7・チェコストーンのドレス・2
須之内写真館・7
【チェコストーンのドレス・2】
カメラのファインダーに映っているのは、エミーリアそのものだった……。
「あなたは……」
『杏奈の母親のエミーリアです。ちょっと時間の隙間に、ごあいさつをと……』
「日本語がお分かりに?」
『生きてるころに少しだけ。今は心でお話ししているから、言葉の壁はありません』
「杏奈ちゃんは?」
『ここは時間の隙間だから。これが閉じれば、杏奈になります』
「とてもお似合いです、そのドレス」
『ありがとう。杏奈がプラハに来たら、このドレス姿で、あの子の夢の中に現れるつもりでした』
「修学旅行は残念でした」
『ええ……でも、順がこのドレスをネットオークションで買ってくれたんで、いっしょにきちゃいました。まあ、ドレスに付いてるチェコストーンの一つぐらいに思っていてください』
「不慮の事故で亡くなられたんですよね」
『……ま、それは、今は割り切っています。時間がありません。少し直子さんにお願いがあるんだけど』
「はい、あたしで間に合うことでしたら」
『杏奈は、考える前に行動してしまう子です。どうやら、わたしに似たようで……』
「フフ、同じオーラがします」
『順は、忙しくて、その割には稼げなくって。でも杏奈は、そんなこと気にしていません。だからガールズバーのバイトも平気でやっちゃうし』
「あ、それだったら、もう辞めるように……」
『続けさせてほしいの』
「え……」
『プラハのモデルの仕事より安全……今のバイトは、杏奈にとっても役に立ちます。それを直子さんにお願いしたくて』
「……うん、分かりました。なんとかしましょう。一枚撮ってもいいですか?」
『写ればね……』
「大丈夫……」
直子は、ファインダーに程よくエミーリアをとらえ、シャッターを切った。
「ああ、このドレスって疲れる~」
杏奈が不平を言って撮影は終わった。
「ビックリするようなものが写ってるわよ」
「え……うわー、ほんと、あたしじゃないみたい!」
驚いたのは直子の方だった。写っているのは、ポーズこそエミーリアだけど、杏奈そのものだった。エミーリアはエレガントだったが、杏奈は今風の、ちょっとオチャメな笑顔。
でも、エミーリアとの会話は、直子にとって現実だった。
直子は、代々続いた江戸っ子である。義理には弱い。
「杏奈、ガールズバーのバイト続けようよ」
「え!?」
杏奈は顔の表情筋を総動員して驚いた。