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須之内写真館  作者: 大橋むつお
7/50

7・チェコストーンのドレス・2

須之内写真館・7

【チェコストーンのドレス・2】        



 カメラのファインダーに映っているのは、エミーリアそのものだった……。


「あなたは……」

『杏奈の母親のエミーリアです。ちょっと時間の隙間に、ごあいさつをと……』

「日本語がお分かりに?」

『生きてるころに少しだけ。今は心でお話ししているから、言葉の壁はありません』

「杏奈ちゃんは?」

『ここは時間の隙間だから。これが閉じれば、杏奈になります』

「とてもお似合いです、そのドレス」

『ありがとう。杏奈がプラハに来たら、このドレス姿で、あの子の夢の中に現れるつもりでした』

「修学旅行は残念でした」

『ええ……でも、順がこのドレスをネットオークションで買ってくれたんで、いっしょにきちゃいました。まあ、ドレスに付いてるチェコストーンの一つぐらいに思っていてください』

「不慮の事故で亡くなられたんですよね」

『……ま、それは、今は割り切っています。時間がありません。少し直子さんにお願いがあるんだけど』

「はい、あたしで間に合うことでしたら」

『杏奈は、考える前に行動してしまう子です。どうやら、わたしに似たようで……』

「フフ、同じオーラがします」

『順は、忙しくて、その割には稼げなくって。でも杏奈は、そんなこと気にしていません。だからガールズバーのバイトも平気でやっちゃうし』

「あ、それだったら、もう辞めるように……」

『続けさせてほしいの』


「え……」


『プラハのモデルの仕事より安全……今のバイトは、杏奈にとっても役に立ちます。それを直子さんにお願いしたくて』

「……うん、分かりました。なんとかしましょう。一枚撮ってもいいですか?」

『写ればね……』

「大丈夫……」


 直子は、ファインダーに程よくエミーリアをとらえ、シャッターを切った。


「ああ、このドレスって疲れる~」

 杏奈が不平を言って撮影は終わった。

「ビックリするようなものが写ってるわよ」

「え……うわー、ほんと、あたしじゃないみたい!」


 驚いたのは直子の方だった。写っているのは、ポーズこそエミーリアだけど、杏奈そのものだった。エミーリアはエレガントだったが、杏奈は今風の、ちょっとオチャメな笑顔。

 でも、エミーリアとの会話は、直子にとって現実だった。


 直子は、代々続いた江戸っ子である。義理には弱い。


「杏奈、ガールズバーのバイト続けようよ」


「え!?」


 杏奈は顔の表情筋を総動員して驚いた。



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