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41 魔王少年再び

「やあ、イクトお兄ちゃん。また、会えたね」


 相変わらずの黒いシルエットで少年は立っていた。

 だが、今回は髪だけ色が付いている。薄緑色。三津谷(みつや)先輩と同じ色。

 こいつと初めて会ったのは、あの時だっけ……。


「自称魔王少年か」

「自称じゃないよ。まあ、ボクも魔王かどうかなんて、どうでもいいけど」

「なんで魔王なんだ?」

「お父さんが魔王だったから。それで、お父さんがいなくなって、ボクがこの地域の王ということらしいよ」


 この白い世界は、不思議と落ち着く。戦闘の興奮も収まっていく。

 また、さっきの世界に戻れば、あの興奮も蘇ってくるんだろうけど。


「まだ小さいのに、お父さんいなくなっちゃったのか」

「うん。皆いなくなっちゃった」

「なんだって?」

「ボクが皆を殺しちゃったらしいんだ。生まれた瞬間に爆発を起こして、ここら辺全部吹き飛ばしちゃったって。建物は元に戻ったけど、命は戻らないんだね」

「……」


 俺は思わず後退る。やっぱり危ない奴じゃねえか。


「大丈夫だよ。実際にボク達は近くにいるわけじゃないし」

「そう……なのか?」


 その言い方は、実際に近くにいたら何かあるってことだよな?


「それに、ボクと同じ黒い存在じゃなければ大丈夫だと思うよ」

「その黒い存在とやらが近くにいたら、もしかしてその爆発が起こるのか?」

「そうみたい」


 とんでもない奴と出会ってしまったな。

 やはり、魔王と呼ばれるだけの存在ではあるのか。


「ひょっとして、生まれた時からずっと一人な訳ではないよな?」

「一人だよ。この世界でボクに近付ける人はいないから」

「それにしては、色々と知っているみたいだけど?」

「空気中にある魔力が色んなこと教えてくれるんだ」


 魔力だけが友達。なんか他人事ながら悲しくなってきたぞ。


「だから、誰かとちゃんと会話したのはイクトお兄ちゃんが初めてなんだ!」

「そりゃあ、責任重大だな……」

「それで、ボクの名前は考えてきてくれた?」


 まるで、今からプレゼントを貰う子供のように嬉しそうだった。

 どうすっかなあ。


「もうちょっとお前のこと教えてくれよ」

「えー。何を教えてほしいの?」

「お前がいる所はどういう世界なんだ?」

「うーん。どういう世界?」


 魔王少年は顎に指を当てて考えている。


「色んな所で喧嘩が起こっているみたい。魔王はボク以外にも3,4人いるらしくて、年がら年中揉めてるよ。ボクの所にも魔王の仲間みたいなの来たことあるけど、何かする前に吹き飛んでいっちゃった」

「物騒な世界だな」

「そう。むかつくよね。だから、イクトお兄ちゃんもこっちに来て、一緒にこんな世界ぶっ壊しちゃおうよ。皆ボクのことが嫌いみたいなんだ。だから、ね!」

「嫌だよ」

「他の魔王は仲間がいるのに、ボクだけ一人なのはかっこ悪いじゃん」

「そりゃ、誰か近付けば爆発しちゃうんなら、一人になるだろ。まず、それを直せよ」

「むー! さっきも言ったけど、イクトお兄ちゃんは大丈夫だって!」


 頬を膨らませ、両手を振って地団太を踏んでいる。

 いやいや、大丈夫じゃないから。


「あのな、俺が直接の起爆剤にならなくても、なんだ、その黒い存在って奴が近くにいれば、俺も巻き込まれるだろ?」

「あ、そっか……」

「だから、ちゃんと制御出来るようにならないと」

「うん……」


 なんだか、急にしおらしくなってしまった。

 まあ、世界が別なんだから、ここ以外ではまず会うこともないだろうけどな。


「そういえば、この白い世界は何なんだ?」

「ボクとイクトお兄ちゃんが、おしゃべりする場所」

「ある力を使おうとすると、強制的にここに来させられるみたいなんだが?」

「ボクの力を使おうとしたからね。ボクの力を使ってもいいけど、ちょっと相手してよってこと」


 やはりあの黒い力はこいつのだったのか。

 視線の片隅に映るオカルト部の部室は、相変わらず時が止まっている。そっちに戻ろうと試してみたが、強制的にこっちの世界に固定されているようだ。


「お前が了承しないと、戻れないのか?」

「奪っていったボクの力は大したものではないから、ボクが了承しなくてもすぐ戻れるよ」


 少しは強制力あるけど、すぐに無くなるってことか。

 それなら良かった。こんな所にずっと閉じ込められても困るからな。


「でも、大したものではないと言うけど、結構凄い力だったぜ?」

「一点に集めて使えば、それなりのものになるのかもね」

「お前も俺がここに来たら、こっちに飛ばされる仕組みなのか?」

「ボクは2つの世界に同時にいられるから、力を奪われた日からずっとこっちにもいたよ」

「ひょっとして俺のことを待っていたのか?」

「うん! なんだか良く分からないけど、凄く会ってみたくて。それで、一度話してみたら、また話したくなっちゃった。早くまた来ないかなぁってずっと待ってたんだよ」


 うっ……あまり嬉しくない。可愛い女の子にこんなこと言われたら嬉しいんだろうけど。

 でも、今までまともに他の人と接したことがなかったんだよな……。


「イクトお兄ちゃんと初めて話してから、一人で待ってる間、なんか嫌な気分で……これが寂しいって気持ちなのかな……」

「そういう感情もあるんだな」


 少しほっとした。魔王とは言え、俺達と似たような部分もあって。

 こいつのいる世界で、話し相手になれる奴がいればいいんだけどな。


「ところで、今日は辛そうじゃないんだね。前回は辛そうだったけど」

「今日も色々と大変だけど、なんとかなりそうだからな」

「前回はそうじゃなかったんだ?」


 一瞬、言葉に詰まる。

 でも、この魔王少年には何故だか分かって欲しいと思ってしまった。人間の感情という物を。


「大事な仲間を失いそうだったからね」

「その人は大丈夫だったの?」

「ダメだった」

「辛いの?」

「辛くて悲しい」

「悲しいってどういうものなの?」

「お前は俺と話せなくて寂しいと言っていたけど、もしその状態が一生続くとしたらどう思う?」


 彼とは出会ってまだ2回目だ。しかも、前回はかなり冷たく当たってしまった。だから、普通ならこんなことを聞いた所で、悲しいという気持ちは理解出来ないだろう。

 でも、俺達はそれぞれの物を交換している。俺は彼の黒い力を、彼は俺の記憶を、それぞれその一部を貰ったんだ。いや、借りたのか? とにかく、それが互いを特別な存在にしているような気がした。なので、聞いてみた。


「えっ!? そんなの嫌だ。嫌だよ。だって、寂しいし……ずっと嫌な気分が続くと思うから」

「嫌でもどうすることも出来ない。認めなきゃいけない」

「命は戻らないから……これが辛くて悲しい……なの?」

「そうかもな」


 魔王少年は少し俯き、唇を噛んでいるのが分かった。


「親のことはどう思っているんだ?」

「分からない。一度も会ったことないし。でも、こうなること分かっていて、ボクを生んだんだって。お母さんもお父さんも。命は戻らないのに……なんで、そんなことしたんだろう」


 彼のいる世界は、俺達よりだいぶ違うように思える。恐らく価値観とかも。

 でも、同時に親が子を思う気持ちはあまり変わらないのかな、とも思った。そうであって欲しいとも。

 もちろん、俺達の世界だと、魔王少年の両親がしたことはかなり酷なことだけど、彼の場合は一人でも生きていけるわけだから。情操面を除けば。まあ、情操なんて物は必要のない世界なのかもしれないけど。


「俺が失った大事な仲間の人の名前は、三津谷ヒカルと言うんだ」

「うん」

「そのヒカルという名前はどう?」

「ボクに悲しいという気持ちを教えてくれた人の名前、ヒカル……いいの?」

「ああ。男でも女でもいける名前だと思うし。彼女もお前と同じで薄緑色の髪をしていたんだ」

「ほんとに!?」


 彼は自分の名前の元になった人との共通点を知って、嬉しそうだった。

 感傷的になり過ぎたかもしれない。

 完全にこの世から存在を消された人のことを何処かに残しておきたかった。

 これで本当に良かったのだろうか。今更、もう遅いけど。

 でも、今後、このことを悔やむかどうかは、これからの俺次第のような気がした。


「イクトお兄ちゃん、ありがとう! 今日からボク、ヒカルって名乗る! えへへ」


 魔王ヒカルか。俺はそんな物騒な名前じゃなくて、ヒカル少年と呼ぼうかな。


「じゃあ、ヒカル少年、そろそろ元に戻っていいかな?」

「うん! 頑張ってね!」

「ああ」


 ヒカル少年が、もの凄く激しく手を振ってくれている。その激しさに思わず笑ってしまう。

 その映像がちょっとずつ右へとズレていき、徐々にオカルト部の部室に変わる。

 それとともに、体に緊張が戻っていく。


「ん?」


 ヒカル少年の力を使うと、いつも以上に視野が広くなり、察知能力も高くなるようだ。

 だから、それに気付いた。

 入口付近にビーチボール程の大きさの黒い魔法の弾が浮かんでいることに。そして、それは今にも田中君の首を掴もうとしている魔力人形へと向かっている。


 ヒマリが以前、ピンチになった時に黒い魔法の弾が飛んできて助かった、という話をしていたのを思い出した。彼女はあれを、敵が自分で撃ったのをミスって自滅したと言っていたが、実際には助けてくれた人がいたのではないだろうか。そして、その時と同じ人が、俺達を助けてくれようとしている?

 こんなことを出来るのは御三家の人ぐらいしか思い浮かばないけど、一体誰が。


 徐々に視界がオカルト部の部室に戻っていく、それと共に入口も見えるようになる。

 あれは……。


千木良(ちぎり)先生?」


 そこにいたのは千木良アキ先生だった。右の手の平を突き出し、そこに立っていた。

 そして、時は動き出す。

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