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須之内写真館  作者: 大橋むつお
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2・杏奈……再発見

須之内写真館・2

【杏奈……再発見】        



 直美は、ただの街の写真館の四代目で終わる気はなかった。


 というより写真館の将来は明るくない。


 シャメやデジカメ、自家用のプリンターが普及した現在、須之内写真館の仕事の半分であるDPE[Development - Printing - Enlargement]の仕事は、ほぼ絶滅していた。

 直美の父は、それなりに先見の明があり、前世紀の80年代に爆発的に普及したインスタントカメラのDPEの仕事を取り入れた。

「うちは、写真屋じゃねえ、写真館なんだ」という祖父の反対を押し切り、若かった父は、それなりに成功した。

 しかし、二十一世紀に入って5年ほどで、行き詰まった。原因は、さっき述べたようなことである。

 四代目を引き継ぐ条件として、直美は「将来は、写真家になる」ことを条件とした。

 芸大の映像学の写真科を出た直美には、それだけの自負があった。


 しかし、現実は厳しい。


 最初から大手の専属カメラマンなど望んではいなかった。フリーのカメラマンとしてそこそこやっていけると思っていたのである。学生時代、写真のコンテストで、何度かいい結果が出せたことが自信に繋がっていた。


 なんとか、気まぐれに回ってくる仕事をこなすことで、プロ写真家としての自分をキープしている。


 今日も、店の手伝いをさっさと済ませ、勘だけを頼りに、東京の街を愛車ナオでロケハンしていた。

 ナオは車ではない。特注の折りたたみ自転車で、重さは、たったの7キロ。たたんでしまえば高校時代のサブバッグに収まってしまう。自分よりちっこくて軽いので直美をカタカナにしてミを取った。それにカメラ二台だけ持って出かける。


 先月は、乃木坂の地下鉄の入り口に軽自動車が頭から突っこんでいくところに出くわし、さっそく、いいアングルで十枚立て続けに撮って、新聞社と週刊誌に売れた。むろん警察に通報もし、乗っていた人たちの救出にも手を貸した。

 原因は、無理な追い越しをかけた車を除けようとしたこと。直美は連写でそれも撮っていたので、その車の運転手は、すぐにご用になり、警察から感謝状までもらった。

 しかし、それは単なるスクープ写真としか取り上げてはもらえなかった。運転していたオネエサンの当惑と怒りと、笑っちゃうシチュエーションへの微妙な表情はいけていたが、本人の許可がもらえず、お蔵入りになってしまった。


 お父さんのアドバイスで、新宿の下町、裏町をナオで走ってみたが、父の記憶にある下町はどこにもなく。裏町は表の歌舞伎町を含め、おっかなくって入り込めなかった。


 それでも、あれこれ百枚ほど撮ったあと、オーラを感じた。幸せのオーラである。

 カメラマンには予感に似たオーラの感知能力がある。良きに付け悪しきにつけではあるが。


 カメラのレンズの先には、OLがスマホで、とびきりの幸せを体中から発散させ、無意識の幸せダンスを踊っていた。なんだかAKBの『恋するフォーチュンクッキー』の小ぶりなフリに似ていなくもない。


「すみません。今の貴女を写真に撮ったんですけど、作品にさせていただいていいですか?」


 決まり文句を言う。相手を警戒させない適度な明るさも自然に出てくる。また、直美自身の人なつっこさもあって、たいてい、この一言でOKが出る。

「え、あたし撮ってたんですか、やだ」

 と、言いながら、顔は幸せモードのままである。

「ひょっとして……プロポーズの電話?」

 瞬間OLさんの顔は、頬を染めたニコニコマークのようになった。直美は、すかさず、「おめでとう」と言いながら五枚ほど撮った。

 写真をモニターで見せると喜んでくれた。別にスマホで数枚撮って、最後の一枚は通りかかった学校帰りの女子高生に二人で撮ってもらった。そして、それはOLさんのスマホに転送してあげた。

「入選したら、作品送って下さい」

 それだけが、彼女の条件で、メアドを交換した。


――さあ、ショバ変えようか――


 いい被写体は、そうそう転がってはいない。潮時というものがある。

 ただ、今日はついているような気がして、ショバを暮れなずむ渋谷に求めた。

 まずは、ご挨拶にハチ公を撮る。こいつはなんの考えもなく撮る。すると、数百枚に一枚ほど、とてもいいハチ公が撮れる。

 ダメモトで、駅前の風景を撮る。その流し撮りの中に、見えてしまった。


 ガールズバーのコス姿で、ティッシュを配っている杏奈の姿が……。



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