それぞれが買ったもの
俺が店を出ると、他の3人はすでに店の外で待機していた。
「ユウ、遅いよ~」
カズは俺の姿を確認すると、俺にそう声をかけてきた。
「ああ、悪い悪い。ついつい長い時間悩んでしまってな。3人はなにかいい装備見つかったか?」
「うん、見つかったよ」
カズはそう言うと、イクスダースから二本の剣と白色の胸当てを取り出した。
剣は銀色にキラキラと光り輝いている。
「俺は双剣と鎧変わりの胸当てを買ったよ。双剣を扱うにはできるだけ身軽な方がいいかなと思って、鎧変わりに軽くてかつ最低限の防御ができる胸当てにしたんだ。双剣である程度は敵の攻撃は防げると思うしね」
「なるほどな。でもなんで双剣にしたんだ」
双剣はどちらかといえばマイナーで、使いこなすのが難しいと言われている武器だ。
カズが剣道で二刀流使いだったりしたら、双剣を使う理由も分かるが、カズは二刀流使いでもないし、なんなら剣道すらやっていない。
だから素直に疑問だった。
「あー、これはね、武器選びに悩んでいたら、店主の人に薦められたらからだよ。なんか店主さん曰わく、何年もああいう仕事やっていると、それぞれの人に似合う武器っていうのが分かるらしくて、俺には双剣が似合うって言われたから、店主さんのことを信じて双剣にしてみたんだ」
「へえ~、そうなのか」
店主の言うことが本当か嘘かは確かではないが、もし本当ならばさすが職人とでも言うべきか。
「他の2人はどうだった?」
俺は佐藤さんと霞の方を向いてそう問いかけた。
「私たちも買ったよ~。それにしてもこんないい店が見つかるとは黒瀬君のおかげだね」
佐藤さんが笑顔でそう応える。
「悔しいけどあんたの勘もたまには当たるみたいね」
一方、霞は少し悔しそうな表情でそう言う。
「まあな。俺の勘を馬鹿にするなってことだ。ところで2人は何を買ったんだ?」
「私はこれらを買ったわ」
そう言って霞がイクスダースから取り出したのは、手袋と靴と腕、膝、胸あたりを守るプロテクター、そしてナイフ。
「私は武道家スタイルでいこうと思って、こういう装備にしてみたわ。手袋と靴には、ユウとカズ、あんたらの剣と同じくストリークが埋め込まれていて、モンスターと戦えるようになっているらしいわ。できるだけ身軽でいたいけど、敵の攻撃は避けるか体で受けるしかないから、守りは軽く丈夫なプロテクターに任せて、あとはあれば便利かなと思ってナイフを購入してみたって感じかしら」
「なるほど、武道家系か。そういう戦い方もあるのか」
俺はうんうんと頷きながらそう言った。
「あんたやカズみたいに剣で戦うのもいいかなとは思ったけど、私はそれよりも肉弾戦の方が得意で似合っているかなと思ってね」
「確かにな。それについては俺もお前と同意見だ。そっちの方がしっくり来そうだしな」
霞は中学の頃、空手をしていて全国でもそこそこの実力を持っていた。
そして練習を真面目にやれば、全国一位もとれるのではないかというほどの素質も持っていた。
まあ、練習をサボリ気味だった霞は結局真面目にはならず、中途半端なまま終わったんだけど。
いずれにしても空手の才能があったのは確かだ。
ならば、せっかくのその才能を冒険に活かせるのなら、活かした方がいいだろう。
別に剣術がいけないということはないが、こいつの場合は剣術よりも武術の方が優れているだろうから、似合っていると俺は思う。
「一応ほめ言葉として頂いておくことにするわ。ところで朱音、あんたは何を買ったの?」
「私は盾と、あと………これ」
佐藤さんがそう言って見せてきたのは、杖。
長さはといえば、彼女の身長くらいあり、見た感じ少し重そうだ。
色は茶色で先端には赤く輝く石がはめ込められている。
「杖………か」
俺含め佐藤さん以外の3人は、少し驚いた目で彼女が抱えている杖をまじまじと見た。
杖
それは魔法の行使を助ける道具である。
杖を介することで、魔法の威力や精度を上げてくれるため、魔法を基盤として戦う、いわゆる魔法使いにとっては絶対と言っていいほどの必需品である。
ただ、杖というものは敬遠されがちである。
その最大の理由に扱いの難しさがある。
杖の上手く使用するには、魔力管理と呼ばれるものが上手くなければいけないのだが、この魔力管理というものは感覚でやるもので、つまり上手いも下手も才能次第みたいなところがある。
もちろん努力すれば、それなりにはその感覚を掴めるのだが、大概の人々はその努力をしてもなかなか上手く杖を扱うことが出来ない。
そんな魔力管理が必要な杖を、魔力管理が得意か苦手か分からない初心者が買うのは普通はお薦めできない。
上手く使いこなせなかったら、杖というのはただの棒に過ぎないからだ。
ただそれでも佐藤さんがこれを買ったということは………
「和也君と同じように、武器選びに悩んでいた私に店主さんが私に杖をお薦めしてきたんだ。小さい頃から魔法使いっていうものに憧れていていたし、なんか魔法使いってみんなを後ろからサポートするみたいでかっこいいなって思って買っちゃったんだ。まあ、ちょっと衝動買いみたいな感じになっちゃったけど」
佐藤さんが頬をかきながらそう言う。
が、これもし佐藤さんに魔力管理の才能がなかったら、あの店主、軽い詐欺師だぞ。
そう思いながらも、結局買ったのは佐藤さん本人だからしょうがないといえばしょうがないなとも思った。
最後に流れで俺の買った装備を見せて、互いの装備を見れたところで、俺たちはイクスダースにそれぞれの装備をしまった。
「この後、どうする?」
カズが俺ら3人そう問いかける。
時計を見ると3時半。
何をするにもまだ時間はたっぷりとある。
「街を散策しない?冒険用の服とかも買いたいし」
霞がそう提案する。
「ああ、そうだな。まだここら辺りでも行っていないところがたくさんあるしな。俺はそれに賛成だ」
「あ、私も賛成で」
俺、佐藤さんがそう言って賛成の意を示すと、
「もちろん俺も賛成だよ。じゃあ街を散策しに行こう!」
カズも賛成し、街散策をすることとなった。
お気に召していただければ下から、コメント、ブックマーク、評価などお願いします。
誤字・脱字があった場合は指摘していただけると幸いです。