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久しぶりに会った同級生の姿が変わっていた件

 「え…………誰?」


 それが高校で初めて霞、本名霞ヶ浦美波(かすみがうらみなみ)を見た時の感想だった。

 

 「『え、誰?』って冗談でも少しひどくない?ユウ!美波よ。霞ヶ浦美波。ていうかあんたもさっき『霞』って言って私の名前呼んでいたじゃない?」


 「いや、そうなんだが………お前の中二病の要素ははどこいった!?」

 

 俺の中学生の時の記憶が正しければ、こいつは俗に言う「中二病」という病気を患っていた。

 こいつのはその中でも「邪気眼系中二病」と呼ばれるものらしく、意味もなく腕に包帯巻いたり、眼帯をしたり、眼帯をしている方の眼に金のカラコンを入れてオッドアイって言ってみたり、「我が右手に宿りし………」とか言ってみたりする症状が出ていた。

 いや、「我が右手………」とかは言ってなかったかもしれない。


 まあ、いずれにしても包帯と眼帯をし、そして制服も少し自分で改造していたため、遠目で見ても分かるくらい奇抜な格好をしていたのは確かだ。

 

 だが、今俺の目の前にいる女子生徒は包帯だとか眼帯だとかそんなものは一切着けてない普通の女子生徒だ。

 その容姿は身長は150ちょっとのスレンダーな体型で丸い小顔の中の大きな瞳が印象的だ。

 そしてネイビーブルーのショートヘアで右側の瞳は髪で隠されている。

 右腕にはシリコン製のリストバンドをおしゃれなのかいくつか付けている。

 可愛いや美しいよりも可愛らしいという印象を受ける容姿である。

 そこにあの中二病だった霞の外見から見て取れるヤバい面影はどこにもない。

 

 「ああ、中二病なら中学卒業と共に卒業したわ。もう高校生だしね。かと言ってアニメ漫画好きは変わってないわよ」


 俺はその言葉を聞き間違えかと思った。

 あの霞が中二病をやめたと言っただと?

 先生に何度も注意され、挙げ句の果てに呼び出しまでくらっても中二病を貫き続けたあの霞が?

 俺は驚きを隠せずポカンと口を開けたままの状態で膠着していた。


 「何?何か文句でもあるの?」


 俺が何も言わないことに霞は疑問を持ったのかそう聞いてきた。

 

 「ああ、いや、意外すぎてな。まさか、霞からそんな言葉がでるとは思ってなくてな。てっきりお前はずっと中二病のままでいるのかと勝手に思っていた」

 

 俺は思ったことを素直に話した。


 そうすると霞は少し寂しそうに語り始めた。


 「まあ、私も本当はずっと中二病でいたかったんだけどね。なんか唯一感が出て楽しいし。だけど周りの人にもにもいっぱい迷惑かけちゃうし。いつまでも自分のわがまま押し通していく訳にはならないし。そもそもずっと中二病でなんかいられないしね。だから高校では心機一転して、みんなと同じような格好して同じような趣味を楽しもうと思ったわけ」


 「………そうか」


 こいつもこいつなりにいろいろと悩んでいたんだなと知る。

 しかも、中二病とは霞を構成する大きな要素の一つだったはずだ。

 他の人からすればたかが中二病でなんでそんな悩む必要があるのかと思われるかもしれない。

 でも中二病を止めるというのは彼女にとっては大きな決断で、そして相当葛藤したに違いないだろう。


 俺と霞、二人して物思いにふけてしばらく無言の時間が続いてしまった。


 「朝からしんみりした雰囲気になってしまったわね。なんかごめん。でも脱中二病していいこともあったわよ」


 その雰囲気を吹き飛ばすかのように霞は元気な声でそう言った。


 「例えば?」


 「そうね。まず、街中で盗撮されることがなくなったわ。奇異な目で見られるのは別にいいんだけれど、やっぱり知らない人に写真を撮られるのは嫌だったからこれはストレスが解消されたわ。他にはお金の消費が減ったことかしら。なんだかんだいって中二病の衣装って結構高いのよ」

 

 へぇ~と思い聞いていると


 「でも、逆に悪いところもあってね」


 「え、何だ?」


 「まあ、これは脱中二病が悪いってことじゃないんだけれど、数年間ずっと眼帯と包帯付けていると外した時、目が見えすぎたり腕の解放感がすごすぎて違和感しかなくて少し気持ち悪いのよ」


 言いたいことは分からなくもない。

 目が悪い人が初めて眼鏡やコンタクトをした感覚だろう。

 

 「だから右目は前髪で隠しているし、右腕には包帯の代わりにリストバンドをしているわ」  


 なるほど。

 単なるおしゃれかと思っていたが、ちゃんと理由があったことに驚きながらも納得した。

 

 俺らが中学生の頃、すなわち霞が中二病の頃、正直なことを言うと彼女は本能のみで動いているんだろうなと、つまり何も考えていない系の人間なんだろうと失礼ながら勝手に思っていた。 

 だから、いろいろ考えているんだなということが意外で俺がいかに彼女のことを見ていなかったかが分かり痛感させられた。


 そんな事を考えていると、霞がじっと俺の顔から足にむけてじっと観察して来た。


 「なんだよ?」


 少し居心地が悪くなった俺は霞に向けてそう問いかけた。

 

 すると霞は観察を止めて


 「いや、ユウ、あんた全然中学の頃と変わらないなと思って。髪は染めてないし、ピアスとかそういう類も付けてないし」


 「別に髪も染めたい訳でもないし、装飾品を付けるのは俺の趣味じゃないからな」


 「赤と青のツートンだったかしら?に染めるって言っていたじゃない」


 こいつまであの時のことを覚えているのかと思い、ついこめかみをおさえてしまった。


 「あの時の俺はおそらく中二病で、それ故に今の俺とはそういう方面においては全く違う価値観を持っているからな。だからそれは今の俺とは全くの別人が言っていることだ」


 「同じ自分の癖に。そういうところにまだ中二臭さが残っているわよね、ユウは」


 霞に指摘され、思わず「うっ」と唸ってしまった。

 その俺の様子を見て、霞は「アハハ」と笑っていた。


 その後、霞は鞄を俺の前の席に置くと

 

 「あ、そういえば私、あんたの前の席だから。一年間一応よろしく。じゃあ、これからちょっと他クラスの友だちのとこに行かないといけないから」


 霞はそう言って教室を出ていった。

 

 ああいうのがが俗に言う高校デビューというやつなのか。

 だが、見た目は変わっても相変わらずやかましい奴だったな。

 教室に残された俺は霞に対してそういう感想を抱いた。

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