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59 不完全

 小太りの男が俺に跳び掛かってきた。両手には黒くて丸い光が握られている。

 俺は宙に浮いているそいつを、全てのレプリカの銃でロックオンし、すぐさま撃ち込む。しかし、それらを直撃しても小太りは構わずこっちに突っ込んできた。顔を突き出し、醜悪に笑いながら。

 盾の前で黒い光が爆発する。それと共に小太りも吹き飛ぶが俺も吹き飛ぶ。


「ぐっ……」


 なんとか体勢を立て直すと、今度は細身の男が宙を飛んでいるのが見えた。そこから大量の黒い光の線を放ってきた。

 それを百合乃が対抗するように光の線で撃ち消そうとする。だが、相手の方が一度に放てる量が多いのか、幾つか撃ち漏らし、俺が慌てて盾で防ぐ。

 やはり楽に勝てそうな相手ではない。


「こいつら笑っているだけで、喋らないのな」

「今日、何食わぬ顔で生徒会にやってきた時から、にやにやしているだけで一言も喋っていない」

「なんだそれ」


 出来上がっていく黒い壁によって、鎖で作られたドームの中が徐々に暗くなっていく。ここにきて奴らのしたいことが何となく分かってきた。

 暗闇の中では黒い魔法は見え難く、逆にこちらの光は目立つ。放った瞬間に自分の居場所を教えることにもなる。さらに、今更気付いたが、俺の青色透明の盾と銃は暗闇の中で仄かに光を帯びていた。レプリカの銃も本物の神器程ではないけど、やはり光っている。


「不味いな……」


 百合乃が光の線で黒い壁を攻撃してみたが、びくともしないようだった。次に、まだ黒い壁が辿り着いていない、上の方にある鎖へと光の線を放つ。だが、それは細身の男によって撃ち消されてしまう。


 そして、ドーム内は完全な暗闇に包まれた。


「百合乃、生命体の位置を魔法で分かるんじゃなかったっけ?」

「無理。精度が悪すぎて、この距離だとほとんどが重なって見える。何となく分かるという程度だから」


 この暗闇では目立つ俺の盾と銃だが、丸腰になるわけにはいかないので仕舞うこともできない。

 しかし、これだと完全に的だった。奴らの黒い光は間近に迫ってやっと気付けるレベル。


「くそっ!」


 必死に盾で黒い魔法を防ぐが、後手に回ってしまう。

 ぬっと小太りが目の前に現れた。両手に黒い光を持って。

 その片方を盾にぶつけてきて、俺は吹き飛ばされてしまう。

 衝撃で盾を握った腕が後ろへと開く。そのせいで前方ががら空きになる。

 再び目の前に小太りが現れた。

 もう片方の手に握られた黒い光を俺に叩き付けようと。


「このっ」


 それに対して俺は女神トゥトゥンイィの銃を振り回す。

 暗闇の中で青い光が幾つもの弧を描く。

 しかし、小太りは思ったより素早くそれを避け、その動きでまた闇の中へと消えていった。


「がっ……」


 吹き飛ばされていた俺は、思いっきり壁に背中と頭をぶつけてしまった。

 くそ、暗闇だと壁の位置すら把握するのが難しい。


 小太りだけでなく、細身まで俺を攻撃してくる。

 百合乃は作戦でも練っているのか、闇の中で息を殺しているようだ。そのため、そっちの位置は分からないからだろう。

 直前になって大量の黒いレーザーに気付き盾で防ぐものの、どうしても幾つかの線が俺の体をかすっていく。


 レプリカの盾はどうなのだろうか。

 まだ、使ったことはないが有効かもしれない。

 イメージしてみる。

 ……しかし、出てこない。

 レプリカの銃があると出せないのかもと思い、それを消してからもう一度イメージしてみた。

 すると、灰色で小型の盾が大量に、宙を浮くようにして俺の前にずらっと現れる。


 その小型の盾が俺のことを勝手に守ってくれる。

 黒いレーザーが飛んで来たら、そちらの方へと動く。

 レーザーが当たるとその盾は消えてしまうが、数秒後にまた復活していた。

 かなり使えるが、このままだと防戦一方だな。


 その時、俺の近くで丸い光が現れた。野球の球程の大きさ。

 出したのは百合乃だった。

 彼女はそれをドームの上部へと投げる。

 そして、その光はそこで止まり部屋を照らしてくれた。


「ナイス……」


 そう思ったが、結局それも相手の攻撃によって一瞬で消されてしまったようだ。

 百合乃が俺の側にやってきた。


「こうなったら私がひたすら魔法を撃ち込むから、その光を頼りにして」


 そう言うとまた俺から離れ、そして宣言通り、光の線を休みなく撃ち始める。1度に数発分をドームの至る所に。

 その光の軌道と、壁にぶつかり生じた爆発である程度ドーム内が把握出来るようになる。


 百合乃は自分の位置を特定されないため、光の線を撃つ度に移動していた。さらに、撃った時に生じる光で自分の周囲を瞬時に把握して、壁の位置も確認しているように見えた。でなければ、あそこまで頻繁に移動を繰り返しながら、壁に一度も当たらないということはないだろう。

 ただ、あれだけ魔法を放っていたら、いずれ体への負担もかなりのものになるはずだ。

 女神トゥトゥンイィの銃で一人でもいいから倒したい。

 だが、光が灯ったり、消えたりする度に奴らは場所を移動しており、照準を合わすことが難しかった。


 後ろにいる左右コンビの動きは鈍いから、あの二人のどちらかなら。

 そう思った時だった。

 足に何かが絡みつく。


「なっ……」


 鎖だ!

 床から伸びてきて、俺の下半身の動きを止める。

 俺の側でもガチャリと鎖が鳴る音が聞こえてきた。

 それと共に百合乃の攻撃が止まる。

 百合乃も捕まったのか?


 小太りがこっちに向かって跳んで来るのが見えた。

 ある程度、距離がありながらそれが分かったのは、奴が手に持つ黒い光が今までになく大きかったから。さっきまでの物よりも強く光っている。

 レプリカの盾がその黒に触れるだけで消えていく。

 まずい。

 右手に持つ銃を、足に絡まった鎖に叩き付けて壊そうとするが、幾つか残る。

 これ以上、鎖に構っている場合ではない。

 俺は迫って来る黒い光を前に盾を構えた。

 そして次の瞬間、今までにない大きな爆発が起きた。

 足にまだ絡まっていた鎖まで壊して、俺は吹き飛ばされる。


「がはっ……!」


 壁に叩き付けられ、前後からの衝撃で一瞬気を失いそうになる。

 同じ頃、すぐ側で百合乃も壁にぶつかり、彼女も一緒に吹き飛ばされたのが分かった。


 今度は上の方が鈍く光る。

 細身の後ろに、直径が彼の身長ぐらいの黒く光る円盤が出来上がっていた。

 そして、そこから天使の羽と同じような物がこちらに向かって降って来た。


「次から次へと!」


 百合乃が俺の側で立ち上がる。

 息を荒げながら一瞬で小さい天使の羽が出来上がった。

 黒い雨目掛けて、それを放つ。

 すぐさま俺達の目の前で小さな爆発が何十も起こる。

 だが、あれに対して小さな天使の羽では足りない。

 残っていたレプリカの盾を俺達の前に並べる。

 それでもなお、全ての黒い雨を止めることが出来ず、俺達に降り注いできた。

 最後は百合乃を庇いながら、本物の女神トゥトゥンイィの盾でやり過ごす。


 やはり純粋なる魔力人形は、今までの出来損ないと比べると魔力が桁違いだ。

 レオ戦に備えて力を温存しておきたかったが、そうも言っていられない。

 痛みを堪え、動き出す。このまま同じ場所にいたら、また右田(うだ)の鎖に捕まってしまう。

 そう思って移動しようとした時、どさりと床に何かが落ちる大きな音がした。


「なんだ?」


 ドーム内の2か所に、いつの間にか蛍の光のような集まりが出来ていた。

 すぐにそれが、あの純粋なる魔力人形の2人から発せられていることに気付く。その小さな光が彼らを照らしてくれたから。彼らの肌が剥げ、そこから白い光が漏れていた。顔や体の形も何かおかしい。

 映画やゲーム等で見たゾンビのように、形が崩れていっている。融けていっているようにも見える。


「本来、相当時間掛ける物を数日で作ったと言っていたから不完全なのかもしれない」


 百合乃の言葉に頷く。

 不完全な状態で強い力を使った反動か。


 白い光はどんどん広がっている。千木良(ちぎり)先生の体の中と似たよう光。

 その光でドーム内が明るくなった。俺の盾や銃の仄かな光など目立たなくなるぐらいに。

 この事態には奴らのすぐ後ろにいる、左右コンビも驚いている。

 凸凹コンビの動きもなんか鈍い。

 暗闇に光る彼らは完全な的。


「今がチャンスだ」

「うん」


 百合乃がまた小さな天使の羽を一瞬で作り上げ、細身の方に放った。

 俺も女神トゥトゥンイィの銃を素早く照準を合わせて、小太りの方に向けて撃つ。ちょうどその直線状には右田がいる。

 俺達の攻撃を避けることも出来ず、直撃した二人の純粋なる魔力人形は、完全に体の形を失う。

 彼らを構成していた白い光が液体のように地面に散らばり、辺りを照らす水溜まりが出来た。

 そこから復活する気配はない。


 そして、俺の放ったエネルギー砲はそのまま右田も襲う。

 これでこいつも終わりか。

 なんてことを期待してみたが、やはりそう簡単には終わらない。

 右田の前に大量の鎖が次々と生えてきて、その半分を壊しながらも俺のエネルギー砲は消えてしまった。純粋なる魔力人形を貫いて、既に勢いが弱っていたというのもあると思う。


 魔王化した左右コンビも一筋縄では行きそうにないな。

 だが、やばそうな二人が消えて、だいぶ戦況は良くなったはずだ。

 しかし、純粋なる魔力人形か……ちゃんと作られた奴と対峙することになったら、相当厳しい戦いになるだろう。

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