00話
信号が赤から青へと代わる。そして何十人もの人々が横断歩道を渡り始める。現代日本においてそんな光景は都会に行けば、いくらでも見られる。だが、何十人もの人々が渡っている横断歩道を突っ切る大型トラックを見たことのある人は、何人いるだろうか?
俺は見たことがある、ものすごく近くから見たことがある。ていうか、今しがたその大型トラックに撥ねられたところだ。
「あァァァ〜、暑いすんごく暑い。なんで地球温暖化進んでんの?誰か止めろよ。俺とホッキョクグマの為にもとめろよ。」
「なんだよ、その自己中発言。」
「は?全然自己中じゃねーだろ。ホッキョクグマも入れたし。」
「俺が先に来てる時点で、ホッキョクグマついでだろ。」
「否定はしない。」
「あ、青になった。」
「炎天下の中、信号待つのシンドイ。」
そう言い、俺ら三人は横断歩道を渡り始める。
両脇にいる、二人は俺の幼馴染だ。残念ながら、二人とも男だ。二人とも、リア充とは程遠い生活を過ごしている。毎日のようにゲーセンに通っている。まぁ、俺も人のこと言えないが。ていうか、今日もゲーセンに行く為に、この暑い中外に出ているようなものだ。
横断歩道を半ば過ぎた頃、人々の甲高い悲鳴とブロロロロと低い音が聞こえた。
次の瞬間、俺ら三人は仲良く宙を舞っていた。
地面に落ちた瞬間、意識が途絶えた。
不意に意識が覚醒する。
辺りを見渡すと、この空間には俺ら仲良しトラック撥ねられ隊と見知らぬ女性の四人が存在していた。それ以外なんにも無し、辺り一面白一色に塗りたくられている。
「本当に、ありがとうございます。」
突然、女性が俺らに向かって、土下座してきた。それはそれは惚れ惚れするような綺麗な土下座だった。
ただ、残念なことが一つ、土下座することによってその豊満な胸が隠れてしまっていることだ。
だがそんなことを考えているのは俺と一人の幼馴染の二人だけだった。
もう一人の幼馴染は残念がる素振りも見せずに、淡々と
「あなたはなぜ我々に礼を言っているのですか?」
「それは私があなた達にたすけられたからよ。」
俺ら三人共に「俺ら何かしたっけ?」と疑問が頭にうかんだ。
「あっ、俺小さい頃公園に捨てられていた猫を拾ったことあるは」
「うん、それは関係ないだろ。」
「ええ、関係ないわね。」
「じゃあ、なんで?」
「簡単に言うと、あなた達がトラックに引かれたからよ。」
「詳しく教えてくれ。」
「そうね、あなた達が渡っていた横断歩道のすぐ横に神々の世界と地球を繋ぐ穴のようなものが一瞬だけあったのよ。」
「うん?」
「それで、あなた達がトラックに引かれたことで、トラックのスピードがほんの少しだけ落ちたのよ。そのおかげでトラックが神々の世界に来て、パニックが起こらずに済んだし、私も管理が悪いって主神に怒られずにすんだのよ。」
「で、そのお礼として、異世界で新たな生を授けようと思った訳。あなた達異世界に産まれるにおいて何かお願いはあるかしら?あまり無茶なことじゃない限り、叶えてあげるわ。」
「元の世界に復活するのはダメなのか?」
「ダメね。大型トラックに引かれて三人共ピンピンしてるなんて不自然じゃない。」
「うーん」
「いいじゃねーか、俊、行こうぜ異世界。あっ、そうだ俺、貴族として生まれたい。」
「うーん、まぁ、行くか異世界。だが、玲
よ、貴族は反対だ。礼儀作法が大変そう。」
「いいじゃねーか、貴族。きっと美女と結婚出来んぜ。」
「はぁ、玲、俊、美女と結婚出来て自由な職業が他にあるだろ。」
「「何ィ」」
「それは」
「「それは?」」
「それは、ズバリ、イケメンだぁ。」
「イケメンだと、」
「そうだ、イケメンだ。イケメンなら礼儀作法はいらず、美女と結婚出来る。」
「おおぉ〜」
「えーと、神様?俺らをイケメンに出来るか?」
神様?はドン引きしていた。その目には、軽い恐怖も見れた。
「残念ながら、イケメンには出来ないは、ただ父親がイケメンな家庭に産まれさせることは出来るは。」
「おお、それで頼む。」
「ええ、任せておきなさい。」
「神様?なんか怯えてない?」
「怯えてなんかないわよ。ただ、ここにあなた達がいても誰も得しないと思って。」
「ああ、そうだな早く送ってくれ。」
「ええ、早速送るは。その、ありがとうねあなた達のおかげで、リストラせずにすむわ。えーと、頑張って美女と結婚してね。バイバイ。」
神様のお別れの言葉と共に俺らは意識を再び失った。