表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚のれいてぃあ!  作者:
序章 異世界
4/13

第3話 絶望と邂逅

 皓々たる月の光が射し込む森の中、のそのそと歩く少年の名前は日高蒼(ひだかあお)



 異世界に召喚された時と同じ様に、気付けばこの森の中に居た。


 元の世界の森の様に木は標準的な高さで、葉は緑に染まり違和感を感じさせない。


 元の世界なのか異世界なのか現時点での判断がつかない(あお)は、食料と水を探しつつどちらの世界なのかを観察しながら歩く。


 寒気で肌寒く、吐く息が若干白くなっている。冬場なみの寒さは無く、秋の訪れを思わさせる程度だったがたまらず腕を摩る。


 冬用の制服で良かった、と微かに呟いた。



 足音や物音を立てない様にゆっくりと警戒しながら歩く。


 歩き始めておそらく数十分は経っている。しかし、サバイバル経験の無い(あお)には食べてもいい物の選別は出来ず、パッチテストで調べた草ぐらいしか食料にならない。水場も一向に見つからず、野宿しようにも恐怖が勝って眠りにつく事は不可能である。



 結局は歩き続けるしかない、という結論に至った。無駄に体力を使うだけだが動いて気を紛らわしたかった。こんな所で休めば精神が保ちそうになかった。


 辺りには草木しかなかった。幸い動物と遭遇する事はなかった。それでも警戒は緩めなかった。



 遭遇するのが小動物ならいいが、熊だったら終わりだ。最も、擬似冬眠している可能性もあるかもしれないが。


 異世界の場合は魔物等が居る可能性もあり、それは最悪の結果だ。



 周りの音に気を配りながら慎重に進む。進む方向は、何故だか今進んでいる方向が正しいと感じる。



 そのまま進み続けてーーーーガサ、と葉が何かに当たって揺れた音が聞こえた。


 (あお)の身体はビクッと反応し、その場に息を殺して身を潜め、すぐ動けるように片足を膝立ちのままその方向を見る。


 不安からか、出遭ってはならない生物が脳裏をよぎり冷汗が流れる。



 ガサガサと再び音が鳴り、(あお)はゆっくりと音を立てない様にこの場を離れる事を試みる。


 直後、茂みの中から何らかの生物と思われる二つの眼に凝視されている事を(あお)は知った。


 視線が交錯して相手の異常性が分かった。自分は餌としか見られていない。


 今までの生活でこんな感情は初めてだった。生物の本能に刻まれているであろう恐怖。そこから生じる絶望。この場を包む異常な空気。


 それらを感じ取った(あお)は全力で逃げ出した。




 ★★★★★★★★★★★★




 いつもの様に悩みながら森を歩く。


 悩みの種は自分の容姿だった。


 ため息を吐きながらも、慣れた足取りで森を歩く。


 基本的に毎晩森に訪れては花を眺める事が最近のお気に入りになっている。



 長めの金色の髪を右手の甲で靡かせる。艶やかな髪が均整に流れ行くさまは芸術のようだ。



 物憂げにため息を再び吐き、端麗な顔が陰鬱に歪む。


 気分を払拭するべく好きな花を思い出す。先程より軽い足取りで歩き出しーーこの森を移動する二つの気配を捉えた。



 隠れて様子を見ると、前方には木だけが円形状に抉り取られたような空間に一人のヒトが走って来て、その後を狼の魔物が追っていた。



 「……うそ……」


 思わず声に出していた。その事に後から気付いて咄嗟に口を左手で塞ぐ。


 呆然としながらも、息を潜めて気配を殺す。



 何故この場に"それ"が居るのか思案する。居るはずのないものが居る。明らかに異常な出来事で、それ程までにありえない光景だった。



 状況を良く確認する為に、横から見える位置に素早く移動する。



 少年が転ぶ。その顔には恐怖と……何かの感情が交じった様な表情だと、今更気付いた。



 体が勝手に動いて助けに入っていた。魔法で魔物を吹き飛ばし、少年には衝撃がいかないようにする。



 怪我は無い? と訊きつつ警戒しながらも心配する。夜の森で魔物から走って逃げられる筈が無いから、何かを行使していたと考えた。


 (魔法? それとも……)


 そこまで考えて、少年の様子がおかしい事に気付いた。見惚れる様にこちらを凝視して、それから頬を少し赤らめ、誤魔化す様に答えながら目線を逸らした。



 その表情が新鮮だった。子供みたく悟られまいと必死に見えた。それがあまりにも可笑しくて、でもどこか心が温かくなった。


 日常生活であまり得られる機会の無い感情を得る事が出来た。



 だからだろうか、殆ど浮かべた事がない笑顔を浮かべたのは。




★★★★★★★★★★★★




 関係上、引き上げる時に体を後ろに引いて引っ張る事になる。


 (あお)は立ち上がり、目線を下げて少女を見る。


 艶やかでサラサラの金色の髪に、透き通る様に澄んだ紅の瞳、雪の様に白い肌に端麗な顔、身体を包む純白のローブを纏っている。


 純白のローブは羽織るようなタイプの物で、前が開くようになっている。



 この世のものとは思えない程整った顔立ちをした少女だった。


 「って、子供じゃん。俺のトキメキ返して」


 「うわっ⁈ 喋った⁉︎」



 驚いて木の裏に隠れる少女。ヒョコっと顔をのぞかせて、観察するようにジッとこちらを見る。


 「そんな逃げられると傷つくんだが」



 可愛い声をしてるな、と思いつつ、両手を軽く上げて無害ですよアピールをする。




 「ふぇ⁉︎ ご、ごめんなさい‼︎ はじめてだからつい………」


 そう言いながら、彼女は申し訳なさそうな顔で俯いた。

 そんな彼女の姿を観察しながら、


 (ここが異世界なのが証明されてしまったか。取り敢えず今は生き延びるのが優先………って、それはいつでもやん。なんでこんな所にいるのか等、聞きたい事はあるが、まずは安全の確保を考えよう)




 「えっと、お嬢ちゃん? この近くに町はあるかな?」


 「町? あるにはあるけど………。まさか行くき⁈ 絶対やめた方がいいよ‼︎」



 「いやでも、行けないと俺死んじゃうんだけど」


 「うーん………君は一体何者なのかな?」


 (あお)の全身をじっくり見回した後、疑いの眼差しを上目遣い気味に向ける。



 「見ての通りひ弱な人間(ヒュライン)さ。ただ記憶が混乱しているようで、どうして今自分がここにいるか分からないんだ」


 上手な言い訳が思いつかなかったので、記憶に支障をきたしている設定にした。しかしあまりいい案ではなかった。

 自己の消失がかなりの恐怖になることは言うまでもない。記憶が無いということは自分が何者なのか分からないということ。

 普通なら、今の(あお)のように落ち着いている筈がないのだ。だから分かるヒトには、(あお)が記憶喪失で無いと分かってしまうリスクがある。

 初対面の相手に嘘を教えている訳だから、このリスクはかなり大きかった。



 「………うん、信じる。………けど………」


 「連れてってくれないか。責任は自分でとるから」


 「………はぁ〜。分かりました。なんとかしてみせるから」


 諦めのため息をついた少女は、胸に手を当てて決意を固めように瞳を閉じる。


 少女の様子からして、その町に行くべきでない理由があるのだ。しかし、魔物に襲われたこの森に留まるという選択肢は無く、己の足で他の町へ行くのは論外だ。


 「助かる。どうしてもお礼をして欲しいって言うなら、まあ、ベッドの上で頑張るけど」


 「ふぇ⁉︎ い、いらないので‼︎」


 顔を真っ赤に染めて、森へズカズカと踏み入れる少女。その姿をくつくつと楽しそうに眺めながら(あお)は後に続く。




★★★★★★★★★★★★




 「ねえ、名前教えて」


 「ん? 逆ナンか? お嬢ちゃんはそんなに男に飢えてんの?」


 「う、飢えてないもん‼︎ だ、大体は男のヒトと一緒だしっ‼︎」


 「それって結局男好きって事になっちゃうんだけど」


 「ち、違くてっ‼︎ そんなんじゃなくて、その、あれ………うぅ、違うのに………」


 あたふたと慌てる少女を尻目に、愉快に口角を上げる(あお)

 彼女の言葉を信じるのなら、件の町には人が居ることになる。それがわかっただけでも精神的に楽になる。



 「日高蒼(ひだかあお)、それが自分の名前だ。よろしく」


 未だ慌てる少女に優しく微笑む。


 「うえ⁉︎ あっ、うん。ヒダカアオ……か。私はユリアです。好きに呼んで下さい」


 「そっか、じゃあ好きに呼ばせてもらうわ。改めてよろしくな、男好きのお嬢ちゃん」


 「その呼び方はやめてぇぇぇぇ‼︎」


 涙声になった少女____ユリアの叫びが響きわたった。



 森を歩き始めて数十分が経過した。前を歩く少女と離れないよう注意して進む。



 ユリアの手のひらの上には、鈍く輝く光の玉が辺りを照らしている。明る過ぎず、暗くならなさ過ぎずといった、いい塩梅だ。

 どう見ても魔法の類だと断ずることが出来る。




 「なあ、男に飢えてるお嬢ちゃんに質問があるんだが」


 「………プイっ」


 「悪かった。でだ、左手にある光の玉は魔法か?」



 「え? はい、そうですが………」


 足を止めたユリアは振り返り、胡乱げに(あお)を見つめる。その瞳から疑惑と戸惑いが見て取れた。

 言外に、何故そんなことも知らないのか、と言われた気がした。


 「あ〜、さっき記憶が混乱してるって言ったろ? 魔法についても覚えてないみたいだ」


 「本当に?」


 一瞬だがユリアの目が細く鋭く変化する。



 「ああ。仮に俺が魔法を覚えていたら、あの狼みたいなヤツは自力で撃退出来ただろうからな」


 「そう………だよね、うん」


 ユリアは自分に言い聞かせるように、目を閉じて呟く。

 それから、『えっと………』と(あお)をどこか気まずそうに、呼びにくそうに伺う。

 自分のことを何と呼称するか迷っているのだと察した(あお)は助け舟を出す。



 「俺のことなら好きに呼んでいいぞ。流石にアホとかバカとか呼ばれると傷つくが」


 「そんな風に呼びませんよ。ヒダカさん………でいいですか?」


 「できれば名前呼び捨てがいいな」


 「アオ………さん」


 「呼び捨てか、アオきゅん(はーと)の2つから選べ」


 「そんな………さっきは好きに呼んでいいって言ったのに!」


 「だから好きな方を選ばせてるじゃん」


 恨めしそうに(あお)を見た後、ユリアは諦めたように深々とため息をつく。


 「アオ………これでいい?」


 「十分だ、ユリア」


 「あっ、私の名前………」


 (あお)からの呼び捨てに、キョトンとしたように目を見開く。その表情からは、どこか嬉しさも含んでいた。



 「でも、いいのかな? 普通はもっと仲良くなってからお互い名前で呼び合うものだと思うけど………」


 「名前はその人を区別するためだけのものだ。呼び方に重点を置くよりも、これからお互いがその呼び方に相応しい関係を築けるように努力することの方が大事じゃないか?」


 ユリアに言い聞かせるように語り、片目を瞑ってみせる。


 「うん、そうだね。けど、呼び方に拘ってたのはアオの方じゃなかった⁉︎」


 「それな」


 「流した⁉︎ しかも軽い‼︎」



 「だいぶ話が逸れたが、魔法について訊きたいんだが」


 「うわー、強引に無かったことにしたー」


 「まあいいだろ」


 ユリアからのジト目に耐えきれなかった(あお)は、軽く咳払いをしてから、真面目な顔を向ける。


 月から放たれる銀光が森の木々を突き抜け、2人の姿を照らす。

 数秒間訪れた静寂。風が葉を鳴らす小気味よい音を耳朶に受けながら沈黙を破る。


 その瞬間、脳裏には緑髪の老人の姿が浮かんでくる。


 「なあ、相手の手を握りながら使う魔法の中に、精神及び思考を操作する魔法はあるか?」



 これまでとは明らかに異なる(あお)の姿勢に、ユリアは一瞬言葉を失った。この質問が、どれだけ重く大切なのかが理解できたから。



 「無いよ。魔法の中には、相手を操る属性のものは存在しない」


 「それは操る………制御だけでなく制限も不可と考えていいのか?」


 「うん。魔法で考え方に干渉はできないよ」


 「本当か?」


 「………うん」


 「そうか、ならいい」


 これまで纏っていた鋭い雰囲気を霧散させた(あお)は、ユリアに軽く微笑む。それは、強く当たって悪かったという謝罪と、答えてくれたことに対する感謝と誠意からなる笑顔だった。


 ユリアの答えが嘘でなければ、(あお)達4人に魔法はかかっていないことになる。そのことに安堵するが、同時に別の問題が起きてしまった。

 すなわち、何故(あお)がそんな質問をしたかだ。記憶喪失という設定上、誰かに握られたと言うことが出来ないのだ。



 「ちゃんと答えになったならよかった。でも、どうしてそんなことを? 誰かに手を握られたとか? あれ、でも記憶が無いならそんなこと分からないし………」


 質問の意図に疑問を持ったユリアは、人差し指を顎に当てて考え始める。



 「え⁉︎ その、実は凄く恥ずかしい理由なんだが………」


 モジモジと照れた演技を(あお)はする。


 「そうなんだ。理由はその、教えてもらっても……?」


 「あぁ。その………ユ、ユリアと手を繋ぎたいとおもってな‼︎ だけど、俺に魔法をかけられたら嫌だろ⁉︎ だから変な質問をしちまって………忘れてくれ」


 「え? 手を繋ぎたいの? 私と? ………いいよ」


 恥じることも照れることもなく(あお)の右手をすくい上げるように握ったユリアは、まじまじとその右手を見つめる。


 その視線に(あお)は奇妙なものを感じた。


 (まるで興味深い対象を観察するみたいな視線だな。何故俺にそんな興味を抱くのか……珍しいから、かな。じゃあ何が珍しいのだろうか……まさか異世界人だからか?)



 「やっぱり暖かいんだね」


 しみじみとしたユリアの呟き。ペタペタと感触を確かめるかのようにしつこく触ってくる。



 「俺の手は別に普通の温度だと思うぞ。もちろん、それはあの3人も同じだろうがな」


 さりげなくユリアにカマを掛ける。

 もしユリアが(あお)を異世界人だと認識した上で興味を示しているのだとしたら、召喚した国____ステルラの関係者である。つまり、他の3人も知っている。



 「? えっと、3人って?」


 キョトンと首をかしげるユリア。その態度からして、少なくとも召喚について何も知らないと思われる。



 「なん、でもない……っ⁉︎ ちょっと記憶が混乱しただけだ」


 頭を押さえて、いかにも痛みに耐えてますよ、といわんばかりの格好をとる。

 もちろん痛みなど無く、ただの演技だ。


 「あわわ、大変だぁ。もうすぐ着くけど歩ける?」


 「問題ない」


 「つらくなったら言ってね」


 そう言ったユリアは先を目指して歩き出す。


 その背中を追いながら、ユリアの言葉から引っかかった場所を思い浮かべる。


 (『魔法の中()()相手を操るものは存在しない』………か。まるで魔法以外には存在する言い方だ。そういえばあの時、ステルラの王は俺たちに魔法をかけたと言ったな。だが実際には存在しない魔法だ。なら魔法以外で何か仕掛けたと見るべきか。わざわざ存在しない魔法を仕掛けたと言った理由は………こっちの戦力分析だな。どんな反応を示すかで魔法知識の有無を計れる。やられたな)



 前を歩く少女に気付かれないように小さくため息をつく。

 悠真と彩音が安堵の感情を表したことで、(あお)たちに魔法の知識が無いとステルラ王のシェームズに露見してしまった。しかし防ぎようがなかったのも事実である。


 そして先程のユリアとの会話。ステルラ王シェームズとのやり取りと類似している部分があり、つまりそれは、シェームズと同じように………………。



 「顔に似合わず喰えないやつなのかもしれないな」


 ゆっくりと前を歩く少女を見る。

 少し低めの身長に、恐ろしいほど整った幼めな顔立ち。流れる金砂を思わせる艶やかな金色の髪。ローブ越しでもわかる華奢な体。宝石のような紅い双眸と、時おりその奥深くに見え隠れする暗いナニカ。


 見た目の印象からは想像出来ないものを負っている………そんな気がした。




 「………到着したよ」


 ユリアの声でふっと我に帰る。


 (あお)が前を向いたその先には巨大な城壁があった。高さは十メートル以上ある。ここがユリアの住んでいる街なのだろう。


 ささっと確認するように目を通してから隣にいるユリアに目を向ける。


 ユリアはどこか悲しそうな、複雑な笑みを浮かべながら、


 「ようこそ、アオ。『魔人(メイリア)』の首都である『シエル』へ」


 予想だにしない一言を口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ