殿」
「は、はい!」
声が裏返ってしまった。ありがたいことに誰もつっこまないし、母上様の視線は厳しいものではなかった。
「選択権は我ら雌にある。とはいえ、森羅を選んでくださればありがたい。強制ではないが」
「あの……はい」
(嫌われてはない!?)
でも逃げ場塞がれた? 逃げる気はないけど、これってお願いされているの? 嬉しがっていいの?
フッと、母上様の眼差しが柔らかくなる。
「願いでも我儘でも何なりと。それを受け止められるか、その度量を試すがよかろう」
「怖いな、母上」
「雪花殿。遠慮することはないぞ。――森羅殿、せいぜい励まれるがよい」
森羅が笑い、母上様もわずかに笑顔らしきものを見せる。狸おじさんたちは、くわばらくわばらと囁き、場が和んだような、そうじゃないような。
興味はあったが、見定めは終わった、という感じで面接は終わった。
紫藤さん、つまり森羅の弟は、表情を全く崩さなかった。
結局評価はどうだったんだろう、と思いながら部屋を出たら森羅が笑いだす。
「笑うなんて、ひどい」
「ごめん、雪花が笑いそうになっていたから、俺もつられて笑いかけた。――母上は雪花を気に入っていたよ」
「……」
「雪花は疲れただろう。もし嫌じゃなかったら、外を散歩してくる? 落ち着きたいだろう?」
言われてみると、この家の中では窮屈で、少し一人になりたい気がした。うんって頷いたら、頭が撫でられる。
「出口まで案内するよ。外では、黒雨が待っているから」




