11.妹だけど、でもね
車に乗ってすぐに森羅が連絡をしていたようで、自宅には兄と弟、三人がそろっていた。
「雪花ちゃん!!」
自宅に帰ると、まず翔が飛びついてきた。そして匂いを嗅いで身体をこわばらせる。上がり框の兄たちを見上げると二人とも硬い表情だ。
「雪花、こっちに」
蒼士お兄ちゃんに言われて、彼の胸に抱き寄せられる。彼の鼻先がうなじに充てられる。
何も言っていないし、何も言われない。でも彼らは雪花の状態を分かっている。
「ごめん、横になりたい」
相変わらず体は熱いし、めまいはひどい。頭を上げるとグルグル視界がまわる。
歩こうとしたが、蒼士が人間の姿のまま雪花を軽々と抱き上げて運び出す。硬い顔で話す燐斗と森羅の姿が見えた。
***
「雪花、自分のベッドと俺のベッドとどっちがいい?」
雪花は少し考えて、「私の」と呟いた。縋りつく犬のような目で翔ちゃんが雪花をみていたから、あとで彼はベッドにもぐりこんでくるだろう。けれど蒼士がいるとそれができない。
だから、雪花は自分のベッドを指定する。
それに少し寝たかった。
「蒼士お兄ちゃん、私、発情期なんだって」
ベッドに横になり、身体を丸める。ひんやりしている寝具。
本当はやっぱり温もりが欲しい。体をすり寄せたい、誰かに。その感覚が顕著なのは、やっぱり発情期だからだろうか。
「そうだな。排卵一日目だろう」
ほんとよくわかるよね。彼らは汗の匂いでいろいろわかるらしい。
だから嘘をついている女の人も汗でわかるし、化粧品や香水の匂いも苦手。
彼らにモテようと画策している女性ほどうまくいかない。
でもナチュラル志向の女性とならば、合いそうなのにな―とも思うけど。
時々裏の山(うちの敷地)を走ったり、そこで狩りもしているらしい。数日いなくなるその癖さえ理解してくれる女性ならば、ってそんなのいないか。
「だいたい排卵期の前後五日ぐらいで治まる。その時期は家を出るな」
「ええ!?」
今日何があったかは話していない、けれど森羅がどこかで話したのだろうか。なんだかわかっているみたいだ。
あんなことがあるならば外に出るのは無理。けれど、森羅は落ち着けば人間のオスも反応しなくなるからと言ってくれたし。
雪花が身を乗り出すと、蒼士はぎゅっと抱きしめてくる。すらりとした体型なのに抱きつくと、その下の筋肉質の胸と腕を感じる。
「蒼士ちゃん、私が欲しい?」
蒼士は返事をしない。この種族はメスが少ないのだという。群れにいなければ探せない。人間の女と行為はできる、けれど子供は望めない。
もし雪花が家を出てしまったら、彼らはどうするのだろう。
でも、兄たちならば――いいよ。それを口にするのは怖い。
「やっぱり一緒に寝たい。姿を変えて」
獣の姿ならば平気なのだろうか、そうぼんやり考える。体を擦り付けたい、足を絡めたい。彼らが辛くなるとわかっていても、雪花は自分の欲望のまま彼に希望を伝える。
蒼士は目を細めて、黒豹に姿を変えた。
「雪花の気が済むまま、いくらでも」




