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須之内写真館  作者: 大橋むつお
42/50

43・語らぬ旧友

須之内写真館・43

『語らぬ旧友』        



 拘置所の栄美はダンマリだった。


 しなののデッキで捕まえたときは、恐怖心と共に一瞬の懐かしさを見せた栄美はカラにこもってしまっていた。

「かもめ女子高校、二年で退学したのね」

 この言葉を言ったとき、指先がピクリとしたような気がしたが、錯覚かもしれないと直美は思った。


 直美は、規定の三十分、ただ栄美の顔を見ていただけだ。直美から一言発して、栄美はなにも答えなかった。栄美の目は直美に向けられてはいたが、何も見てはいなかった。多分取り調べの刑事や弁護士に対しても同じなんだろう。


「新左翼なら、なにも喋らないと思うよ」


 ジイチャンが行ったとおりの反応だった。


 栄美は、父と四十歳以上離れていた。父は、○○派の新左翼で、若い頃は武闘派で名前が通っていた。栄美の母と結婚し、いわゆる市民活動家になっていった人物で、かもめ女子高校時代、うるさい保護者で通っていた。そのトバッチリを受けた栄美は、みんなから敬遠され、虐められるようになった。


「栄美のお父さん、新左翼だったんだってね」


 クラスの勝ち気な子が無口になっていった栄美にサラリと言った。他のことは何を言われても聞き流していた栄美は、この時は、その子に掴みかかった。そして、かもめ女子には珍しい野良犬同士のようなケンカになった。

 直美一人が間に入った。


「お父さんが、なんであろうと、栄美には関係ないでしょ!」

「直美こそ、関係ないじゃん。横から口出しすんなよ!」

 その子が払いのけようとした手を掴んだら、ねじり上げるようなカタチになり、その子は右腕を脱臼してしまった。


 直美は、暴力行為だと自分から認めて学校を辞めた。誰かが辞めなければ収まりがつかない事態だった。


 退学届けを出しに行った日、栄美は泣きながら直美に謝った。

「気にしないで。高校は、ここだけじゃないから」

「あたし、これから変わるから……」

「あたしも、それで辞め甲斐がある」


 それから、父親が面会して、こう言った。


「栄美、やらかしたな。いまどき武装闘争なんてアナクロだぞ」

「……父さん」

「なんだ?」

「市民運動なんてママゴトで日和ってんじゃねえよ! てめえが投げ出した武装革命真剣にやってんだよ! くされ新左翼は消えて無くなれ!」

 そう言って栄美は椅子をけ飛ばし、面会は一分足らずで終わった。


『娘を新左翼の亡霊にして』という記事を父親は週刊誌に書いた。半分以上は自己批判というカタチを借りた市民運動のプロパガンダだった。

「こいつが、栄美をダメにしたんだ……!」


 直美は、週刊誌ごと、真っ二つに引き裂いた。


「直美……」


 玄蔵祖父ちゃんは、思わず手にしたカメラを落とすところだった……。



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