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49 レプリカの使い方

「こういう使い方は知らない?」


 後ろに円を描くようにびっしりとあるレプリカの鎌に触れながら、ユメミ先輩はそう尋ねてきた。

 本物と比べると若干小振りかもしれない。


「なんだよ、その数……」


 あの大量のレプリカを使って、俺のエネルギー砲を防いだのか。


 ユメミ先輩が片腕を斜め上へと上げた途端、それらのレプリカが空中へと浮かぶ。そして、指を鳴らすと回転し始め、炎に包まれる。

 この人は化け物かよ……。


 大量に回転する赤い風車。

 ユメミ先輩が斜め上に上げた腕を下ろすとともに、それらが俺の方へと向かって来た。


「くそっ!」


 必死に盾と銃で防ぐが、完全に劣勢だ。このままだとまずい。

 もし、ユメミ先輩の鎌が女神の武器なら、俺にも似たようなことが出来るのでは?

 レプリカ、それを頭の中でイメージしてみる。まずは銃を。

 その瞬間、俺の両脇に何かが現れる。

 元の女神トゥトゥンイィの銃の半分ぐらいの大きさの灰色の銃が、両脇の下にそれぞれ10丁程、体にくっ付くようにして出現していた。


 右目に3Dのシューティングゲームのようなロックオン画面が映る。

 撃てるのか?

 レプリカの銃だと大して魔力も使わないのかもしれない。

 右目に現れた中心の丸に、空中に浮かぶレプリカの鎌を一つ一つ捉えていく。

 1ロック、2ロック……4ロック……8ロック。

 そして、20ロックした所で、それぞれの銃に魔力が充満したのを感じた。

 邪魔をしないよう両手を広げ、全てのレプリカの銃を撃つ。

 すると、細いレーザー光のような物がそれらから放たれ、ホーミングしながら次々と赤い風車を撃ち落とした。


「はぁはぁ……はぁはぁ……」


 まだ魔力的にレプリカの銃なら撃てそうだったが、体の負担は半端なかった。

 一方のあちらさんは涼しい顔で、既に新たな赤い風車を空中に浮かべている。

 どんだけストックがあるんだよ。体に負担はないのかよ。

 一応、レプリカの銃で防げるとはいえ、状況は苦しいままだ。


 ユメミ先輩が片側の口角を上げて、また笑った。

 長い髪が後ろに広がり、炎と共に回り出す。

 あの巨大な炎の柱を、まだ出せるだけの魔力があるのか。

 だが、今回はそれで終わりではなかった。

 周りに浮かぶ赤い風車状態の、炎を纏ったレプリカの鎌からも火柱が発射される。それらが巨大な炎の柱の周りを、ドリルのように螺旋状に覆っていく。


 信じられない程の魔力を蓄えた炎がこちらに迫ってくる。

 やるしかない。あの黒いエネルギー砲で終わらす。

 もう、どうなろうとも知ったことか。

 右腕にある女神トゥトゥンイィの銃に力を込める。


「うおおおおお!!!」


 叫んだ瞬間、あの白い空間に移動する。

 あの魔王少年、俺が名付けたヒカル少年がいる場所へと。


「はぁはぁ……」


 少しここで落ち着かせて貰おう。


「あ、イクトお兄ちゃん、なんか大変そうだね」

「ああ、ちょっと困った女の人がいてな。って、お前もなんかいつもと違うな」


 ヒカル少年は前と同じで薄緑色の髪で、他は黒いシルエットのまま。だが、少し体を前屈みにして、焦ってる様子が窺えた。


「こっちもちょっと困った女の人がいるんだ。口の片方だけ上げるような笑い方して」

「笑い方まで一緒かよ」

「むかつくよね。こっちを小馬鹿にしたように見てきて。赤色の長い髪してて、魔王の一人らしいんだけど、幾ら爆発が起こってもバリアみたいなので防がれちゃうんだ。こんなの初めてだよ」


 ユメミ先輩と意外と気があったりして。


「向こうは攻撃してこないのか?」

「うん……攻撃はしてこないね」

「ならいいじゃねえか」


 こっちはずっと激しい攻撃を食らいまくっているんだ。

 しかも、なんで戦っているのかも分からない。

 俺との共鳴が煩わしいからなのか、それとも愛情表現か何かなのか。

 本人はじゃれ合っているだけなのかもしれないけど。

 勘弁してほしい。


「あなた少し変わったわね、って言われたんだけど……」

「以前にも会ったことあるのか?」

「ないよ!」


 少し怒ったように言われる。

 だよな。俺が初めて喋った人だと言っていたからな。


「でも、あるのかも……」

「どっちだよ!」


 怒ったと思ったら、今度は弱気な言い方に変わる。


「ボクらの世界じゃ、あまりにも力の差があると、戦っても弱い方はその時の記憶を失うらしいんだ」

「つまり、以前のお前とその女には相当な力の差があったと?」

「だとしたら嫌だな……」

「せっかくだし仲良くなればいいじゃん。吹き飛ばせないなら、いい話し相手になるんじゃないの?」

「えっ!? 嫌だよ」

「そんなに強い相手なら、なんだっけ? 黒い存在? それが近付いた時に起こる爆発を抑える方法、分かるかもしれないぜ?」

「うーん……うーん……」


 相手の女がどういう人なのかも分からないのに、少し無責任な発言かもしれない。でも、敵でもないのに攻撃してきたユメミ先輩より話せる相手なのではないだろうか。俺以外にも話し相手が出来るのもいいことだと思うし。


「そろそろ行くわ。頑張ってな」

「うーん……分かった。またね」


 彼のその発言と共に、視界の映像があの古い洋館へとスライドしていく。

 いつも通り、体に緊張が戻る。

 俺のすぐ近くに大きな炎が止まっているのが見えた。

 時が動き始めた瞬間に照準を合わせて撃つ。その先のことを考えている余裕はない。


 急に炎の熱を肌に感じた。時が動き出したのだ。

 俺は女神トゥトゥンイィの銃口を迫って来る炎に向け、一瞬で照準を合わせる。


「消し飛べ」


 引き金を引いた瞬間、全身に激痛が走る。

 この痛みのことを忘れていた!


「ぐっ!?」


 必死に頭を上げ、黒いエネルギー砲の行く末を見届けようとする。

 どんどん、巨大な炎の柱をかき消していく。やはり、この黒い力は凄まじい。

 全ての炎が消えた後、ユメミ先輩の前に以前と同じで灰色の物が現れた。

 大量のレプリカ。

 それによって、黒いエネルギーは徐々に勢いを失っていくが、今回は完全に消える前に、ユメミ先輩が押し負けるようにして吹き飛んだ。そのまま、盛大に壁にぶつかり、それを壊した所で彼女は止まったようだった。


 さすがにもう終わりだよな?

 こっちはもう女神の武具は全て消えていた。体も痛くて思うように動かない。


 壁が壊れた所では、石の欠片等が上からパラパラと地面に落ちていた。

 壊れたときに生じた白い煙が収まっていく。

 そして、ユメミ先輩の姿が現れる。

 出来た瓦礫の山に寄り掛かるようにして、こちらを不機嫌そうな顔で見ていた。

 思わず唾を飲み込む。


 彼女は口から血を垂れ流していたが、あとは軽い痣が出来ている程度でほとんど無傷に見えた。

 

「ぺっ!」


 立ち上がると口から血を吐き出す。そして、右手でその口を拭った。


「全然、お嬢様っぽくない仕草ですね……はは」

「……」

「ここら辺でやめにしませんか……?」

「やだ」

「ですよね」


 ユメミ先輩が無表情でこちらにつかつかと近付いてくる。

 やばい。俺、この人に殺されるかも。

 痺れの残る体に鞭打って、必死に立ち上がる。

 何をするつもりなんだ……。

 思わず後退り、近くの壁に背中が当たる。

 彼女が腕を伸ばしてきて、その壁へと体を押し付けられた。

 二人の体が密着する。


「なにを……」

「はぁはぁ……」


 ユメミ先輩が息を荒げながら、顔を近付けてくる。

 口付け……される……?

 しかし、彼女も相当疲弊していたのか、その前に崩れ落ちるようにして俺に抱きついてきた。

 そのまま俺も壁に寄り掛かるようにして、座り込む。

 俺達の吐息だけが辺りに響く。


 その時だった。

 玄関の扉が壊れるようにして、何かが吹き飛んできた。

 必死に目を動かし吹き飛んだ先を見ると、黒服の男が倒れている。

 続いてメイド服姿の女性が転がり込んできた。彼女もそのまま倒れる。

 そして、百合乃がゆっくりと館内に入って来るのが見えた。

 戦っていたのか……。全然、気付かなかった。


夏凪(かなぎ)ユメミさんですよね? 何をしているんです?」


 静かな声音。しかし、そこには怒りが込められているのが俺には分かった。

 ユメミ先輩が立ち上がる。

 彼女の方を見上げると、不敵に笑っていた。


「1か月前の方……。ねぇ? そうでしょう?」

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