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異世界召喚のれいてぃあ!  作者:
第1章 新たなる世界で
7/13

第6話 特訓開始

 「鶏肉豚肉牛肉はやはり最高であるな。少年はどの肉が好きだ? そうかそうか、全部か! 随分と気が合うではないか!」


 「ごば⁉︎ ゴホッゴホッ。いや、俺まだ何も答えてないんですが……」


 「ヒダカ様。口に含んだ物を吐き出す行為はお止め下さい」


 「す、すみません。ゾドルさんが叩いてきたので……」


 「この前変えたばかりのテーブルですが、もう買い替えなければいけませんね」


 「メアさん! 人を汚物扱いするの止めて‼︎」


 「汚物を汚物扱いして何の問題が?」


 「汚物じゃないよ、日高だよ!」


 「…………うざ」


 「……え⁉︎ 今何て?」


 食堂で昼食を摂っている最中の出来事だった。


 (あお)の隣に座っていたゾドルが背中を叩き、咀嚼中だったものをむせた拍子に出してしまった。そこを隣にいたメアに罵られて(あお)が言い返したら、滅多に出さない言葉を聞いてしまった。顔は無表情だったが。



 「……汚物を汚物扱いして何の問題が? ヒダカ様が使用した食器やタオルは全て廃棄処分になっていますし、あの浴槽もヒダカ様専用になりました。さて、改めて問いますが汚物扱いに何か不満でも?」


 「…………いえ、何でもありませんでした」


 もう泣いてもいいかな。俺、頑張った方だと思うんだよね。


 (あお)は何かを堪えるように目を閉じて悟った顔で天井を眺める。



 「颯爽闖入!」


 白のワンピースに着替えたユリアが決めポーズで食堂に入って来た。


 「ダメだな」

 「ダメですね」

 「ダメであるな」


 「何で? 言われた通りにやったのに!」


 地団駄を踏みながらユリアが抗議の声を上げる。


 「そんなノリノリじゃなくて、恥辱にまみれた顔でギクシャクしながらやってくれないと」


 (あお)がダメ出しすると、ユリアは口を尖らせて部屋の外へ出て行く。


 もう一度やるつもりなのか? と(あお)は思ってから、先程の会話を思い出した。



 メアが迎えに来た後、ユリアに謝られた。ユリアに非は無いので『食堂に入る時に颯爽闖入と言いながら決めポーズしてくれ』と適当にあしらって誤魔化そうとしたんだが、本当にやるとは思わなかった。責任感が強いのか、アホの子なのか。



 「てっきりメアさんは怒ると思ってました」


 「元気のないお嬢様よりましかと思いまして。ただ、過度なものや無神経なものだったらどうなるか……おわかりですよね?」


 「さ、颯爽闖入!」


 「あ、あはは。当然わかってますよ。ユリアにそんなことしませんって」


 「まあ、やってくれた方がヒダカ様をぶちのめす理由になりますが」


 「えっと、颯爽闖入……」


 「メアさん、安心して下さい。絶対やりませんので」


 「少年よ、男なら危険に立ち向かうものだぞ」


 「ヒダカ様にそんな度胸は欠片もないでしょう」


 「……サッソウチンニュウ」


 空虚な瞳でユリアは呟く。流石に可哀相なのでフォローすることにする。あの二人はユリアをあんな扱いでいいのだろうか? 結構過度だと思うんだけど。


 「ありがとうユリア。おかげで元気でたよ」


 「むぅぅ。ほんとに?」


 疑い深くユリアが訊く。


 「ああ。本当だよ」


 (あお)がそう答えると、ユリアは一応納得したようで席に座る。タイミング良くメアは食事を持ってきた。



 「聞きたいことがあります」


 メンバーが揃ったことを確認した(あお)は、三人の顔を見渡して訊いた。三人は無言で見てきたので、肯定の意味だと解釈して喋りだす。


 「異世界人の召喚は『スキル』か『フェイト』ですよね?」


 「そうだね。そんな魔法はないから」


 ユリアが手を止めて答えた。流石に食事中で申し訳なかったが、大事な質問なのでやむをえない。


 「じゃあ、行使者を殺せば元の世界に戻れる?」


 「可能性があるとしか……」

 

 途中で言い淀む。行使者本人でなければわからないのだろう。

 そういえば、ユリアが食べ始めてからゾドルも食べ始め、メアはユリアの後ろでスタンバイ。あれ? 先に食べていた俺は非常識すぎだろ。



 「そうか。じゃあ、施星の国(ステルラ)のことを教えて欲しい」


 (あお)は再び食事を開始して質問をする。


 「そこからは吾輩が答えよう。人間(ヒュライン)の領土には幾つかの国があり、あまり関係のよくない二つの大国が存在するのだ」


 ゾドルが食事を中断し続きを話す。


 「一つが施星の国(ステルラ)で、もう一つが必宗の邦(レリギオーン)である。少年の質問である施星の国(ステルラ)は……まあ、資本主義だ」


 資本主義か。元の世界の俺の国と同じだな。


 「資本主義で発展してきたのか?」


 「そうである」


 「じゃあ自由競争があって、労働者の権利を認めたりしてんの?」


 「その通りである。資本主義は発展する程、資本家の権利が大きくなって労働者の労働条件が悪くなるからな。そうならないためにであろう」


 「他に社会福祉とかあるのか?」


 ゾドルとの話し合いで(あお)が答えると、ゾドルは少し驚いた顔をした。


 「その通りである。それらを認めれば労働者の不満は少なくなり革命が起こりずらくなるからな。それに奴隷制もあるのだ」


 「そうなのか?」


 今度は(あお)が驚いた顔で聞き返す。

 そこは自由じゃないらしい。


 「そうだ。とはいっても福祉は保障されているのだ。ただ身分が最も最下層というだけでな。労働者は自分らよりも下がいると思い心理的に余裕ができ、奴隷も非人道的扱いを受けないので革命は起きないのだ」


 「なるほど。じゃあ、もう一つの国はもしかして社会主義?」


 「その通りである」


 「社会主義で成り立ってるのか? 労働者がサボったりとか、国民が自由に選択できないことに不満を持ったりとかないのか?」


 本題から逸れているが(あお)はつい気になった。


 「国教があるからである。『国民全員が平等に生活できるのは神様のおかげだから、しっかりと義務を果たし神様に奉仕せよ』と幼少期より教え込まれればそのようにもなるであろう」


 「随分とえげつないことをするな。まるで洗脳だ」


 「本人達からすれば幸せなのであろう」


 「それを幸せとは呼びたくねーな。……施星の国(ステルラ)は他になんかある?」


 (あお)は顔をしかめて、話題を修正する。


 「一番の技術先進国であろう。経済、産業、市場(しじょう)が最も発展しているのだ」


 「へぇ。軍事的なものは?」


 「まあ、それなりであろうな」


 それなりって言われても分かんないんだが。


 「……そうか。じゃあ、好戦的なのか?」


 「あまり好戦的じゃないよ」


 今まで話に入ってなかったユリアが答えてきた。


 「なのに召喚したってことは、攻勢にでるのか?」


 「確かにその可能性もあるのだが……」


 ゾドルが言い淀む。随分と引っかかる言い方だから(あお)は聞き返す。


 「何かあるんですか?」


 「……魔人(メイリア)人間(ヒュライン)は戦争してはいないのだ」


 (あお)は一瞬思考が停止したが、すぐに切り替える。


 「……は? 争ってるから召喚されたんじゃないのか?」


 「確かに仲はよくないが、今は争っていないのである」


 「なっ⁉︎ 何で召喚されたんだ⁉︎」


 (あお)施星の国(ステルラ)の謁見の間での会話を思い出す。魔人(メイリア)を倒して欲しいと頼まれた。それは争っていたからだとばかり。


 「少年の言う通り攻勢に出るのか、抑止力にしたいのか、はたまた別の思惑があるのか。そのあたりの理由は不明なのだ」


 「……スパイがいるのにわからないのか?」


 「……何のことだかわからんな」


 (あお)は鎌をかけてみたが、ゾドルはなに食わぬ顔で躱す。


 はぁ、と(あお)はため息を吐きどうするか考える。何故異世界人を召喚したことを知ってたのかと訊いても、どうせ惚けるだけだろう。



 「そろそろ特訓のお時間です」


 今までユリアの後ろに佇んでいたメアが言い放った。


 「少年よ、取り敢えず今日はこの辺にして特訓に励むのだ」


 ゾドルがこれ以上話はないと暗に伝える。こうして、初めての特訓が開始した。




★★★★★★★★★★★★




 離宮内にある訓練場。茶色の壁が円形状に囲み、天井にのみ窓がある。


 ジャージを着た(あお)とゾドルに、メイド服のメアの三人がこの空間にいる。直径七十から八十ぐらいの広さがあるだろう。



 「ヒダカ様。このお薬をお飲み下さい」


 メアはコップに入った緑色の液体を(あお)に手渡した。


 「……これは何ですか?」


 いきなり薬を飲めと言われたのだから無理はない。


 「いいからとっとと飲んで下さい」


 「……はぁ、わかりました」


 有無を言わせぬ迫力に押し負けた(あお)は渋々コップを口につける。仮に危害を加えるつもりなら料理に混入させていただろう。


 「あれ? 結構うまい」


 「筋力増強や疲労軽減、免疫の付与など、色々な効果があります」


 なるほど、俺のことを思ってそこまでしてくれるとは。


 「ヒダカ様のためではありませんから」


 「……そうですか」


 「少年よ。落ち込んでいないで武器を取るのだ」


 ゾドルが(あお)に一振りの刀を差し出す。


 「刀ですか……?」


 「そうだ。少年は線が細く力が無さそうだから刀の方がいいだろうと思ってな」


 「……なんで?」


 「剣は突くか叩き斬るものだから、力と重さと速さ等で攻撃力が決定するのだ。しかし刀は斬り裂く事に特化しており、攻撃力は殆ど武器の斬れ味に依存するからである」


 「そうなのか。まあ刀の方がカッコいいしな」


 (あお)は刀を受け取る。


 「その代わり、刀の扱いは難しいぞ」


 「それを教えてもらうんだろ。にしても軽過ぎじゃね?」


 刀を持った時に初めに浮かんだ疑問をぶつけた。(あお)は刀を持ったまま腕を上下に動かす。鉄とは思えない程の軽さで、今の(あお)でも十分片手で振れるだろう。


 「使用しているのは、軽くて丈夫な金属だからな。これから剣を持った吾輩と少年で一騎打ちを行う」


 「は? いきなり? 戦い方とかは?」


 「実戦の中で覚えることが一番早いのだ」


 ゾドルは部屋の中央へ歩いていく。こっちがお願いしたからあまり文句は言えず、(あお)も中央へ歩を進める。何故ゾドルは剣なのか。



 「ではいつでもよいぞ」


 ゾドルは剣を正眼に構える。その瞬間、ピンと張り詰めた空気が(あお)を包む。そしてこれが実戦だということをようやく理解した。(あお)も鞘から刀を抜き放ち、正眼に見えるよう両手で構える。


 意識を切り替えた(あお)は深呼吸してゾドルを睨むように見る。


 それから(あお)はゾドルに駆け出し、袈裟斬りに刀を振る。


 ゾドルは(あお)の刀を剣で軽く横に弾き、ガラ空きの胴体にちくっと剣の先端を刺す。


 「いってぇぇぇ!」


 (あお)は刺された箇所を手で押さえて蹲る。


 「随分と情けないな少年は」


 ゾドルは呆れ顔で構えを解き(あお)に近づいて行く。メアも近寄る。


 「自分でもそう思ってんだけど、こういう痛みには慣れてなくて」


 (あお)は言い訳がましく蹲ったままゾドルを見る。


 「ヒダカ様。怪我した箇所を見せて下さい」


 メアが(あお)の服をめくり、傷を確かめる。


 「一体何を?」


 「これから治癒魔法を行います」


 目を白黒させる(あお)にメアが無表情で言う。


 (あお)が仰向けで横になり、青い皮膚のゾドルは様子を眺める。メアが傷の箇所に手を置くと白い光が洩れでる。


 「痛ッ⁉︎ イタタタッ⁉︎ なんか凄え痛いんですけど⁉︎」


 傷が治っていく筈なのに、感じたことのない痛みが患部を刺激する。


 「治癒魔法といっても、細胞を強制的に分裂及び活性化させるから痛いのは当然である」


 「合法的にヒダカ様を痛めつけるのは気分がいいですね」


 眺めていたゾドルが説明し、(あお)の様子を見た無表情のメアが愉悦気味に言う。


 「ドS発言いただきました。全く嬉しくございません」


 「クスクス。ヒダカ様はどんどん怪我なさって下さい。その度に私が責任を持って治しますから」


 「お願いだから痛くしないで‼︎」


 (あお)とメアがそんなやり取りをしていると、数十秒で傷が完治した。



 「少年よ。治ったなら始めるぞ」


 ゾドルが離れて剣を構える。


 「次は簡単にやられねえぞ!」


 気合を入れた(あお)も構えて走り出す。




★★★★★★★★★★★★




 ゾドルと特訓し始めてどれだけ時間が経ったのか。


 (あお)は突きを連続で放ち、細かく連続で攻めていく。ゾドルはその全てを剣で弾き、隙を見つけて(あお)に斬り込んだ。


 「チッ‼︎」


 (あお)は舌打ちをしつつバックステップでゾドルの剣を躱す。ゾドルはすぐさま追撃をかけて剣を流れるように連続で振るう。


 ゾドルの体の動きから攻撃箇所を予測する(あお)はそれらを全て()なすことに集中する。力は圧倒的にゾドルが有利で、鍔迫り合いにすら持ち込めない。だから刀でゾドルの剣を滑らせるように去なすしかなかった。これを連続で行えたのはついさっき。


 ゾドルの攻撃で服がボロボロになるまで何度も攻撃をくらった。逆に(あお)は掠らせることもできておらず、それが非常に悔しい。


 ゾドルの攻撃をあえて正面から受けて吹き飛ばされる。倒れないよう体をコントロールし、なんとか膝立ちの体勢に移行した。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 追撃してこないゾドルを確認して、荒くなった呼吸を整える。ゾドルは息ひとつ乱しておらず、そこも悔しさに拍車をかける。


 「少年よ。もう終わりか?」


 平坦な声でゾドルが問う。この辺で一つ小細工をしてみようと思った。せめて一太刀は浴びせたいから。


 (あお)は立ち上がって刀を鞘にしまい、鞘に入った刀を左の腰に当てて抜刀術の構えをとる。


 「少年よ、戦いの最中に納刀とは下策であるぞ。まさか抜刀術が通じるとでも思っているのか? 吾輩の諸手と少年の抜刀術では、どちらが疾いかぐらいわからぬわけではあるまい」


 ゾドルが無表情で言う。それでも(あお)は構えを解かない。


 「はぁ。少年よ、確かに抜刀術は初期動作が控えめで攻撃される箇所を読み難くく、斬った箇所によっては致命傷を与えることができる。しかし片手故に力が乏しく、正面からの戦闘には向かないぞ。それでもか?」


 ゾドルは威圧させるように問いかける。(あお)は構えを解かない。


 それを確認したゾドルは冷たい目で(あお)を見て、わざわざ正面から叩き潰そうと走り出す。


 その今までとは異なる空気に(あお)は冷汗を垂らすが、抜刀術の構えを続行する。


 ゾドルが剣を振り下ろした。今まではただの動作で剣を振っていたが、この一撃は敵を倒すための攻撃で。


 武器の長さは同じぐらいだが、腕の長さはゾドルの方が長く、ゾドルの攻撃範囲外から(あお)は攻撃することは不可能だ。


 ゾドルの袈裟斬りに合わせて、(あお)は溜めた力を解放して思いきり振った。……左手で逆手に持った鞘ごと。


 ゾドルの目が驚きに変わる。振り下ろされた剣の横合いから鞘をぶつけて逸らした。(あお)はその勢いを殺さずに体を右回転させて、剣とぶつかった鞘から右手で刀を抜き放つ。


 ゾドルの剣は(あお)の方から見て右に逸れており、左手で逆手に持った鞘でその剣が当たらないように去なした。一回転の勢いを加えた刀をゾドルのガラ空きの左へと打ち込む。



 「ぐあぁぁっ‼︎」


 (あお)は吹き飛んだ。体の正面から床に激突して滑っていく。


 あの瞬間にゾドルが、刀を抜いて背中を向けた(あお)に前蹴りを入れた。


 「大丈夫か少年。つい体を使ってしまった」


 「来るなッ‼︎」


 近寄ってくるゾドルに、(あお)は立ち上がりつつ叫ぶ。


 「まだッ、終わってねえ!」


 「すまぬ。確かにその通りだ」


 (あお)の雰囲気に何かを感じたゾドルは謝ってその場で構える。


 深く呼吸をしながら(あお)は立ち上がり右手に刀を、左手に鞘を持って構えた。


 「二刀流か……」


 ゾドルの微かな呟きが響いた。


 (あお)はゾドルに向かって走り出しす。ゾドルはその場に留まって迎撃を試みる。


 ゾドルが集中するのは、(あお)の両手だ。二刀流は左右のどちらから攻撃が始動するか直前まで分かりずらいが、片手故に一撃の威力は劣る。


 ゾドルは剣を大上段に上げる。リーチ、威力、疾さは全てゾドルが勝る。力を溜めて攻撃範囲に入った(あお)に剣を振り下ろせば、その時点で決着がつく。


 ゾドルの攻撃範囲の手前で(あお)は右手を動かしてゾドルの注意をそこに向けさせ、意識の外側にあったであろう靴を空いていた顔面目掛けて蹴飛ばした。


 「く⁉︎」


 ゾドル初めて声を上げた。そして飛んできた靴を反射的に剣で防いだ。


 ゾドルが剣で対処した時、自らの腕と剣で視界が遮られる。その瞬間を狙って(あお)はゾドルの足に左手の鞘を投げつける。


 ゾドルの体重は右足にかかっていた。剣でのガードはおそらく間に合わないから回避するだろう。体重は右足だから回避方法は左への移動。(あお)はここまで予想してゾドルの着地地点であり、ガードが難しい足に右手の刀で斬りかかる。


 予想通りゾドルが回避し、初めて自分の攻撃がはいったと予感して……(あお)は再び吹き飛ばされた。


 ゾドルが回避しながらも左手で裏拳気味に(あお)の頭を打ったのだ。



 意識が混濁している(あお)は、純粋な感想を浮かべた。何故自分の攻撃は通じないのか。悔しいから一本取りたくて小細工を弄したが効かない。ならどうすればいいのか。


 小細工が効かないなら、純粋に攻めるしかない。だったら一本取るなんてぬるい考えじゃなく、本気で殺しにかかればいいんじゃないだろうか。


 朧げな意識の中、そう考えたら体が軽くなった気がした。深く息を吸い込み、意識を集中させる。


 ゾドルは少し離れた場所で構えている。自分は……立っていた。刀もしっかりと握っている。そう確認して、もう一度息を吸う。


 そして、本気でいった。



 「なに⁉︎」


 ゾドルが目に見えて狼狽し、それから右頬にできた切り傷に触れる。斬れ味の良い物で斬られたような傷だった。



 裏拳を(あお)に当てたゾドルは、警戒を緩めずに構えていた。そしたら(あお)の雰囲気が変わり、一瞬と思える程の速度でゾドルの右隣から刀を振るっていた。視覚できなかったゾドルは殺気を感じて咄嗟に身体強化の魔法を行使したが、避けきれずに右頬を薄く斬られる。



 今の(あお)の雰囲気と先程の動きから、ゾドルは身体強化したまま警戒する。


 (あお)は無言のまま、高速でゾドルへと距離を詰めて首に刀を振る。今度はしっかりと目視したゾドルは刀を弾いて反撃したが、(あお)に躱される。



 (あお)は縦横無尽に移動し緩急をつけて攻撃に幅を持たせ、あらゆる角度から襲うがゾドルが寸分違わず弾くか回避する。しかしその顔には今までの余裕は見られなかった。



 (あお)はゾドルに斬りつけてから目の前でジャンプする。ゾドルは視線で追いかけたが上に(あお)はおらず、第六感が危険を鳴らした背後へ振り向く。


 (あお)は背後からゾドルに袈裟斬り。


 何故そこに(あお)がいるか考える暇もなく、ゾドルは間一髪ガードを間に合わせる。硬いもの同士がぶつかった甲高い音が響いた。


 (あお)は突きを顔に放ち、ゾドルは首を傾けて避ける。ゾドルの反撃を(あお)は去なして斬り込み、鍔迫り合いに持ち込んだ。


 「ぐ⁉︎」


 想像以上の力にゾドルは驚いた。(あお)はその瞬間を見逃さず、足払いをかけてゾドルを転倒させる。崩れ落ちるゾドルに、(あお)はもう片方の足で相手の右腕を蹴って剣を手放させた。


 ゾドルは右手が開き体勢を崩して満足に受身を取れず床に激突し、(あお)は頭上に掲げた刀を一気に振り下ろす。


 ビシャっと液体が(あお)を濡らした。



 「ヒダカ様、ようやく頭は冷えましたか?」


 (あお)が声のした方向に向くと、メアが右手を向けていた。


 辺りを見回すと、ゾドルは床に倒れながら左手をこっちに向けており、自分はびしょ濡れで刀は遠くに転がっていた。


 ゾドルが魔法で刀を飛ばし、メアが魔法で水を掛けた。



 「はい、おかげさまで。ゾドルさん、すみませんでした」


 今になって自分が何をしていたのか気がついた(あお)はゾドルに頭を下げて謝った。



 「いや、謝らなくてよいぞ。吾輩は怪我しておらず、それに面白いものが見れたのでな」


 ゾドルは立ち上がって(あお)に笑顔を向ける。


 救われたと思う感情と、罪悪感が胸に渦巻く。


 「今日はこれぐらいにしておこう」


 ゾドルが(あお)の肩を叩き、清々しい表情で訓練場を後にした。




★★★★★★★★★★★★




 「ようやく終わった〜〜」


 今日の予定が全て終わって、あとは就寝だけになった(あお)は安堵した声を上げてベッドに横たわる。


 今日からここが(あお)の部屋になった。ユリアの部屋程広くはないが、(あお)からすればかなり広い。第一印象は『真っ白』であり、カーペット、壁、家具、ベッドは白だった。



 「あれは何だったんだろうな」


 右手を眼前に掲げる。思い出したのは今日の特訓のことだ。あらゆる手管で一太刀を浴びせようとしてたが、あの時に頭をクリアにしたら体が思い通りに動いた。というか、ビックリするぐらい動いていた。ようやく異世界補正でもかかったのかな、とか適当に考える。思い当たる節がそれしかないから。


 あのままゾドルを殺していたら、自分の立場が悪くなっていただろう。今更ヤバイ状況だったと理解して、頭を冷やしてくれたメアに感謝する。最も魔法を行使したゾドルを倒せるかは不明だが。


 そこまで(あお)は思って、自分の異常性に気がついた。何故、殺人を躊躇わなかったのか。何故、ゾドルの心配よりも自己保身を優先して考えたのか。


 「…………」


 確かに自分は冷めた所もある。しかし他人の命を蔑ろに考えた事なんて無い。何が正常で何が異常なのか判断がつかなかった。


 あの時の自分は、確かに自分だった。自らの意思でああした。それに違和感を感じなかった。なら、あれが自分の本質なのかも知れない。


 (あお)は掲げた手を降ろした。


 自分のことをいくら考えてもわからないから、考えるのを止める。


 明日もこんな日程だろうから、疲れをとるためにも早く寝た方がいいだろう。毛布にくるまって電気を消そうとしたら、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。



 「はい、どうぞ」


 「失礼します」


 メアが恭しくお辞儀をして、部屋に入ってきた。


 「どうかしましたか?」


 何故メアが来たのか気になって、(あお)はベッドに座り直して尋ねた。



 「差し出がましいお願いで恐縮ですが、これからは私もこの部屋でお休みになっても宜しいでしょうか?」


 「は?」


 メアが言った意味がわからず、呆然と声を洩らす。


 「はい。私を毎晩この部屋で就寝させていただきたいのです」


 なんでだ? 毒舌で俺の心を折って、愉悦に浸るためか? 普通ありえそうで怖いわ。



 「えっと、何でですか?」


 「ヒダカ様の所為です。ヒダカ様がこの離宮で(いたず)らに地位を求めたので、他の使用人の反感を買ってしまいました。私は監視という名目の護衛です」


 つまり、俺の監視という名目の護衛、という名目の監視だろう。今日のゾドルさんとのこともあったし、そんな危ない奴は監視するのが当然だ。……合法的に女性と同じ布団で寝るチャンスでもあるしね。別に嬉しいわけじゃないけど。



 「なるほど。そういうことなら仕方がないですね。別に良いですよ」


 「ヒダカ様、顔がにやけていませんか?」


 「ま、まさか! そんなわけないじゃないですかぁ〜」


 おどけた感じで誤魔化す。メアは何も言わずに近づいてくる。


 「ヒダカ様。本日はお疲れ様でした。どうでしたか?」


 「そうですね。今までの生活とは違い、新鮮でした」


 素直に答える。メアは嘘を見抜く(すべ)を持っていると言っていた。受け答えは慎重にしなくては。


 「ヒダカ様が本日の訓練の時、急に見せたあの動きは何だったんですか?」


 いきなり本題に入ってきたようだ。


 「秘密をそんなに知りたいってことは、俺に気があるって期待してもいいんですか?」


 「ヒダカ様は真実を話すという取り決めだと記憶しておりますが」


 自ら提示した取引で、自らの首を絞めることになるとは。まあ俺も知らないから正直に答えてもいいんだけど。



 「……メアさんの嘘を見抜く術で調べてみてはどうですか?」


 「…………」


 メアさんは無言だった。どこまでその力でわかるのか。嘘を見抜くだけなのか、相手の心理や感情まで読み取るのか。


 答えをこちらに求めてきたということは、メアさんの嘘を見抜く術は相手の反応が必要ということだろうか。それとも俺のことを全て見抜いていて、あえて訊いてきたのか。いや、俺自身も知らないからわざわざ訊いてこないか。


 となると、メアさんは訓練場で見た俺の力のことを知らないから訊いてきた可能性が高い。つまりメアさんがこの部屋に来るまでは俺のことを見抜けておらず、だから訊いてきたのだ。もし見抜けていたなら、俺自身も知らないと気付くのでわざわざ訊いてこないだろう。


 さっきの問答で俺が適当に答えたら催促してきた。イエスかノーといったものじゃなければ、相手の嘘を見抜くことはできないということだろうか。


 今の所メアさんの力は、無条件で相手の心理を読み取るものではなく、その事柄に関する相手の返答が必要という可能性がある。



 「あの力は俺の元の世界にある力で、超能力といいます」


 「…………そうですか」


 メアは(あお)をジッと見て、それだけ答えた。


 今のは嘘だと見抜いただろうに、あえて指摘しなかった。俺自身が力を知らないと見抜かれたか、警戒されているのか。そう考えたら少し悲しかった。


 「俺の力のこと何かわかりましたか?」


 「さあ、どうでしょう」


 メアは無表情で目線を合わせる。


 嘘をついたがメアさんは今日だけユリアのお願いで見逃してくれるはず……だよね? じゃないと取引が反故になっちゃうよ!



 「今日はもう寝ませんか? 疲れてしまったので」


 (あお)はこれ以上話してボロが出るのを防ぐため、さっさと切り上げることにした。


 「ヒダカ様がそうおっしゃるのなら」


 メアは礼をしてベッドに近づく。


 「え? メイド服のまま布団にインしてスリープですか?」


 「はい。これしか持っていないので。ヒダカ様が嫌だとおっしゃるのなら脱ぎますが?」


 「…………ちなみに下は?」


 「下着のみでございます」


 ガチか‼︎ どうする? 嫌だと口にだすか? 何かを失ってしまいそうだが、俺は人生最大級の幸福を得ることができる。だったら悪い条件ではないはずだ!


 軽く身だしなみを整え、キリッとした顔で紳士っぽく見えるように振舞う。


 「そうですね。僕らの世界では就寝時に衣服を着用しない主義なので、大変心苦しいですがメアさんも是非そのようにしていただければと」


 「かしこまりました。少々お待ちください」


 メアは無表情でメイド服に手を掛ける。

 あれ? 冷静になって考えればヤバイ状況だ。


 ①.メアが衣服を脱ぐ。


 ②.一緒にベッドに入る。


 ③.俺、粉末に変身‼︎



 「メ、メアさん! 今のはただの異世界ジョークですから脱がないで下さい!」


 「かしこまりました」


 メアはメイド服から手を放した。


 だからといって油断できない状況だ。流石にソファーでは寝たくないし、メアさんをそこで寝かせるわけにはいかない。こうなるなら何故ベッドが二つある部屋を用意しなかったのか。


 目的は既成事実を作って、それを盾に俺と交渉とか? それだけなら理由として軽過ぎる。


 こうなったらメアさんに自主的に出て行ってもらうしかないな。


 「俺も男ですし、一緒に寝たらメアさんをどうするかわからないですよ?」


 ミジンコとは死んでも関係を持ちたくありません、とか言って出て行ってくれることを願おう。



 「ヒダカ様はお嬢様の次に地位が高いです。ですから、もしそうなったなら私は抵抗せずに嗚咽を漏らすしかないでしょう。ヒダカ様はそんな私をお襲いになりますか?」


 俺の負けだった。そんなこと言われたら何もできる筈がない。


 「そんなことは絶対にしませんよ」


 (あお)はメアに微笑みかける。



 「随分とヘタレですね」


 相変わらずの無表情で言う。

 やはりメアはメアだった。

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