性別が一つしかない世界に転生した
……
そう、異世界転生ということは、たとえばそこがファンタジーだったりすることがある。
たとえば、魔法がある世界に転生することもある。
たとえば、未来の世界に転生することもある。
たとえば、乙女ゲームそっくりの世界に転生することもある。
だから、性別がいわゆる「ふたなり」しかない世界に転生することだってある。
ちなみにこの世界、母と父って言葉は産んだ方産ませた方という意味であるが、男と女って区別する言葉がない。
ごついやつとか華奢なやつとか、ファンタジーな種族とかいろいろいるけど、
全 員 ふ た な り で あ る 。
もちろん生まれ変わった俺もふたなりだった。
……まぁ、うん。
相手が女だと思えば、ね、うん。いけるいける。
俺のこと押し倒して孕ませようとしてくる女だけどいけるいける。
「好きだリュート!俺の子を産んでくれ! いや、お前が子供産みたくないのは分かっている、俺がお前の子供を産む! 結婚してくれ!」
髭面で強面な冒険者野郎だけどいけ……るかボケェエエエ!!!
*
その日、俺は死んで生まれ変わった。
何を言っているのか分からないかもしれないが、俺もワケが分からないんだから仕方ない。
気が付いたら赤ん坊だった。
そして、俺のことを「リュート」と呼んで可愛がる女性が2人。しかも片方は耳が長い。
もしかしてエルフなんだろうか。もしこの人が母親なら、俺もエルフ? とか思ってたもんだが……まさかこの2人が夫婦で、爆乳のエルフがこの世界で言う『父親』だという現実を知ったのは、だいぶ後になってからだった。
やべぇ……やべぇよ異世界。こんなの俺の知ってる異世界じゃない、いや、そりゃ異世界なんだから知らないけどもさ。
ちなみに2人の息子……いや、娘? である俺は、ハーフエルフだった。そして俺自身、性別という区分が無かった。
俺の両親はとてもラブラブで、第1子の俺を皮切りに、俺が10歳になるころには5人の家族が産まれていた。「ねぇ、次の子はエリーナが孕んでよ」「ええ。スーばかり産むのは不公平よね、私もあなたの子を産みたいと思ってたの」と、爆乳エルフが母親になる時もあった。
……どうなってんだこの世界は。と、頭を抱えずにはいられない事件だったな、あれは。
あ、それとこの世界は魔法がある。冒険者ギルドとかもある。というか両親も冒険者カップルだ。
エルフは魔法に長けている。エリーナ母さんは後衛だった。前衛で剣を振るうスー母さんに守られて、キュンときちゃって、その胸で誘惑し、押し倒したらしい。肉食系だった。
……ちなみに、お隣のドワーフさんはムキムキのごっつい夫婦。というか男同士にしか見えない。
でも2人の子供であるハルはすっごい可愛い、女の子にしか見えない。俺の事「リュート、だいすきー」とか言ってくれる。とても可愛い。惚れてしまう。
……しかしまて、この2人の子供だ、将来は男らしいごっつい身体になるんじゃないだろうか。
押し倒されて「アッー!」してしまうとしたら、それはそれはとても恐ろしい……。なにせ俺の意識は完全に男であるし、男の象徴だって体にあるのだ。……最近胸が膨らんできたけど。
いや! 例え俺がどうなろうと、俺も母さんたちみたくかわいい子と結婚すればいいのだ!
「あ、ぱぱー、ままー」
「おう! パパじゃぞ! いやぁいつもすまんのぅリュート」
「おう! ママじゃよ! いつもたすかっとるわいリュート」
ふとももくらい太い筋肉ムキムキの腕を夫婦そろって見せつけつつ、ハルを担ぎ上げるドワーフ夫婦。
どこをどうしたらこの2人からハルが産まれるというのか……
「あたし、将来リュートとけっこんするー」
「ハッハッハ、リュートならパパも安心じゃぁ!」
「ママとしてはもっとリュートに筋肉を付けてほしい所じゃよ? ハルもママと一緒に筋トレしよう、な!」
「きんとれー!」
「いや、俺はスー母さんやエリーナ父さんみたいな人が好みだから」
「! じゃあ筋トレしない!」
「ハルーーーー?!」
*
尚、遺伝子はばっちり仕事してくれた。
ハルは見事に髭面の強面に成長してしまった。ああ、天使の頃が懐かしい。
……俺? 俺はスー母さんゆずりの貧乳だよ。ありがとう、俺が俺のまま育つことができたのはスー母さんのおかげだ。エリーナ母さんみたいな爆乳だったら人格崩壊してたかもしれねぇ。
「なぁリュート、いい酒場を見つけたんだ、飲みに行かないか? 料理もうまいぞ」
「お、いいねぇ」
まぁ、ハルが強面になったとしても俺とハルが幼馴染というのは変わらない。友情は不滅なのだ!
ちなみに冒険者パーティーを組んでいたりもする。そんで2人で仲良く酒を飲んだりもするわけだ。
「っぷはー、いやぁしかしいい酒だなぁ。こんな落ち着いた店、良く知ってたな。俺はてっきりいつもみたいな騒がしい店かと思ったんだが」
「……なぁリュート。相談があるんだが、いいか?」
「なんだよハル。俺達の間で遠慮は無しだぜ? 金は貸さないけどな」
「……俺、好きな人が居るんだ。そいつにプロポーズしようと思ってるんだが、どう思う?」
「へぇ、浮ついた話ひとつなかったハルに好きな人が! こいつはめでたい、応援するよ」
酒が入っていたせいか、俺は非常に察しが悪くなっていた。
「相手はだれなんだ? どこまで進んでるんだ、ほれ、言ってみ?」
「お、おう、それな……んー、2人で酒を飲みに行ったりする仲、だな」
「おーおー。結構進んでんじゃん。いいねいいね、それで?」
「実は、ギルドの方ではちょくちょく話をしててな。2人で酒を飲みに行くような仲ならってんで、この店を教えてもらったんだ。良い店だなここ」
「ほぉ。……って、俺が後回しかよ。なんだよハル、つれないやつめ、そういうのは真っ先に俺に相談しろよなー」
「いや、こればっかりはどうにも……な?」
まぁ、幼馴染で照れくさくて相談できなかったって言うのもあるんだろうな。うん。
ああ、それじゃ今回飲みに誘ったのは下見ってわけか。
「うんうん、いいんじゃないか? この店で口説かれたら案外コロッといっちまうかもな」
「! そ、そうか! うん、良い店だ、うん」
そう言って、ちびちびとグラスに入った酒を飲むハル。
「じゃあ今日は下見に付き合ってやったってことでハルの奢りな」
「いや! ちょ、それはッ」
「ハハハ、冗談だって。いつも通り別会計なー」
「ああいや、奢る、そこは奢るぞ! じゃないとカッコつかないからな!」
「お? マジで? じゃあもう一杯頼んじゃおうかなー」
「お、おお……いや、それくらいにしておいてくれないか? 話ができなくなったらその、困る」
「ハハ、わかった、頼まないって。そんな言い訳しなくてもいいんだぜ。だが奢るって言っときながら飲まないでっていうのはカッコ悪いぞ、好きなヤツの前ではするんじゃないぞ?」
「うぇ!? の、飲め! もう好きなだけ飲んでくれ!」
「おいおい、話ができなくなったら困るんだろー? いや、酔い潰して何かするつもりかな? ハルも鬼畜になったもんだなぁ」
「ええええ、ちょ、お、俺はどうしたらいいんだリュート?!」
ハハハ、見事にうろたえておるわ。髭面の強面のくせに相変わらず可愛い奴め。
「ははっ、ゴツくなっても可愛いとこは可愛いままだなぁハル。そういうの、嫌いじゃないぜ」
「……そ、そういうこと言うなよ、馬鹿」
ぷい、と拗ねるハル。まぁ、からかうのもこれくらいにしておいてやろう。
「で、どうするよ。告白すんの? ここ(の酒場)で?」
「え、あ、うん。する。……ここでな」
「おうおう、どういう告白するんだ。聞いてやるから言ってみろよ」
「うん……えーと、だな。……ず、ずっと、好き、だった。……俺と子を作らないか?」
「はいダメー」
「な?! ダメか?!」
「ばっきゃろう、子作りしようって、そんなんでときめくのはただの淫乱だろうが。それとも何か、お前の惚れた奴は娼婦かなにかか?」
「! そ、そんな、つもりじゃ……」
「じゃあ別のセリフにしようか。はい、やり直しー」
なんか顔を真っ青にして絶望顔していたハルだったが、俺がそう言うと少し落ち着いたようで。
「や、やり直していいのか?」
「おう、素敵な口説き文句ができるまで付き合ってやるよ、俺とお前の仲だろう? つーか今のは誰の入れ知恵だ? 子作りしようとかお前のキャラじゃないだろ」
「……スーおばさんに相談して、エリーナおばさんの口説き文句を教えてもらったんだ」
おい、俺の親か。スー母さんは淫乱か何かだったのか。
「つーか、なんで親に相談して俺に相談しない?! そういうのは真っ先に俺んとここいよ!」
「うぇええええ?! ないないない、リュートに真っ先にとかそんな!」
「だーもう、いいから練習すっぞほら! 次言ってみろほら!」
そうして俺は何度もハルの告白を聞く。で、何度も何度も駄目出しをして、ようやくよさげなのができた。
「やっぱりこう、ストレートなのがいいな。回りくどいと伝わらんしな」
「リュートの好みはそういうのなのか」
「うん、じゃあこれで告白の準備は整ったな、本番頑張れよ?」
「おう……じゃあ改めて――俺と結婚してくれ!」
ハルは、俺の目をまっすぐに見て言った。
「おいおい、俺に言ってどう……する……よ?」
俺はここまできてようやく気が付いた。
雰囲気のいい酒場。ふたりで酒を飲みに行く仲。告白。俺より先に親に相談。俺とハル。幼馴染。まて。やっぱり頭がこんがらがってきた。もしかしてコイツ、俺のこと口説いてるのか?
「お前しかいない! ずっと昔から、好きだった!」
「まて、ちょ、おいまて」
ずいっとにじり寄ってくるハル。がしっと肩を掴まれる。さっきそういやアドバイスした中にそういうのあったなオイ!
「リュート! 好きだ! 愛してる!」
「待てっつってんだろがこのボケェエエエ!!」
~*~*~*~
数年後、俺は、小さい頃のハルみたいな、線が細くてかわいい子供たちに囲まれていた。
……どうしてこうなったのか。それは、語るにはここは余白がありすぎて十分語れるのだが――一言。魔法ってすげぇとだけ言っておこう。
まぁいい、男とか女とか、そもそもそういうことに拘っていたのが間違いだったんだ。
この世界には、そういう区別がないのだから。前世のしがらみにとらわれ過ぎていたな、俺は。
「リュートパパ、パパはどうしてママと結婚したの?」
子供の1人が俺に無邪気な質問をしてくる。俺は頭を撫でてやり、答えた。
「あー……うん、愛の力技かな」
「ちからわざ?!」
まぁ、その、なんだ。悪い気はしていない。
(魔法で整形とかありそう。変化の術的な)