35 冬見レオの力
俺と百合乃は冬見レオに連れられて、広場のような所に来ていた。
ここは俺が初めてこの世界に来た時に、最初に辿り着いた場所じゃないか。最初の怪人百面相と戦った所だ。
サンケ学院から20分程歩いた所にある低い山の麓辺り。
レオと一緒に左近ヒサトと右田カナコの二人も来ていた。
だが、広場に着いたところで、彼らは「また後で来ます」と言ってレオに一礼し、どこかへ行ってしまった。あの二人はなんなんだろう。まるで機械のようで、正直、人間味を感じない。
「こんな所まで私達を連れてきて、何の用でしょうか?」
百合乃の柔らかそうな髪が風に揺らめく。
一方のレオは額に手を置き、さっきから不敵な笑みを浮かべている。
「俺はな、魔の者が分かるんだ」
「それは突然現れた人が認識出来たり、いなくなっても忘れない、ということですか?」
「それだけじゃない。見ただけで、魔の者かどうか分かる。体が透けるようにして、黒い光のような物が見えるんだ。そいつの強さに応じて光も大きくなる」
おいおい、それってすげえ力じゃねえか。
「じゃ、じゃあ、今までその力を使って、魔力人形とかを倒してきたんですか?」
俺は思わず興奮して聞いてしまう。その力があれば……。
「なぜ俺がそんなことをしなければならない?」
「は?」
「魔力人形なんて倒しても、誰にも認識されないんだ。人から称賛されず、名声も上がらない。そんなことやって何の意味がある? 時間の無駄だ。お人好し馬鹿の百合乃にでもやらせておけばいい。気が済むまで好きなだけやってくれ」
「何言ってんだ、あんた……」
こいつ、俺が思っていた以上の糞野郎かもしれない。
「そんな事を言うために私達を呼んだのですか?」
さすがの百合乃も厳しい目でレオのことを睨んでいる。
それに対してレオは、さらさらな金髪をかき上げ、こっちを見下すように笑ってきた。
「百合乃ぉ? お前には分からせてやらんと思ってな」
「何をでしょうか?」
「この間、俺よりも多く魔力人形を倒したことで勘違いされても困るからな」
「はぁ……」
「この俺様が誰かより下に思われるのは我慢できないんだよ」
くだらない。本当にくだらない。
これこそ時間の無駄じゃないか。
「それで、何をするつもりで?」
「魔力人形2匹を見付けてここに呼んだ。いずれ来るだろう。俺が1匹、お前達はハンデで二人で1匹、どちらが先に倒せるか勝負だ」
なんか気に食わねえが、魔力人形を2人処理出来るなら悪くない話だ。
「自信があるんですね」
「当たり前だ。そっちのなんだっけ? 鈴野イクトか、そいつも結構やるんだろ?」
「何で知っているんだ?」
「あぁん? 聞いたからだよ」
「魔力人形からか?」
「ああ、そうだ」
「その魔力人形はどうしたんだ?」
「さあな? 俺の知ったところではない」
こいつは本当にどうしようもない。
「というか、イクト。口のきき方には気を付けろ。俺を誰だと思っている」
「どうでもいいよ。くだらない」
「なんだと?」
レオが威圧的な態度でこっちを睨んでくる。俺もそれに負けじと睨み返してやる。
「二人とも、やめて、やめてください」
百合乃が俺達の間に割って入る。
そこへ二人のサンケ学院高等部の生徒がやって来た。
「な、なんでこいつらがいるんだ!?」
二人が俺と百合乃を見て驚く。
「冬見レオ! お前、俺達を騙したな!」
「うるさい虫けら共だ。お前らに好きな方を選ばせてやる」
「それぞれの近い方でいいだろ」
「クッソオオオ!」
二人の生徒が怪人百面相化する。
「ガルビエラリの剣……レプリカ」
レオはそう呟くと、冬に見る白い冷気のような物と共に、数日前に見た灰色の剣を出していた。ヒマリの槍同様に、至る所に豪華な装飾が施された大振りの片手剣。それを握り、レオは片方の魔力人形に突っ込んでいく。
俺も女神トゥトゥンイィの盾と銃を出し、もう片方の魔力人形と百合乃の間に入る。
さて、こいつはどんなことをしてくる。
「グオオオオ!!」
目の前の男が叫ぶと、全身から毛が、口からは牙が、指からは爪が伸びてきた。狼男みたいな奴か。
かなり素早い動きでこっちへ突っ込んできた。だが、春宮ヒマリに比べれば遅い。
鋭い爪を盾で弾き、長い銃を軽々と振り、狼男に叩き付ける。それを狼男は長い爪で掴んできた。腕の動きも早いのか。
だが……透過しろ。
それと共に銃は奴の体を通り抜けていく。体の途中で透過解除出来るかと思ったが、さすがにそれは無理なようだった。体を抜けきった所で再び実体化。予想していなかった出来事に驚き、一瞬動きが止まった狼男に、先程とは反対側から銃を叩き付けた。
「ガアアア!!」
怯んだ所へもう一発、叩き込む。さらにもう一発。よろめく狼男。
これで勝負はあった。
俺の後ろで光が差す。百合乃の準備も出来たようだ。
あっという間に天使の羽が伸びてきた。
ダメージを食らい、動きが鈍くなった狼男は避けることも出来ず、直撃する。そして、一瞬で灰となり消えていった。
「俺達の勝ちか」
レオの方を見るとまだ戦っていた。
ダメージを食らったのか、額から血を流している。何やってんだよ。
一方、彼と戦っている魔力人形はやたらと筋肉質になっていた。3倍ぐらい体が膨れて、今にも制服がはち切れそうだ。
そんな筋肉男にレオが切りかかる。だが、その筋肉質の体はかなり堅くなっているのか、傷一つ付かなかった。
「くそ!」
再び切りかかるが、結果は同じこと。そこへ筋肉男がパンチを繰り出してきた。それを、レオは間一髪のところで避ける。
レオは俺と同じで魔法……攻撃魔法は撃てないのか?
「おいおい、あれ大丈夫かよ」
「下手に手助けすると、さらに面倒なことになると思うから。本当に危なくなってからでいいよ」
「分かった」
さすが、生徒会で一緒なだけあって、百合乃はレオのことを良く分かっているようだ。
レオが自分の握った剣の剣身を、鍔の辺りから切っ先まで人差し指でなぞった。その瞬間、剣が青白い光に包まれる。すぐさまレオが跳躍する。
筋肉男がまた殴り掛かるが、レオはその腕を足場にしてもう一度跳び、そして、奴の右肩に切り掛かった。
「グギャア!」
今度こそ筋肉男の肉を切り込む。しかし、剣は少し入った所で止まってしまった。完全に筋肉男の体に挟まってしまう。
「おいおい、不味いだろ!?」
思わぬ形で宙に止まったレオに、筋肉男が殴り掛かり、俺は堪らず叫んでしまった。
「うおおおおお!!」
だが、レオがそう叫んだ刹那、剣はさらに青白い光を強め、そして、剣先とその逆から大きな氷が伸びていく。それと共にその氷の刃で、筋肉男の体が右肩から左足まで切られ、二つに分かれる。
こうなったらもう回復のしようがない。二つに分かれた体が、地面に倒れる前に灰となり消えていった。
「はぁはぁ……ちくしょう!」
レオは剣を地面に刺し、片膝をつきながら悔しそうに叫んだ。俺達を睨み付けてくる。
「なぜだ……御三家で一番のはずの俺が……こんなどこの馬の骨とも分からない奴らに……」
「……」
慰めの言葉も、その逆の罵りの言葉も言う気にならなかった。ただ、空しいだけだった。
「なんだその目は!? くそが……今の2年は本当にむかつく奴ばかりだ。ヒマリにしろクズな弟にしろ」
「クズって……自分の弟だろ」
「クズをクズと言って何が悪い。いつもおどおどして、あんな出来損ない、生きているだけで冬見家や俺の顔に泥を塗っているようなもんだ」
「なっ……」
冬見トモヤとはまだ喋ったことがない。だが、今日少し彼の話を聞いてかわいそうだなと思ってしまった。余計なお世話だろうけど。しかし、生きているだけで、ってそこまで言うことはないだろ。
「行人君、いこ」
明らかに不愉快そうな声で百合乃は言うと、レオには一言も言わずに歩き出した。俺も無言でその後を付いていく。
すると向こうから左近と右田がやってきた。百合乃は一礼するが、彼らは俺らなど目に入っていないかのように、無表情で通り過ぎて行く。
彼らはこの勝負を遠くから見ていたのだろうか。ちょうど終わった頃に戻ってきたけど。前回もそうだったな。
「しかし、生徒会での百合乃の立場が心配になるんだけど……」
「大丈夫。あの人も馬鹿ではないし、プライドが高い分、何事もなかったかのように振る舞うはず」
「さっき無言で通り過ぎていった二人はどうなんだ?」
「あの人達はいつもあんな感じだよ。生徒会長さん以外とはあまり喋らない」
それでいいのか?
冬見レオを中心に歪みが生じている気がして、生徒会に危うい物を感じてしまう。
見ただけで魔の者が分かるという力。俺達が今一番欲しい力である。だが、冬見レオは俺達にその力を貸してくれることはないだろう。なんという宝の持ち腐れ。
無理やり従わせるのはダメかと百合乃に聞いたら、少し驚かれた後、却下された。冬見家との全面戦争になりかねないし、そうなったら魔王どころではなくなるかもしれないとのこと。
冬見レオは敵とまでは言わないけど、俺達とはまず目的が交わることのない人。今回のことでその印象がより強くなった。




