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21 新聞部

 新聞部の部室の前まで来ていた。

 引き戸があり、その隣に掲示板があって、そこに新聞が貼られていた。

 サンケ学院新聞。この新聞部が作ったのだろう。

 内容は……『我が校の室内プールに未確認生物サッシーが!』、『佐藤先生と鈴木先生の密会をスクープ!』、『新聞部ワサビ入りかき氷早食いコンテスト』、『探し物コーナー』、『部長のためになる話・早弁の仕方』。


「ひっでーな」


 思わずそう言ってしまう。まともなのは探し物コーナーだけじゃないか。


「どうした、イクトっち? 入ろうぜ」


 ゲンキはそう言うと引き戸に手を掛ける。


「あれ?」


 だが、鍵でも掛かっているのか開かないらしい。すると中から芝居がかった女の子の声が聞こえてきた。


「槍と鎌と弓と剣。私が愛用しているのは?」

「部長、何言ってるんですか? いるならここを開けてくださいよ」

「槍と鎌と弓と剣。私が愛用しているのは?」

「意味が分からないんですけど。冗談はやめ」

「あ・い・こ・と・ば」

「えっ? 合言葉とか初耳ですけど? 部長、何か受信するのは春まで待ってください」


 ゲンキの顔は明らかに困惑している。


「は・よ・は・よ」

「鎌……ですか?」

「ぶー、銃でしたー。不義密通を働く不届き者共め、この極秘ファイルを奪いに来たわね!」

「銃なんて入ってなかったじゃないですかー! って、俺、広瀬ゲンキです! いい加減、開けてください!」


 頭が痛くなってきた。絶対、こんな部に入っても有益な情報なんて集まらないよ。

 そこに部屋から別の気配を感じた。おっとりとした感じの優しそうな女の子の声がする。


「もうサナちゃん、だめよ。ゲンちゃんが困ってるでしょ。それに佐藤先生も鈴木先生も独身なんだから、その言い方はおかしいわ」

「ちょっとヒカル! だめ! 新人が来るんだから、なんか凄いことやってるってところを見せないと!」

「はいはーい。今開けるからねー」

「だめー!」


 中から鍵が開けられ、引き戸が開かれる。


「はーい、いらっしゃーい」


 中からイメージ通りの人が出て来た。良家のお嬢様といった感じの、おっとりとした品のある可愛らしい女の人。薄緑色のゆるふわヘア。ゲンキが敬語で話していた部長、その人とタメだったから3年生だろう。

 ゲンキが「ひどいですよー」と言いながらさっさと中に入っていく。


「あなたが新入部員の鈴野イクト君でしょ? うふふ」

「はい……。新入部員かは分からないですけど……」


 この部に入っても大丈夫なのだろうか。というか、もう部員扱い?


「さっ、イクちゃん、入って入って」


 おっとり先輩が笑顔で手招きしてくる。イクちゃん……。

 中は思ったより広い。真ん中に大きい長方形のテーブルがあり、周りには書類や本が入った棚が複数あった。さらに部屋の奥にはもう一部屋あって、そこにパソコンや印刷機等があるようだ。

 引き戸が閉められ、がちゃりと鍵をかける音がした。そっちに振り返る。


「ふふふ」


 茶髪ポニーテールの女の人が、にかっと笑いながら戸を守るように立っていた。目鼻立ちがはっきりした元気そうな人だ。結構、胸も大きい。部室を見た限り、ここには俺含めて4人しかいないから、この人がさっきのエキセントリックな部長さんだろうか。


「部員はこれだけなんですか?」

「まっさかー。現在取材中の部員が5人いるわ」

「サナちゃん? 真実を追求する私達が嘘をついちゃダメ。実際に取材中なのは1年生の子1人だけよ。あとは幽霊部員が3人、残りの1人も幽霊部員になりかけなの」


 どうしてその3人は幽霊部員で、残りの1人も幽霊部員になりかけなのですか、と聞きたいのをぐっと堪える。藪をつついてはいけない。


「似たようなもんじゃない。さあ、新入り君、席に座って」

「あっ……はい」


 俺が席に座ると部長がペンと1枚の紙を渡してきた。入部届だ。そして、俺を取り囲むように3人が満面の笑みで立つ。これを書くまで解放しないぞ、と言わんばかりに。俺はもう逃げられないことを悟る。

 観念した俺が入部届を書き終えると、すぐさま部長にそれを取られた。


「鈴野イクトね……。よし、彼の気が変わる前に、ゲンキ、今すぐ提出してきて!」

「はいきた!」


 ゲンキは入部届を受け取ると、急いで部屋を飛び出していった。気が変わったところで俺にはどうすることも出来ないと思うが。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 おっとり先輩がお茶を出してくれた。冷たい緑茶だろうか。飲むのを躊躇う。少し前のゲンキが言っていた、皆大好きサンケーラという言葉を思い出す。俺はこの世界の味覚を疑い始めている。


「んー?」


 湯呑みを持ったまま止まっている俺を、おっとり先輩が不思議そうに見ている。そんな目で見られると……うう。飲むしかない。


「ごくごく……あれ、おいしい」

「うふふふ」


 おっとり先輩が嬉しそうに微笑んだ。彼女が笑うだけで周りがぱっと明るくなる気がするよ。

 そこにゲンキが部屋に戻ってきた。はえーな。


「はい、自己紹介!」


 皆集まったところで部長がぱんと手を叩く。


「まず、私ね。この新聞部の部長の水島サナ。不正と妥協を許さない正義のジャーナリスト!」

「そして、この私は三津谷(みつや)ヒカル。副部長をやってるわ。主な仕事はサナちゃんを暴走させないことだけどね。ふふふ」


 おっとり先輩こと三津谷先輩は胸に手を当てながら、そう自分のことを紹介してくれた。


「えっ? 俺もするんすか? んー、知ってると思うけど広瀬ゲンキ。興味を持ったことにはマムシのように噛みついて、全てを暴くスーパー記者さ!」


 嫌な記者だな。

 この流れだと、俺もしないとダメだろうな。


「最近、この学校に転校してきた鈴野行人です。えと、ゲンキのクラスメイトでもあります」


 3人がぱちぱちと拍手し始めたから、俺もそれに加わる。


「あと一人、うるさいのがいるんだけど、イクトっちがここ通っていたら、いずれ会うと思うよ」

「そうね。それで、イクトに聞きましょう! 君はこの部に入って何がしたい?」


 水島部長が前のめりで聞いてくる。

 うーん。魔王関係者が何処にいるか調べたい、と言ったら春宮(はるみや)扱いされそうだよな……。


「不思議な事件とか起こっていないですか? この街や学校で。特に殺人事件とか」

「殺人事件なんてそうそう起こるものでもないでしょ。不思議な事件……分かった! イクトはオカルトに興味あるんでしょ?」

「いや、オカルトはちょっと……」


 やはり殺人事件に関してはそうなるか。魔王に関することで、春宮扱いされないようなのを聞いてみるか。


「この街にある魔王の伝説とかで面白い話ないかな。ここは御三家と深く関わっている所ですよね」

「それこそ、御三家に聞くのがいいわ。あ、でもそれ名案! 御三家に取材しましょう! 一度はちゃんと彼らにインタビューしてみたかったのよねー」


 水島部長が手の平をぽんと拳で叩く。

 取材する御三家って誰だよ。春宮ヒマリ? 冬見(ふゆみ)レオ? 嫌だ嫌だ。


「それは却下で」

「イクトっちに同意!」


 ゲンキもやっぱそう言うよな。隣でおっとり先輩がふふふと笑っている。


「じゃあ、やっぱオカルトにする?」


 オカルトか……。最初は否定したけど、意外に魔王と繋がっていることもあるかもな。三柴セイジの件に関しても色々とおかしいこと起こっているし。


「まあ、不思議なことがあれば調べてみたいですね」

「うん、分かった! 確かに、今まであまりこの街で起こった不思議なこととか調べたことなかったわ」

「私もいいと思う。ゴシップネタみたいなのはちょっとって思っていたから」

「えー、色恋沙汰とかも面白いじゃん」

「恋のキューピットになるならいいけど、邪魔しちゃうのはダメよ。ね?」

「はーい、ほーい、へーい」


 水島部長は口をすぼめて、ちょっと拗ねたような顔をしている。それに対しておっとり三津谷先輩はよろしいと言って微笑んでいた。二人とも、性格も、見た目も濃い顔と薄い顔でだいぶ違うけど、いいコンビだと思った。


「よーし! 次やることも決まったことだし、ここからはイクトの歓迎パーティーをしよう! 新入り君が来るって聞いていたから、ほらぁ!」


 部長が机の下から袋を取り出し、自慢げに中身を開けて大量のお菓子を机にばらまいた。


「あー、学校にお菓子持ってきちゃいけないのに」

「今日ぐらいは大目に見なさいよ、ヒカル」

「そうね。ふふふ」

「ひゃっほー!」


 ゲンキが大量のお菓子を見て飛び跳ねた。


「その前に皆と写真を撮りましょ?」

「副部長、ほんとに写真撮るの好きですね」

「ふふふ」


 三津谷先輩が携帯を取り出して、皆と写真を撮り始める。そしたら、水島部長も「私もー」と言って、同じく写真を撮り出した。


「記念撮影も終わった所で、さっそく我が新しい部員の歓迎会を始めましょー!」


 俺は百合乃が作ってくれた晩御飯がちゃんと食べられるように、お菓子はほどほどにつまみながら、皆と話に花を咲かせる。百合乃やサヤカさん以外にも少しずつ人との絆がこの世界でも出来始めていて、それと共に俺はこの街のことが好きになりつつあった。




 翌朝、学校に登校すると、自分の机の中に1枚の封筒が入っていた。ピンク色の女の子が好みそうな可愛らしい封筒。ま、まさかラブレター?


「おひょひょひょひょ」


 思わず変な笑い声が上がってしまった。隣の百合乃にしかめっ面をされてしまう。いけない、いけない。

 いや、俺は百合乃さん一筋ですよ? でもね、やっぱね、嬉しいじゃないですか。おひょひょひょひょ。

 周りを見ると近くには百合乃しかいない。その百合乃も何かごそごそやっている。見るなら今しかない。本当はクラスルームより、もっと人のいない所の方がいいんだろうけど、我慢できなかった。

 机の中でこそこそやる。封筒の中には一枚の便箋が入っていた。封筒同様、可愛らしいピンクの便箋。それを一呼吸してから見る。


『魔王についてお話したいことがあります

 今夜22時、高等部の旧ダンスホールにてお待ちしております

 この場に即した衣装を着飾ってお越し下さい』


 達筆だが差出人不明。もの凄く嫌な予感がした。

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