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須之内写真館  作者: 大橋むつお
48/50

49・赤いスィートピー・2

須之内写真館・49

『赤いスィートピー・2』       



 やっぱりこの子だと直美は確信した。


 だって、目の前でU高校の制服を着てつり上げた目は、卒業式の日に、杏奈に見とがめられて、卒業生総代になりすましてバレたときのそれだからである。

 おまけに、その伊達玲奈にそっくりの母親までがくっついている。


「ああ、U高校の卒業式で……あの時の伊達さんですか?」

「なんで、あなたが知っているんですか!?」

 本人は驚き、母親はいろめきたった。

「うち、U高校の公式写真を承っておりますので、式場におりましたので」

「じゃ、U高校と示し合わせての嫌がらせなんですか!?」


 母娘が、持ち込んで文句を言っているのは先日老婦人に頼まれて撮って送った写真と、スイートピーの絵だった。


「だって、そうでしょう。あんな子どもらしい悪戯に目くじら立てて卒業延期にして、それに抗議した直後ですよ!」

「あれ、抗議したんですか?」

 直美は、正直開いた口がしまらなかった。

「うちの母は、二年前に亡くなっているんです。こんなことができるわけがないじゃありませんか!?」

「ああ、そうだったんですか……」

「そうだったんですかとは、なんですか!」

「あ、言葉足らずですみません。写真屋をやっていますと、時々こういうことがあるんです」

「え……?」


 母娘は同様に驚いた。


「妙なものが写り混んだり、あり得ない状況で写真を撮ることになったり」

 そこにお祖父ちゃんの玄蔵が入ってきた。

「この防犯カメラの映像を見てください。日付は、撮影日の2月28日になっていますでしょ」

「こ、こんなボケた映像じゃ……」

「これは失礼。解像度を上げてアングルを変えましょう」

 カメラが老婦人の正面を向き、解像度が750Pに上がった。


「お、お祖母ちゃんだ……!」

 玲奈が、初めて口を開いた。

「バカな事を言うんじゃないの!」

「だって、このコサージュ、お祖母ちゃんのお棺に入れたのといっしょだもん」


 ほう、このわがまま娘にもいいところがあるじゃん。と、直美は思った。


「確かだよ。入学の時にもらったんだけど、ダサいんで、お棺に入れたんだから」

「それは惜しいことをなさいましたね。19世紀のフランス製で、捨て値でも20万はいたしますよ」


「え、ほんと!?」


「ええ、仕事柄、こういうことには目がいってしまいますので……」

「ま、とにかく、赤いスイートピーは『門出』のお祝いです。何かの奇跡と思って大事にされてはいかがですか」

 玄蔵がまとめ掛けると、花屋がやってきた。


「須之内直美さんに、伊達公子さんからです」


 それは温室で育てた赤いスイートピーの花束だった。

「伊達公子は、うちの母です!」

「ああ、この人ですよ。服装もいっしょ。あ、コサージュを落としていかれて……これなんですが」

「あ、あのコサージュ!」

「母は、まだ近くに!?」

「駅の方に……お年寄りの足だから、まだ、そんなに遠くには行ってらっしゃらないと思いますよ」

「……お祖母ちゃん!」

「玲奈!」


 母娘は店を飛び出して駅に向かった。少しは伝わったのかも知れない。


 赤いスイートピーは、お祖父ちゃんの手入れが良かったのか、店の前の梅が満開になるまで持った。まるで、何事かを梅の花に伝えるように……。



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