登校
満開に咲いた桜、雲一つない青空、そして小鳥たちのさえずり。
今日はいかにも「春」という感じの気候だった。
そんな陽気な天気の中、朝の閑静な住宅街に一つの声が木霊する。
「ああ、疲れた~」
その声の主はオレ、黒瀬祐也。
身長170センチ、体重55キロ。
黒髪黒眼で容姿に何の特徴もないどこにでもいるであろう冴えない新高校一年生。
オレの声に驚いたのか、木の上にいた小鳥たちは木から飛び去ってしまった。
「ユウ、朝から何言っているの?」
オレの声に反応したのは小鳥たちだけではなかった。
反応したそいつの名前は俺の隣を歩いている白石和樹。
オレと同じ高校に通う新高校一年生。
小中と学校が一緒でいわゆる幼なじみって関係にあたる。
茶髪で身長は俺より少し低く、くりっとした目が特徴的な中性的かつ整った顔立ちで「美少年」という言葉が似合う容姿を持っている。
声も容姿に変わらず中性的な声で肌も白いため、それなりの格好をすれば、「美少女」に見えないこともない。
まあ、本人はそのことが不服らしく、せめて一人称くらいは男らしくいきたいということで「俺」を使っているらしい。
「『朝から何言っているの?』って、そりゃ疲れているに決まってんだろ。昨日まで春休みだったわけだし」
「いや、春休みだったんだから普通は疲れがとれているはずだと思うんだけど……」
オレの結構な無茶ぶり論に、和樹は苦笑混じりに返答する。
理論的にはカズの言っていることは合っているんだが、実際はそうではない。
「まあ、そうなんだけど、長期休みってどうしても生活リズムが崩れてしまうだろ。で、いきなり普段の生活リズムに戻せって言われても、その普段の生活リズムに体が慣れていないから疲れてしまうってことだ」
今回は春休みだったからまだ良かったけど、夏休みとか冬休みとかだと最終日3日前辺りからこれに加えて怒涛の宿題ラッシュが来るから本当に困る。……………まあ、生活リズムにおいても宿題においても悪いのは自分自身なんだけど。
「あー、なるほど」
カズは分かったような分からなかったような感じで頷いた。
「…………………」
「…………………」
その後、二人の間にしばらくの静寂が流れた。
中途半端な仲の人との静寂ほど苦なものはないが、気が知れている人との静寂は苦ではない。
だが、どうしても無言になってしまうと、オレはなぜか気にしなくてもいい心配事に意識がいってしまう癖がある。
今の俺で言えば、例えば、友だち100人できるかなとか。
ま、一年間で友だち100人できたことないし、そんなに作る気もないけど。
でも、高校生活を上手く送れるかはリアルに少し不安だった。
「そういえば、カズ、髪染めたんだな」
このまま悩み続けて、ネガティブな気持ち満載で新しい高校に行くのも嫌だったので、カズと話すことで心配事から意識をそらすことにした。
この事も少し気になっていたことだし。
「あ、うん、そうだよ。なんか変かな?」
「いや、変というより、染める前と後で違和感がなさすぎてむしろ驚いている」
カズの地毛がもともと少し茶色っぽかった事も関わってくるだろうが、本当に違和感がなくフィットしている。
「まあ、似合っているよ」
俺がそう言うと、カズは嬉しそうな顔で「ありがとう」と返してくれた。
「というか、俺的にはユウも髪染めると思っていたんだけどな~」
「どうしてだ?」
そのように言われる心当たりがなく、俺は思わず少し食い気味に聞いてしまった。
「だってほら、言っていたじゃん。中学の時、高校になったら髪染めるって」
そんな事言っていたっけ?と思い、記憶の中を探ってみるも、全く心当たりがない。
俺が首を傾げているとカズが
「覚えてない?確か中二だっけ?の時、ユウがハマっていた漫画の主人公のキャラが赤と青のツートンカラーの髪で、『高校生になったら俺、髪をこの色に染めるわ』とか言っていたのを」と追加の説明をしてくれた。
あー、確かにそんな事言っていたような気がする。というかめちゃくちゃ言っていた。今思うと疑問しかないが、あの時は何故か前から見て右側の髪を赤色に、左側の髪を青色にしているのがかっこいいと思っていたんだよな。
「確かにそうは言っていたが、それをガチで言う奴がいるか?」
まさかあの時の俺とも言えど、ガチでそんな事言うはずがないだろ、という意味を込めてそう返した。
「うん、確かに普通はそうなんだけど、あの時のユウはガチで言っていた感がすごかったよ。なんかこう鬼気迫るものをあの時は感じたよ」
マジか。恐るべし中二の時の俺。
おそらく中二病真っ只中だったのだろうが、そんな事を自分がガチで言っていたと思うと少し恥ずかしい。
「まあ、いずれにしても今の俺は髪を染める気はない。あんな髪の色の奴が現実世界にいたら異色すぎるしな」
そう、あれはあくまで昔の俺の話であって今の俺の話ではない。今の俺は黒髪が好きなのだ。
「そうだね。でも、逆にすごく目立っていいかもよ。悪い方の意味で名前をすぐに覚えてもらえそうだしね」
カズがニコニコ笑いながら言う。
「別に俺にそんな願望はない」
俺が望むのは普通の高校生活だ。奇抜なヘアスタイルで行って悪目立ちするのも退かれるのもまっぴらごめんだ。
そんなくだらない話をしているうちに目的地、上代高校へと着いた。
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