39 オカルト部
「イクトに耳寄りな情報があるの」
からし入りエクレア早食い大会の後片付けが終わった後に、水島部長がそう言ってきた。
「なんでしょう?」
「オカルトよ、オカルト」
「あー」
三津谷先輩のことがあったから、あまり乗り気にはなれない。
「オカルト部ってあるでしょ? あそこ、最近魔王崇拝みたいなことをしてるらしいのよ」
「魔王崇拝?」
確かに耳寄りな情報かもしれない。
「そう。調べてみる価値はあるんじゃない?」
「そうですね。それ、俺とヒマリの二人で調査していいですか?」
万が一に備えて、他の人を巻き込みたくなかった。
すると、何故かゲンキがうんうんと頷き始める。
「それ賛成。新人の二人にやらせて、どれ程の物か見せてもらいましょうよ、部長」
「私もゲンキ先輩に賛成だああ!!」
更谷が賛成なのはオカルトが苦手で、自分は行きたくないからだろ。
「えー、僕は行きたかったっす」
「すまん、イガグリ君。また今度な」
「はいっす」
ヒマリの方を見ると、特に異論はないようだった。
「ちなみに部室はどこにあるんですか?」
「去年新しく出来た部室棟に、3か月ぐらい前に移ったわね。あっちの部室は何処も大きいらしいわよ」
「部長、うちもあっちに移りましょうよ。今なら春宮も居ますし、部長だって」
「私はここがいいの」
「私も水島さんに賛成」
ゲンキの提案に水島部長とヒマリが即座に反対する。俺もここがいい。
「現在、部員は6人で、部長は3年生の姫田スミレさん。魔王を崇拝し始めたのも、部室棟に移った3か月前って話ね」
「きっと部室棟が呪われているんだああ!! そうだ!! そうに違いない!!」
更谷がわざとらしい程に震えている。大袈裟だなあ。
って、今日の髪留め、なかなかいいね。以前、女子に聞いたことあるけど、確か。
「シュシュって言うの? 今日のやつ、明るくてチャーミングなお前に似合っているな」
「へっ……? うわああああ!!! ジゴロ野郎だああああ!!!」
「なっ!?」
更谷は顔を真っ赤にし、突然シャドーボクシングを開始する。
「シュッ!! シュッ!! シュッ!! シュッ!!」
「マユ、気を付けて! 鈴野君の危険な攻撃が始まったわ!」
「おい、ヒマリ! 変なことこいつに吹き込むなよ!」
「危険だああ!! 危険だああ!! シュッ!! シュッ!!」
少し顔がにやけてるぞ。
なぜかイガグリ君が目を輝かせて俺を見てきた。
「イ、イガグリ君はどうしたんだ?」
「勉強になるっす!」
「俺、この部にヘルプ機能が欲しいんだけど……」
とりあえず今日はもう遅いので、オカルト部へ行くのはまた明日ということになった。
まあ、オカルト部なのだから、魔王関係に興味を持っても不思議ではないけどね。でも、面白い情報もあるかもしれんな。
翌日の放課後、俺とヒマリはさっそくオカルト部の部室に行ってみた。
ドアをノックすると一人の男子生徒が出てきた。
「なんでしょうか? って、春宮先輩!?」
その男子生徒はヒマリを見た途端、明らかに怯えたような素振りをみせる。
「ちょっと、どういうことよ?」
ヒマリが俺に耳打ちしてきた。
まあ、御三家だし、あとはここ1年間の振る舞い?
「ああ、怖がらなくていいよ。大丈夫。俺達は新聞部でちょっと取材させて貰おうかなと思って。俺は2年の鈴野行人。よろしくな」
「そうなんですか。僕は1年の田中です。ただ、今は部室には僕しかいなくて……」
俺と話しているが、まだヒマリが気になるのか、そっちの方をたまに恐る恐る見ている。
「部室を少し見せて貰うことは出来るか?」
「それは部長の許可がないと無理です」
「そうだよな。いや、最近のオカルト部では魔王を崇拝しているという話を聞いてね。それでどんなことしているのかなと思って」
「あー、それなら、今晩ちょうどその魔王を召喚する儀式をやるらしいんですよ。僕が生贄役で。それで、その準備のため皆は出払ってて、僕一人でお留守番なんです」
魔王召喚だと。まあ、オカルト部らしいけど。
「その儀式は何時ぐらいにやるんだ?」
「夜の10時頃集合で、集まり次第やるとか」
「俺達も行っていいかな?」
「いいんじゃないですかね。新聞部に扱って貰えたら、部のいい宣伝にもなると思いますし。あ、でも、先生方には言わないでくださいね。無許可でやるらしいので」
彼は人差し指を自分の口に当てながらそう言ってきた。
ヒマリは彼を怖がらせないためか、少し俺達から離れた所にいる。納得いかないという顔をしながら。
「ちなみに、魔王崇拝ってのは具体的にどういうことをしているんだろう」
「魔王物語を読む限り、魔王も最初は悪い事していなかった。本当に悪いのは御三家の方で、彼らに攻撃された結果、戦わざるをえなくなった魔王こそ勇者なんじゃないかって解釈らしいです。まずはそこから始まっているみたいで」
御三家のことを悪く言った形になったからなのか、田中君ははっとして、またヒマリの方をこわごわと見る。
しかし、言っていることが三柴と同じだな。
「それを最初に言ったのは誰なんだ?」
「姫田部長だと思います。僕も入ったばかりなので詳しいことまでは。それで、そう言った勉強会をして、どれだけ魔王が素晴らしい人かを、洗脳するかのように語ってきますね。うちの部長。ほとんど妄想に近いと思いますけど」
「田中君はその言い振りだと、あまり信じてはいないんだな」
「さっきも言った通り、僕は最近誘われて面白半分で入った形ですからね。でも、他の部員は皆洗脳されちゃってますね、あれは」
自分一人だけ冷静で、周り皆が洗脳されているのって怖くはないのだろうか。
「それで今晩、魔王を召喚するわけか」
「はい。もう魔王は復活しているはずで、呼べば来てくれるはずと言ってました。僕は今晩、生贄役をやったら辞めようかなと思っているんですけどね」
「それがいいかもな。うん、ありがと」
「はい。今晩、待ってます。実は少し怖かったから、普通の人にも来て欲しかったんですよ。あ、もちろん春宮先輩も……はは」
後ろからヒマリの溜息が聞こえてきた。
「どう思う?」
夕飯時、俺は百合乃に聞いてみた。
今日のご飯はマーボー春雨、豆腐とわかめの味噌汁、インゲンの胡麻和え、である。もちろん、どれも美味しかった。特に味噌汁は数日前にどんなのが好きかと聞かれ、豆腐とわかめと言っていたので、それでさっそく作って貰えて嬉しい。
「確かに三柴君と似たようなことを言っていたというのは気になる」
「だよな。百合乃も来る? ヒマリしかいないから、来ても問題ないと思うけど」
「行きたいのは山々だけど、オカルト部の人から見たら、なんで新聞部じゃない私が来てるの、ってことになると思うから……」
「そっか」
「それに何かあってもヒマリさんがいるから安心だよ。行人君一人だけじゃ、ちょっと心配だけど」
「俺ってなんか信用ないよなあ」
「ふふふ」
ヒマリとは夜8時50分頃にサンケ学院近くのバス停で待ち合わせした。
今回は彼女もちゃんと制服を着ていた。新聞部として取材しに行くわけだからな。
「へー、ユリノさん、それで来なかったんだ。でも、彼女のことだから、鈴野君のことが心配になって門の辺りでうろうろすることになりそう」
「そうかなあ」
「じゃあ、何か賭けない?」
「賭けると言っても、お前欲しい物ないだろ」
「そうね、私が勝ったら私が鈴野君とユリノさんの家に泊まりに行く。逆に鈴野君が勝ったら二人が私の家に泊まりに来る。どう?」
「別にそれ賭けなくも、両方やればいいんじゃないの?」
「こういうのはきっかけが重要なのよ。それにどっちを先にするか迷うでしょ」
そんな会話をしている内に学校へ着く。
正門から入っていくのかと思いきや、彼女は職員専用の門を使うと言ってきた。そんな門使って大丈夫なのだろうか。そう思ったら、顔パスだった。
その門には初老の警備員がいて、ちょうど帰る予定だったらしい。
「武藤さん、こんばんは」
「春宮のお嬢ちゃん、こんばんは。お、今日は彼氏と一緒かい?」
えっ!?
「ふふ、違いますよ。ダンスのパートナーが必要だったから来てもらったんです。彼にはちゃんと可愛らしい彼女がいますから!」
えっ!? えっ!? 百合乃のこと!?
「おう、そうなのか。若いっていいねぇ」
驚いて呆然としている俺にヒマリが肘でこちらを突いてきた。挨拶しろってことだろう。
「あ、どうも、鈴野行人といいます。よろしくお願いします」
「武藤です。よろしくね」
帽子を取って、屈託の無い笑顔で自己紹介してくれた。感じの良いおじさんだ。
「鈴野君とその彼女がここ通る時は、よろしくお願いしますね」
「もちろんだよ。鈴野イクト君だったね、他の警備員にも伝えとくよ」
武藤さんはそう言うだけでなく、ちゃんと手帳らしき物にもメモしていた。さらにヒマリから百合乃の名前も聞いているではないか。
やばい、皆が御三家を恐れる理由がだんだん分かってきた気がする。
部室棟に入った頃には既に夜9時を過ぎていた。
幸いなことに入口の鍵は掛かっていない。まあ、そうでなければ集合時間を夜10時にしないか。
しかし、廊下の照明が暗くなっているのは他と変わらないようだ。
オカルト部の部室が近くなった時、何かおかしいことに気付く。若干、扉が開いており、そこから誰かのうめき声が聞こえてきたのだ。その扉の隙間を見る限り、中は暗い。
このうめき声は田中君?
俺とヒマリは頷き合い、扉に手を伸ばした。




