いざSWへ
地獄の中間テスト期間が終わりました。
今日からまた再開していこうと思うのでよろしくお願いします。
WGの白い光の中へ足を踏み込むと、当然のごとく視界が真っ白な光で埋め尽くされた。
その状態が数秒続いた後、徐々にぼやけていた視界が元通りになってきた。
そんな俺らの瞳に映っているのは、先程までいた穏やかな広場の風景ではない。
そこは石畳の上に煉瓦づくり、或いは石造りの建造物が立ち並び、多くの商店が連なっている辺り一帯は喧騒で溢れかえっており、まるで活気あふれる商店街のように賑わっていた。
一言で表すのならば、中世ヨーロッパ風の街並みが今の俺らの瞳に映っていた。
ぼーっとそんな街並みを眺めていると、初めてこの風景を目にした時、ものすごい衝撃が走ったのを思い出した。
それほどとまでは言わないものの、今でもこの美しい街並みには感嘆の息を吐かずにはいられない。
この中世ヨーロッパ風の街並みが広がっているのはダンジョンが近くにある街、通称「冒険街」の特色であり、その他の街では現実世界と同じような街並みが広がっている。
冒険街は冒険のための街であり、飲食店や武器店や防具店などといった冒険には欠かせない店が多く存在している。
一方でコンビニやスーパーなどもあるはあるが、そういった店の占める面積が大きいため、その数は普通に比べて少ない。
一見不便なように思えるがそれは日常生活においてであり、冒険するには冒険街より適したものはないと言われている。
「よし、じゃあ、ギルドに向かうか」
いつまでもここに立ち止まっているわけにもいかないので、カズにそう声をかけた。
ギルドは今の俺らのいる位置、つまりWGの真正面に位置している。
石造りのその建造物の遠目から見ても分かるその大きさと迫力からは、荘厳さを伺える。
「うん、そうしよう」
中世ヨーロッパの鉄板ネタの馬車は残念ながらこの世界にはいないので、徒歩で俺らはギルドへと向かった。
まあ、仮にあったとしても金額が高くてどうせ乗れないというのがオチだろうけど。
距離1キロメートル、時間にして10分弱をかけて俺らはギルドへ着いた。
冒険者ギルド
それは冒険者の冒険者による冒険者のための施設である。
その大きさは様々で、本当にギルドとして活動できる最低限の設備が整っているだけの小さいギルドもあれば、酒場に加えてカジノなどもある巨大ギルドもある。
今、俺らの前にあるギルドは酒場がついている中くらいの大きさのギルドだ。
ギルドの役割は主に3つ。
クエストの発注、SW内の通過「ルカ」への両替、そして冒険者がダンジョン内で集めたアイテムの換金だ。
大きなギルドとなれば、そこにさらに酒場の運営などがついてくる。
また両替については、ギルドなど専門の場所でしかすることができないので、冒険者じゃない一般の人も利用することがある。
ギルドの扉は常に開放された状態で、外からでも中の様子が何となくは分かる。
中からギャーギャー騒いでいる声が外まで響いており、中がかなり賑わっているのが伺える。
中へ入ると、また外とは違う雰囲気が漂っていた。
その要因の一つは人々の服装にあるかもしれない。
これから冒険へ向かう者、或いは冒険から帰ってきた者が集うこの場では鎧や盾といった防具を装備している人で溢れかえっている。
そういった装備は、人々にその気がなくても重々しい雰囲気を醸し出している。
もちろん生半可な気持ちで冒険に行くと重傷を負う可能性もあるから、彼らもその気なんだろうけど。
そういった厳かな雰囲気とは対照的に、ギルドが運営している隣の酒場はもう、それは言葉で言い表せないほど賑わっていた。
騒ぎ声や悲鳴や怒鳴り声などいろんな声が混じっていてやかましいことこの上なかった。
さっき外から聞こえていた音はこれらのものだろう。
ギルドの様子を一通り見終わった俺らは受付へと向かった。
若いお兄さんが俺の受付の相手をしてくれた。
「ご用件はなんでしょうか?」
「あの、冒険者カードを作りたいんですけど……」
「冒険者カードですね。学生証や免許証など身分証明書はお持ちですか?高校生の方には学校の冒険許可証の提示もお願いしています」
「あ、少し待ってください…………これで」
生徒手帳から学生証と許可証を取り出し、お兄さんに手渡した。
「はい、ご提示ありがとうございます。少々お借りさせて頂きます。ではその間にこちらの紙に項目に従って必要な情報を記入していってください」
お兄さんはそう言って俺に紙を渡した後、パソコンに何かをうち始めた。
その紙には身長や体重など様々な個人情報を書くようになっていた。
俺は指示されたとおりに様々な情報を書いていった。
俺がちょうど書き終わったくらいに
「学生証と冒険許可証、ありがとうございました。お返しします。情報の記入は終わりましたでしょうか?」
「はい、一応」
「ではいただきます」
お兄さんはそう言って俺から紙を受け取ると、またパソコンをうち始めた。
しばらくすると、お兄さんが"タンっ"とキーをうち終わるとカードが受付口のスキャナーから"シュー"と出てきた。
お兄さんはそれを取り出し、俺に渡してくれるのか………と思いきや俺に渡されたのはそのカードではなく別の物だった。
それもカードではあるのだが、冒険者カードではないのがすぐ分かった。
なぜなら「闘技場入場券 4月○日分」と書かれているからだ。
ダンジョンの入口はギルドの入口と反対側通路を抜け、すぐしたところにある。
だがその通路に入るのには改札口を通る必要があり、それを通るためには冒険者カードが必要である。
つまり、冒険者カードがなければダンジョン内へと入れないのだ。
このカードではどう考えてもダンジョンへとは入れないだろう。
俺がそう疑問に思い、首を傾げていると
「君ら上代高校の新入生の子たちは明日講習会があるんだよね?」
「え?…………あ、は、はい」
いきなり受付のお兄さんに普通の口調で話しかけられびっくりして、返事にコミュ障が出てしまった。
「どうやらその最低限の講習を受けるまでは、安全面の問題で君らは冒険禁止らしくて、そういう理由で僕らも君らに冒険者カードを渡せないんだよ」
「………ああ、なるほど。そうなんですか」
冒険のスキルは実際に身体を動かしながら学んでいくといっても、何も知らないままで冒険するのは危険極まりない。
それに俺たちも高校生とはいってもまだ子供。
理性が十分ついているとはいえ、冒険時においては理性よりも本能を優先させてしまい、その場の勢いだけで行動し、その結果大事故へと繋がるなんてこともある。
ついでにいえば、学校も親からその大事な子供たちを預かっている立場である。
いくらそういったことは生徒自身の責任とかいえども、出来ればそういうことがないようにしたい。
つまり学校側としても、冒険に関する知識や教訓などを学んでもらい、そういったリスクを最低限にしてほしいのだろう。
そのためにこういった処置をとったのだろう。
「冒険者カードについては多分明日の講習会中に渡されると思うから、そこで受け取ってね。ちなみに闘技場も本来は冒険者カードが必要だけど、今君が手に持っているそのカードがあれば明日当日は入れるから安心してね」
「分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。ではまたのお越しをお待ちしております。………次のお客様どうぞ」
俺がお兄さんとの会話を終えた時、カズは既に両替所の列へと並び始めていた。
俺もその後を追い、カズの後ろへと並んだ。
「どうやら今日は冒険できないらしいな」
俺はそうカズへと話しかけた。
「うん、そうみたいだね。まあ、でも俺ら今日は冒険する予定もなかったし別にいいじゃん」
「ああ、そうだな。でも中には今日から冒険できることを心待ちしていた人もいるだろうけどな」
「それはしょうがないんじゃない?学校側の意向だし。実際テンションが上がっている時が一番怪我しやすいって言われているから、俺は学校側の選択は間違っていないと思うよ」
「確かにそうだな」
もしかしたら学校側はそういうことも全部視野に入れて、このように検討したのかもしれない。
「ねぇ、ところでユウは何円両替する?」
カズが唐突な話題転換を行ってきた。
特に隠すようなことでもないので俺は正直な金額を言う。
「5万だ」
「え、5万円!?多くない?」
カズが驚いた顔でそう言ってきた。
「ああ、ちょっと俺も多かったかなとは思ったけど、たくさん貰ったからいいかなと」
「俺なんか3万円だよ。ユウ、一体誰からそんな金額貰ったの?」
3万でも十分多いだろうと言う言葉を飲み込んで、俺はカズの質問に答える。
「トモ兄ぃだ」
するとカズは納得した顔で
「ああ、トモさんか。なるほどね。でも今の大学生ってそんなにお金持っているんだね~。結構意外」
「いや、多分トモ兄ぃが異常なだけだ。普通はそんな持っていないだろうし、持っていてもそんなに渡さないだろう」
なんかこのやり取りにデジャヴを感じるな。
「確かにユウの言う通りだね。5万もユウにあげるなんて、やっぱりトモさんって少し変わっているよね。いい意味で」
ここで実際貰った額は10万で、今持ってきている額が5万だと訂正しようかと思ったが、言ったら言ったで少し面倒くさくなりそうだったので黙っていおいた。
両替機が空いて俺の番となったので、俺はそこに1万円札5枚を投入した後、「円→ルカ」のボタンをタッチした。。
ちなみにルカの価値は10円弱くらいだ。
するとものの数秒で、千ルカ札5枚と硬貨何枚かがでてきた。
俺はそれらを取り、さらにレシートを受けとった。
そこを後にしながらレシートを見ると手数料として1000円も取られていた。
一瞬高いと思ったが、まあこんなもんかと思うことにした。
先に両替をし終えていたカズが入口付近で待っていた。
「よし、じゃあ、装備を買いにいこうか」
「ああ、そうしよう」
そう言って俺らはギルドを後にし、買い物へと向かった。
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