第二 主人公の身分について その1 ~いわゆる、「王子様」ポジです~
本章である第五章に突入した時点で。
主人公の身分を、「従五位下・男爵・右馬頭・近衛小隊長」としました。
王朝ものを意識した設定です。
王朝もの(平安もの)と言えば……いまの方は、「姫のためなら○ねる」でしょうか。
私の頃には、あれです。「なんて素敵にジャ○ネスク」です。
読んでいて、本筋以外のところに興味を抱くようになりまして。
それを「王朝もの」を意識した、「異世界王朝物語」に反映しております。
「ジャパネ○ク」で、いちばん気になっていたのが。
「その時、近衛少将・高彬くんは何をしていたのか」であります。
宿直のシーンや、「春宮に嫌がらせをされて残業漬け」的な描写が出てきましたけれど。
具体的に何をしていたかが、少し分からなくて。
それはもちろん、主役は瑠璃さんなわけですから、描写されないのは当然なのですけれど。
で、「官僚仕事」のほうをひとつの柱にして、何か書きたいなあと。
「男主人公の王朝もの」というわけです。
王朝ものと言えば。
主演男優は皇族か頭中将と相場が決まっていますよね……たぶん。
とにかく頭中将は、花形です。
「王子様」ポジを張らせるなら、ここに位置づけておけば間違い無し。
高彬くんは、十代でしたので。それよりは地位が低くて。
作中で衛門佐から近衛少将へと出世していましたけれど。
ともかく。
「それなら、いきなり頭中将、あるいは近衛少将への転生」を!
ということも、少し考えました。
けれど。
周囲との兼ね合い・突つき合い。何より「権力の扱い方」の問題があります。
転生主人公がいきなり最初からそれを上手にやっていける姿を、描写できる気がしなかったもので。
それで、「十代半ばで公達デビューする前に、いろいろと経験を積んだんだよ」という前フリとしての第一章~第四章を置きました。
なお、「異世界転生」ですので。
社会制度・身分制度は、「平安朝そのもの」というわけではありません。
設定集と銘打っているのだから、全体像を示せば良いのですけれど。
それはまた後日とさせてください。
とりあえずは、主人公の地位、その周辺から。
なお、近衛については、当初は中国・宋代的な制度にしようと考えていました。
一章~三章に時々出てくる「殿前軍」という言葉が、そのなごりです。
いつか訂正します。
さて。
平安朝における、貴族(公達)の軍職は、六衛府です。
近衛府、兵衛府、衛門府。
それぞれ左右があり、3×2=6つの「衛」がつく役所だから「六衛府」。
この中でも左右の近衛府は、「ひとつ格上」というイメージです。
そこで。
「異世界王朝物語」では、この六衛府を「近衛府」ひとつに統合してしまいました。
平安朝における、近衛府の長官は「近衛大将」です。
大臣や大納言級、年齢的には壮年以上が就任します。
物語の中でも、そこは踏襲しました。
メルとキュビがいるので、ちょうど良い。二つの家の指定席に設定。
問題は、近衛中将です。
フィクションの世界では、二十代の若手が就任し、恋物語に宮廷陰謀劇に大活躍!なのですけれど。
実際の制度を見直してみると、少なくとも平安後期までは、もう少し年長者が就任していたような節が見られたのです。
ジャパネス○の高彬くんが典型ですが。
「侍従(中務省の役人)→兵衛佐→近衛少将→近衛中将(あるいは弁官)→参議」が、エリートコースです。
参議は、いわば「閣僚」ですので。
近衛中将がどれほど若くとも、二十代後半ではないかと。
「十代で近衛少将」は、それこそ右大臣の直系である高彬くんならでは。
源氏物語の「頭中将」も、「雨夜の品定め」の時点で、15歳の光る源氏の君から最低限5つ年上、おそらくはそれよりもやや年上。二十代半ばの雰囲気があります。
それですら、例外的です。「左大臣の息子で右大臣の娘を妻にしている」、スーパーサラブレッドだからこそ、その年で中将なのです。
それを意識して物語を作りますと、中将にあたる「近衛中隊長」は、よほど若くて三十前後。
少将にあたる小隊長に十代半ばで着任できるのは、「イーサン・デクスターただひとり」ということになります。
それでは、主人公が王朝物語に参加できませんので。
極東で「将軍職」を設定したのをこれ幸い、「中将や少将(中隊長・小隊長)の上には将軍がいる。若手の仕事であり、平安朝よりは身分が軽い」と設定したと。
そういう次第であります。
近衛府を「六衛府を統合したもの」……つまり、平安朝の6倍の規模があるものとし。
さらに、小隊長の地位を引き下げ。
そうすることで「椅子の数」を増やし、「任官の敷居」を引き下げました。
それでやっと、「十代の近衛小隊長」に主人公を位置づけたというわけです。
そう申し上げますと。
「やっぱり主人公、情けないじゃないか!おいしい思いをしてないじゃないか!」
と、思われてしまうかもしれませんけれど。
いや、「十代で近衛少将」は、それこそ「源氏物語」の「頭中将」、「ジ○パネスク」の「高彬」くんレベルです!と。
異世界王朝物語では、それに相当する「近衛小隊長」が「何人も存在する」ことになっていますけれど。
それでも「王子様」ポジなんです!と。
そういうことを申し上げたかったのであります。