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異世界召喚のれいてぃあ!  作者:
第1章 新たなる世界で
5/13

第4話 異世界での今後に向けて

 「………………なんて言った?」


 「ここは魔人(メイリア)の首都シエルです」


 「………そう………か」


 目の前の城壁を見上げながら、日高蒼(ひだかあお)は己の感情を落とし込むように呟く。


 ユリアが話した内容はすぐに真実だと理解できた。ユリアの雰囲気が真剣なこと、ここに来るまでの会話でユリアの性格をある程度把握したこと。この2つを加味して考えれば、ユリアが嘘や冗談を言っていないとわかる。


 そして、ユリアが何故この街に連れて来るのに乗り気でなかったのか。ここは魔人(メイリア)の住む街であり、その彼らから害を与えられると危惧したからではないかと(あお)は考えた。


 「俺は拷問でもされるのか?」


 汗ばむ手を握りながら、隣に立つユリアに鋭い視線を飛ばす。


 「ん〜〜、多分大丈夫だと思うよ。絶対って言えないけど……」


 「どのみちついて行くしか選択肢は無いからな。………で、この格好じゃさすがにマズイか?」


 (あお)は自分の全身を軽く見回す。

 本当ならユリアに問い詰めたいことが山ほどあった。だがそれら全てを胸の奥にしまう。今聞いたところでどうにもならないからだ。



 「見つからないようにするし、問題ないかな。そ、それでね………えーとね、あの………そにょ………」


 急にしどろもどろになったユリアは、顔を真っ赤に染めてあらぬ方向を見る。


 「ああ、トイレか。背中向けて耳塞いどくから、してきていいぞ」


 「ち、違いますっ‼︎ 女の子に何てことを言うんですか! あなたはっ‼︎」


 「とりあえず声を小さくしようぜ。誰かにバレる」


 「うぅ………そうですね………………バカ」


 今度は怒りで顔を真っ赤に染めたユリアは、不機嫌に口を尖らせる。


 「それで、何を言おうとしたんだ?」


 悪びれる様子も見せずに、若干睨みつけているユリアを無視して話を続ける。


 「えぇっと………その、大変申し上げにくいのでごじゃりましゅが、ヒダカ様のお体に触れさせていただけりぇばと………しょの………思いまして」


 「そうか。好きにしてくれ」


 「そうですよね。私みたいな女に触られたくないですよね………えっ⁈ いいんですか!」


 「それが必要なことなんだろ? ならそうすればいい」


 「でも抱っこだよ? それもお姫様抱っこだよ⁉︎」


 「えっと、俺がされる側なのか………。それはちょっと………」


 「そう………ですよね。私に触られたくなんかないですよね」


 「悪かった。言ったように好きにしていいから、優しく頼む」


 「う、うん。ちょっと恥ずかしいけど………それじゃ、するよ?」



 何なんだろうこの展開は、と驚き半分呆れ半分で成り行きに任せる。


 フードを被ったユリアは(あお)に近付いてから両腕に担ぎ、そのまま城壁を越える為に空に舞う。



 慣性が反転し、(あお)が気付いた時には地面に居た。それらからぐるぐると頭がシェイクされる感覚に陥り、高速で景色が流れる。



 「はい、着いたよ」


 ユリアがそう言って止まった先には、かなり大きな建物が建っていた。例えるなら西洋の宮殿の様な印象だった。


 「……ここは?」


 頭を押さえつつ、覚束ない足取りでその建物を眺める(あお)


 「いちおう私の家だよ」


 「マジで?」


 「マジで」


 フードを深く被り直したユリアは、玄関へと足を運んで行く。若干気後れしながらも、その後へと続いた。



 「お帰りなさいませ、お嬢様」


 扉を開けた先にはメイドが一人、お手本の様な流麗なお辞儀をしていた。


 「メアさん、ただいま。しばらくの間人間(ヒュライン)が在住すると共有して」


 「かしこまりました」


 ユリアに命令されたメアというメイドは、(あお)を一瞥する。終始無表情だったため、メアがどう思っているのかを読み取ることが出来なかった。



 メアと呼ばれた女性は赤い髪をした美人だった。そして、ツノと尻尾が生えている。人間の姿をベースにしているのに、人間には絶対に存在しないツノと尻尾があるという矛盾。そのアンバランスさは(あお)に多種族という存在を理解させるのに十分だった。



 メアは、失礼します、と礼をして奥へ引き返して行く。先程ユリアに言われたことーー(あお)がここにしばらく住むことを他の魔人(メイリア)に伝えるーーを遂行しに向かったのだろう。



 「えっとね………まずはお風呂に入ろっか」


 頬を染めたユリアは流し目で(あお)を見やる。


 「よし混浴か。さあ入ろう! 今すぐ入ろう‼︎」


 「ふぇっ⁉︎ だ、ダメだから‼︎ おお、男のヒトとだなんて………しょんなこと………絶対にダメ‼︎」


 ユリアはさらに顔を真っ赤にし、頬をぷっくり膨らませて、ズカズカと通路を進んで行く。



 (お嬢様………ねぇ………)


 先を進むユリアを静かに見つめた(あお)は、次に周囲の壁や天井を見回した。


 ("お嬢様"に対して失礼を働いた訳だが、誰かが注意やら見張りやらをする気配はないか。カメラの類は設置してないと思われる。現時点では、だか)


 「おーい、ちょっとした冗談だから、機嫌直してくれよ」


 ユリアから少し遅れて、明るい声をかけながらも、(あお)の意識は別の場所に向けられている。


 (出来れば一緒に入りたかった。今のローブ姿よりも布面積が減るだろうから、ユリアの体の魔人(メイリア)としての部分を確認できるチャンスだったんだが。魔人(メイリア)に関しての知識は当たり前だが無い。だからこそサンプルは多いに越したことはない)



 「つーん」


 こちらに振り向く素ぶりすら見せないユリアに対し、やれやれと肩をすくめてから、廊下の装飾に目を通す。

 床はカーペットが敷かれ、壁やカーテンは白が基調になっている。どことなく寂しい印象を受けた。



 長い廊下を歩く途中に使用人と思われる人とすれ違ったが、体が赤かったり、爪が鋭かったり、翼が生えていたりと、一目で魔人(メイリア)であろうと判断できる容姿をしていた。


 ここまでくると、俄然ユリアの身体的特徴を探したくなってしまう。


 さすがに覗いたりはしないけどな、と誰に言うでもなく呟いた。




★★★★★★★★★★★★




 「………お風呂に着きました」



 目の前には立派な扉がある。この中が浴室なのだろう。


 「俺はここで待っていればいいのか?」




 メアさんがもの凄い殺気を後ろから放ってきている。


 「私は別のに入るから。メアさんあとはお願い」


 ユリアはそう言って出て行き、(あお)は振り返って見送った。残ったのは(あお)とユリアにお辞儀をしていたメアの二人だけ。



 「着替えはご用意してあります。それと、お嬢様にはご冗談でもあの様な戯言はお控えください」


 メアは抑揚の無い声を出しながら(あお)に近付く。恐々としながらも取り敢えず謝る事にした。


 「すみませんでした」


 「素直な事は良い事です。私はこの離宮のメイドを勤めさせていただくメアと申します。お客様のお名前をお聞かせください」


 メアは(あお)の目の前のでメイド服のスカートの端を持ち、うやうやしく頭を下げた。


 礼儀正しいメアに(あお)は緊張したが、うやうやしく見える様に頭を下げる。


 「名前は日高蒼(ひだかあお)といいます。(あお)と呼んでいただいて結構です」


 「それではヒダカ様。お手伝い致しますので、入浴しましょう」


 そう言ってメアは(あお)の服を脱がしにかかる。


 「な、何するんですか⁉︎」


 (あお)は必死に抵抗する。無表情で脱がせてくるメアが凄く怖い。


 「お客様を精一杯お世話する事が私どもの勤めでございますので。ただ、お客様の下のお世話をする義務はございませんので悪しからず」


 「男のロマンが……。じゃなくて、一人で出来ますから!」



 その後も大変だった。体を洗おうとしてきたり、入浴中もずっと見てきたり、パンツを洗おうとしていたり、タオルで拭こうされたり、服を着せてこようとしたり、休む暇はなかった。



 ようやく入浴が終わり、(あお)はメアに促されて後をついて行く。ちなみに、用意してあった着替えは男物のパジャマだった。


 浴槽にはシャワーや自動温度調整機などが完備してあった。文明の差は元の世界と同等か、もしくはそれ以上あると(あお)は踏む。



 「どうぞ」


 メアはそう言って豪奢な扉を開いた。施星の国(ステルラ)とは違って扉は自動ではないらしい。


 (あお)はメアが開けた扉を抜けると、かなり広い部屋だった。白が基調で、机、テーブル、ベッドといった主要な物は揃っている。ただ、個人の物は見当たら無かった。この部屋を他の人が見れば、口を揃えて客室だと言うことだろう。それ程までに個人の色は無い。



 その部屋の大きな天蓋付きのベッドの上に、ユリアが女の子座りで(あお)の方向を向いていた。淡いピンクのパジャマを身に纏い、湯上りのせいか金色の髪が湿っていて頬が赤らんでいる。


 (あお)がつい見惚れていると、メアは、失礼します、と一礼して部屋から出て行く。


 (あお)はユリアの元へ歩く。おそらく(あお)の事で質問があるのだろう。


 「アオ、お腹空いてない?」


 近付いて来る(あお)にユリアが声をかけた。召喚されてから一度も食事を口にしていなかった事を思い出したが疲れの方が酷く、そんな気分にはなれない。


 「いや、空いてないよ」


 ユリアの前まで行き、どんな質問が来ても誤魔化せるようにある程度予想する。どうやって来たのか、何の目的があるのか、糸を引くのは誰か、といったものだろう。緊張を緩和する為に深く息を吸う。

 ユリアが口を開いた。





 「それじゃ、一緒に寝よ?」



 What? 何かもの凄い事を言われた気がする。うまく頭が回らず、思考も動作も全てが停止している。


 「えっ、何だって?」



 「だから、一緒に寝よう?」


 ベッドに座るユリアは、(あお)を上目づかいで見上げる。



 (お、おおおお落ち着くんだ俺。な、何らかの目的があるはずだ。だから、顔がニヤつくのは止めてくれ)


 (あお)は両手で顔を覆い隠し、何度か身をよじる。



 「靴は脱いでね」


 ユリアは掛け布団をめくり、ベッドに入れと促す。


 相手は幼女、と(あお)は何度も自分に言い聞かせておずおずと布団に入る。何か考えがあっての事だと信じて。



 (あお)が入ったことを確認したユリアは、ベッドの宮棚に手を置くと部屋の電気が消えた。


 おやすみ、とユリアは言って横になる。(あお)も返事をして同じように横になる。気まずい空気に耐えられないので紛らわす為に質問をする。



 「……何で一緒に?」



 キングサイズベッドは二人いても十分なスペースがある。ふかふかして寝心地が良く、シーツからフローラルな香りが鼻腔をくすぐる。



 「まだアオの部屋が用意できてないからだよ」


 (あお)はユリアに背中を向けているが、ユリアは(あお)の方を向いている。


 「……それは嘘だろ?」


 静まり返った部屋に(あお)の声が響く。

 わざわざユリアの部屋でなくともいいだろう。使用人の部屋でもいいはず。つまり目的は別にあり、それは監視すること。でなければお嬢様と同じ空間で休むなどありえない。



 「あはは……そうだね。……目的は別にあるよ」


 「……監視か?」


 お互いが動いた時に生じる布が擦れた音や振動が相手に伝わる。



 「……えっ? ……違うけど」


 あれ? ちょっと格好つけた自分が恥ずかしい。シリアスな空気にしてしまった事が馬鹿みたいだ。


 疑問よりもこの空気を払拭したくて、何で? と尋ねる。後ろを向いていて良かった。



 「……メアさんは大丈夫だけど……他の魔人(ヒト)が…………人間(アオ)を…どうするか……分からない…から……」


 消え入りそうな声で途切れ途切れにユリアは答えた。杞憂だったようで若干安心したが、まだ楽観視できない。それでも自分の事を考えての行動だと思うと嬉しかった。



 「ここは、ユリアの部屋なのか?」


 部屋を視界に入れた瞬間から湧いていた疑問だった。あまり聞かれたくはない質問かもしれないが、ここが彼女の部屋だとしたら寂しすぎる。ただの自分勝手だが、どうにかしてあげたかった。


 「……うん……そう…だよ……」


 予想通りの答えだった。メアさんは彼女をお嬢様と呼び、この場所を離宮と言った。ユリアはかなり身分が上ということだ。


 危惧していた常態ではない事に一先ず安心する。



 「ユリアは何者なんだ?」


 (あお)は体を反転させ、ユリアの方に向いて訊いた。聞かれたくはないであろう質問を。



 「…………」


 (あお)の目の前にはユリアの寝顔があった。確認した(あお)は一気に脱力する。


 「もう寝てたのか」


 暗闇に慣れた目でユリアの顔を眺めながら苦笑した。年相応のあどけない寝顔はもの凄く穏やかだった。


 そのまま眺めて感慨にふける。

 おそらく、妹がいたらこんな感じなのだろう。そう思うとつい笑みがこぼれてきた。


 睡魔に身を委ねる。細かい事を考えるのは明日にする。今はただ、それに浸りたかった。




★★★★★★★★★★★★




 施星の国(ステルラ)にある謁見の間。召喚の翌日、昨日と同じ面子が集まっていた。正確には一人欠けているが、これが本来の面子だったのだろう。



 異様な空気がこの場を包んでいた。坂本祐磨(さかもとゆうま)桜井彩音(さくらいあやね)水野大雅(みずのたいが)、王のシェームズ、王女の五人は視線をあらぬ方向へと気まずそうに動かす。


 昨日の出来事が原因だろう。兵士はなんとも言えない顔を、貴族は何が何だか分からないから顔で成り行きを見守る。



 「ごほん、では昨日の話の返事を聞かせてもらいたい」


 跪く三人に、玉座に座るシェームズが咳払いをして話を切り出す。微妙に目線を逸らしているが。



 「分かりました。僕達は了承します」


 彩音と大雅の顔を見た祐磨が代表して答えた。


 そうか、とシェームズは呟いて頷き安心した顔で笑う。


 「質問があります。(あお)は何故居ないのですか?」


 三人にとって最も重要な事を祐磨が訊いた。緊張と不安に満ちた顔で。


 「夕食を届けた時点で彼は既に居なかった。今も兵達に捜索させているが、手掛かりすら発見できていない」


 「な、何故です?」


 焦燥に駆られた祐磨がシェームズを見上げる。彩音や大雅も驚きの表情だ。


 「理由は分からない。が、我々は彼が魔人(メイリア)に連れ去られた可能性が高いと踏んでいる」


 それを聞いた三人には口を開き呆然とする。


 「彼を助ける為にも協力は惜しまない。一緒に魔人(メイリア)を倒して彼を救い出そう」


 シェームズはどこまでも優しい雰囲気で三人に言う。祐磨、彩音、大雅は頷いた。



 「差し当たり、君らには学園に通ってもらう。この世界を知るに適しているからの」




★★★★★★★★★★★★




 「起きて下さいませ、ミジンコ様」


 「うがぁぁ⁉︎」


 (あお)は、不機嫌な声と床に叩きつけられた衝撃で目を覚ました。


 背中をぶつけた(あお)は手で押さえて悶絶する。



 「おはようございます、ミジンコ様。朝食の準備が整いましたのでさっさと戴いて下さい」


 (あお)の目の前には無表情でスカートを摘んでお辞儀をするメアの姿があった。


 辺りを見回すと、ベッドには女の子座りで目をこするユリアがいる。昨夜の事を思い出し、若干気恥ずかしかった。



 「ミジンコ様。つかぬ事をお聞きしますが、夜にお嬢様とは当然何事も無かったのでございますよね?」


 「なんか呼び方変わっていませんか?」


 「ヒダカ様の気のせいでございます。もしも何かあったのなら、そのミジンコを引っこ抜き目の前で粉末に致しますので悪しからず」


 もの凄い悪寒が(あお)の背中を走った。無表情のまま恐ろしい事を言うメアさんには逆らわない方がいいだろう。何を引っこ抜くのかは考えたくもない。



 「と、当然何事も無かったです!」


 あまりの恐ろしさに(あお)は焦りながら言った。何もしてないにも関わらず冷汗が流れ、自然に正座をしていた。


 本当でございますか? とメアはユリアに尋ねた。



 「えっとね、たしか……アオが密着して関係を持ちたいって言ってきて、それから実は我慢できなくなったけど大丈夫だよ痛くしないからって言ってきて、それから人生最大級の痛みに苛まれるけど気をつけるんだぞって言ってきて、それからユリアと一緒にいくって言ってきて、最後にユリアの所為だからって言ってた」


 目を瞑りこっくりと船を漕ぎながら、ユリアはメアの質問に答える。


 (あお)はメアの方向を向く事が出来ない。ああ終わったな、と一種の境地に達していた。言った言葉が一応事実であるから憎らしい。


 その内容だと(あお)が無理矢理ユリアに迫り、その責任を全てユリアに押し付けたみたいに聞こえる。



 「では、ミジンコ野郎と男女の関係があったという解釈でよろしいですね?」


 メアは凄まじい殺気を撒き散らして(あお)に顔を向ける。メアさんは笑顔でした。



 「ふぁっ⁉︎ 男女の関係なんてないからっ‼︎」


 ユリアが顔を赤くしてメアに言う。ようやく目が覚めてくれた事に(あお)は安堵する。



 「そうですか。ヒダカ様、粉末に変身できず残念でしたね。では別の部屋で着替えを」


 メアは無表情で(あお)の手を持ち、連れて行った。





 現在の場所は食堂。


 「はみゅぅ〜〜〜」


 「筋肉にくにく肉団子!」


 「相変わらず五月蝿いゴリラですね。ミジンコと合わさり不愉快です」



 なんか、カオスでした。

 ユリアは対面に座って変な声で唸り、ユリアの後ろにいる青い皮膚のガタイの良いオッサンはダンスをしながら肉を連呼、(あお)の後ろにいるメアは無表情で言葉の攻撃。


 この空気の中で食べるご飯は最高にヤバかったです!


 「ご、ご馳走様でした」


 (あお)は史上最悪の空気の中でなんとか完食する事が出来た。もし残したらメアに何か言われていただろう。



 「そうであるか。では、少年に質問がある。少年は何者だ?」


 肉を連呼していたオッサンが殺気を混ぜて質問してきた。不意打ちに(あお)は体をビクッと震わせる。



 「……日高蒼(ひだかあお)人間(ヒュライン)です」


 「ここに来た目的と移動手段は?」


 「……気が付いたら森に居ました。目的はありません」


 再びオッサンが質問する。ユリアはその様子を見てハラハラし、メアは無表情で佇む。



 「何を隠している?」


 「………………」


 「だんまりでも構わんが、こちらには少年の心理を読み取る手段がある」


 (あお)が言ったことは全て真実だ。本人が理解できている事もそのぐらいしかない。その事を理解し、どこまで話せばいいか思案する。



 心理を読み取る手段があるなら、何故最初から使用しないのか。今は使えないのか、嘘発見器みたく相手の反応が必要なのか、脅しただけで本当は無いのか。


 魔人(メイリア)は召喚の事をどこまで知っているのか。自分がそうだと知られたら、召喚対象は三人だから他に二人が存在する事を感づかれる。それであいつらに危険を負わせる訳にはいかない。


 心理を読み取る手段がある可能性はある。嘘をつくにはリスクが伴うが、本当にあるなら嘘をついた時に指摘してくるはずで、結局は情報を渡す事になる。なら自白して多少でも信用を得た方が得策だが、読み取る手段が無い可能性もある。


 ある程度真実を話しつつ偽る事にする。それなら矛盾を減らしつつ怪しまれにくくなるはずだ。そもそも、あいつらとこの世界に来た時点で偽るしか選択肢がない。



 「……森に居た時すでにこの社会の記憶が殆ど無かったです」


 嘘ではない言い方は限られる。これなら嘘として引っかからないだろう。


 「どこまで覚えているのだ?」


 「施星の国(ステルラ)の記憶が少しだけ。それから森に居ました」


 悟られない様に相手と視線は合わせず、俯き加減であくまで冷静に。


 「本当の事を言ってない様子である」


 その言葉に動揺しない様に堪える。


 「…………」




 「実は施星の国(ステルラ)で異世界人を召喚したとの報告があったのだが」


 これには流石に動揺して顔を上げてしまった。


 「やはり心当たりがあるであるか。そして少年もその一人であろう?」


 「……分からないです」


 (あお)はおそらくイレギュラーな存在だから、通じない訳ではない。召喚した当人達も分からなかったぐらいであるから。


 魔人(メイリア)が情報を掴んでいる可能性として最も高いのがスパイだ。



 「分からないとは、愚弄してるのであるか⁉︎」


 「ねぇ! もういいでしょ!」


 凄まじい剣幕のオッサンにユリアが立ち上がって止めに入る。


 これ以上場が混乱するのも面倒なので、確信を得るために逆に質問する。



 「その人達の名前は判りますか?」


 「答える義務があるとでも?」


 「こっちだけが質問責めと言うのも些か不公平ではありませんか?」


 場の空気が自分に集まっている事を感じながら、そのまま押し通す。相手のオッサンは武人といった感じだから、話してもいい内容ならおそらくは………。



 「……ユウマ・サカモト、アヤネ・サクライ、タイガ・ミズノ、そして行方不明となったアオ・ヒダカの四人で、おそらくは全員が交友関係だ」


 不承不承といった感じでオッサンは答えた。ユリアは椅子に座ってから黙って成り行きを見守り、メアは無表情で動かない。


 謁見の間で対話した時、名前を聞かれたから四人の名前を知っている理由は理解できる。



 「では、その人達の身体的特徴は?」


 「はぁ……服装は全員同じ様式だ。ユウマ・サカモトは白髪に黒目のイケメン。アヤネ・サクライは黒髪に紫の瞳の美女。タイガ・ミズノは赤髪赤目のイケメン。最後にアオ・ヒダカは黒髪黒目のフツメンだ」


 ちょ⁉︎ 最後の明らかに不要でしょ! ただのイジメじゃないか!



 「……そうですか。では彼らの世界の魔法は知っていますか?」


 「……分からぬ」


 相手の答えは真実か偽りか。勿論魔法など存在しない。だから密告もされていない。


 相手が嘘を見抜く術を使っているなら、魔法が無いと指摘してくるか、もしくはとぼけているのか。


 リスキーだが攻める事にする。



 「彼らの世界の魔法を知りたいとは思いませんか?」


 あくまでも平淡で冷静に。


 「見下げ果てたな少年。仲間を売るつもりか?」


 「…………」


 武人みたいだから仲間を売る事に対して激昂しているのだろう。殺気もあり、本当に怒っている様に見える。


 この時点で嘘を見抜く術を使っている可能性はほぼ無いだろう。魔法が無いと見抜いたなら挑発に乗るかどうか。これが演技なら称賛ものだ。



 「ふぅ……少年の動きは素人だ。魔法も使わないと聞いているが?」


 冷静になったオッサンが質問してくる。おそらくユリアに、俺が魔法を使った事が無いと聞いて、使えないと鎌を掛けたのだろうか。



 「確かに俺は落ちこぼれだ。だが、あいつらは違う。だから召喚されたんだろ?」


 「では、少年は召喚されたと認めるか?」


 ある程度舞台は整った。まだまだリスクはあるがこっちのペースの内に押し切るしかない。



 「……取引がしたい」


 「内容は聞いてやろう」


 緊張で体がやばい。冷汗もかき、時々体も震えた。メアさんに気付かれていたら全てが水の泡になるかもしれない。だから早めに切り上げるしかなかった。



 「俺は真実を話すこと、及びその魔法とそれに付随する知識を話す。その変わりに俺の安全の保障と衣食住の確保、及びこの離宮でのある程度の地位が欲しい」


 この発言に三人はおのおの反応した。ユリアは戸惑い、オッサンは驚き、メアはピクリと体を動かす。


 「ある程度の地位とは?」


 「ユリアと同等とまではいかないが、それなりに欲しい」


 俺の言葉が嘘だと気付いているならこんな取引乗らないだろう。つまり、乗ったなら気付いていないということで、現時点で俺の嘘を見抜く術は無いという事だ。


 そして召喚というシステムが、召喚されし者の力量をある程度示唆している事になる。まさか戦力として召喚された者が素人などと誰が思うか。



 しかし(あお)は知らない。シェームズには、既に彼らが戦闘経験と魔法知識が無いとばれている事に。そして魔人(メイリア)もその様な報告は受けていない。



 「……よかろう。少年が反故にしないなら、その取引を確約しよう。ユリア様もそれでよろしいですね?」


 「私はそれでいいよ」


 そこまで決まり、(あお)は一先ず心の荷が下りた。


 この取引はユリアが居なければ成立しなかった。ユリアが居たからこそ拘束されて拷問にかけられず、話し合いと取引に持ち込めたのだ。



 「実はもう一つ取引があるんだが」


 「聞こうではないか」


 「そっちの予想通り俺は召喚され、他の三人は友人だ。俺は三人を説得して魔人(メイリア)と敵対しない様にする。説得に成功したなら俺達に敵対しないで欲しい」


 「よかろう。こちらとしても敵対したくはない」


 ようやく最善の結果になった事に安堵する。後は説得してどの種族とも敵対しない様にし、帰る方法を見つけるだけ。



 だと言うのに、(あお)の心には何かが引っかかっていた。

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