体育祭はやはり辞めよう
運動部系は盛り上がるだろうが、内心は微妙だったりする。
「体育祭だ」
体育祭の大半は陸上競技ばかりである。残酷に見せ付けるのは、人と人のくらべっこである。チーム一丸となって(運動できる5人ぐらい頑張れで)進んでいくのが常にである。みんなで一緒にやる競技というのは大抵、勝負に関係のない出来事にされている。それはあいつのせいでとか、あいつがいなければいいとか。
スポ根ドラマとは非なる現実があるからであり、その事実が表向きになれば体育祭以後の人間関係にギクシャクが生まれる。
「そんな考え方は違うぞ。団体競技は結構あるぞ?」
「全体競技は少ないだろう?」
あるとすれば大縄と大玉送り、綱引きか?しかし、大玉送りと綱引きは全員参加であっても大半が観客になってしまうこともありえる。
絆深めて(運動出来ない奴は徒競走のみ)勝利を得るには絆を引き千切る味方を外す事が最速であり、最大のパワーを発揮する。足枷と組む二人三脚は楽しいか?足枷と組んで走るムカデレースは楽しいか?非力で体力も、勝つという闘志も出さない奴が騎馬戦に出て楽しいか?
「そもそもそんなのとは組まないよ。やっぱり仲良しと組むのがサイコーだろ?」
「そうそう。勝つのも重要だけど、やっぱり楽しくやるのが祭でしょ」
まさかとは思うが、体育祭が始まる時期になってもまだ友達がいないと言うんじゃないだろうな?
ほとんどの奴等は仲間ともう楽しんでいる。
「おーしっ!お前等!絶対に負けないぞ!」
限りなく体育祭に対する怨を記した後で、真っ当に楽しむ生徒達の姿があった。ベスト尽くすことをチームは決めていた。
「気合が入っているな、舟」
「当然だろ!相場!運動できる奴ってモテるだろ?」
バスケ部に所属している舟と相場。決して運動神経が抜群というわけではないが、体を動かすのが好きな2人だ。全力で運動して凄く汗を掻いて。
「女子達!タオルで俺達の汗を拭く準備はできているな!?」
「徒競走後から受け付けるぞ!」
とっても思春期な発想を女子達の前で口に出したが、女子代表として御子柴がもうタオルを手にとっていた。そして、タオルで鞭のようにしなやかに2人を打つ。
「今からにする?」
「み、御子柴!怪我したらどうする気だ!?」
「つーか、お前運動する気のない恰好だな!日焼け対策バッチリして、体育祭に望む奴を始めて見た!」
気温は5月のくせに30度を記録をした真夏日。こんなに体育祭をやらせるなんて地獄である。
運動はどちらかというと見る方が好き。敗者が不様に泣いているところが特に好物な御子柴。デジカメにケータイと、記録ごとは任せなさいと猛アピールの状態だ。
「熱い日には冷たい水を見て涼みたいものだわ」
「畜生過ぎる!」
「言っておくが、俺は負けても無様に泣かないからな!」
どーいうものであろう祭だ。楽しいことをしてろよ。それがいいはずだ。な?な?
「四葉。5種目くらい出るけど、本当に大丈夫か?」
「坂倉くんが心配してくれるなんて照れるな~~。でも、坂倉くんには迎ちゃんがいるだろ~~」
「そーゆうことを言っているつもりはねぇーんだ」
クラスで一番運動能力があり、美形にして男に一途な四葉。運動能力より球技関係が得意で、背も高くてそれなりに顔も良い坂倉。
「坂倉くんとの二人三脚。絶対に1位を獲ろう」
「なぜ二人三脚だけ強調する?俺は陸上が苦手なんだよ。球技にならないかな?」
「苦手じゃなくて退屈なんだろ?球技の多くは強い奴が絶対勝つわけじゃないからね。けど、それじゃあ楽しめない人と協力しない人もいる。ちょっと強引だけれど、みんなで運動をするにはこーゆうのが良いんだよ?」
そんなこんなで始まる体育祭。校長も怪我なく、ベストを尽くして欲しいと全校生徒に伝えた後。すぐに涼しい校長室へと逃げ込んだ。
◇ ◇
気温は34度を計測した。丁度11時ごろだ。
「おい、まだ。午前の部が半分いったところか?」
「今年は熱いなぁー……」
徒競走が終わり、クラスの代表達が出場し始める個人競技の真っ只中。太陽の光がもろに差し込む校庭で応援するのは一苦労であった。汗を拭くタオルはもう頭の上だ。
舟と相場。徒競走、ハードルと障害物が終わり。午前の部の出番がもう終了してしまった。
「四葉と坂倉はいいよなー。あと二人三脚の出番があるからよー」
「まー。出番があるのは羨ましいが、四葉と組むのはパスだ」
そんなダレ気味の男性陣の前に天使が現れる。
「相場くーん、舟くーん。ハードルお疲れ様ー。差し入れだよー」
クラスメイトの川中明日美が、クーラーボックスを肩にかけて自前で用意したポカリスエットを配っていた。そのキンキンに冷えた飲み物を頂いた瞬間。
「川中さん!?売り子みたいな事をしてる!」
「うひゃーー!いいの!?心優しいーー!」
男性陣のほとんどが闘志を蘇らせた。体操着姿にクーラーボックスを懸命に背負ってクラスメイトに配るその天使ぶり。
体育祭、やってよかったと思うその光景。もう一度汗をタップリ流せる。
◇ ◇
昼食中のこと。
「来年の体育祭も暑いのかな?」
気温は変わらずであるが、変わらないことがおかしいほどの猛暑である。なぜこの時期に1日中外に出て運動をするのかという疑問が起きそうである。
「そりゃーな。時期を秋ごろにすれば受験とかに影響するじゃん?秋はねぇーだろ」
「一年が入学してすぐ体育祭を始めるにしても、最短で5月の中旬が良いところだ」
「暑さで流れる汗は校庭に落としておけばいいのさ」
男4人で食べている昼食。川中や御子柴などが、クラス全員分のお弁当を作ってきたというサプライズ企画であった。女子力が高いと思うだろうが、男子の大半は残り物だったり失敗した物である。あんまり旨くない。でも、女子から手渡しで来るなんてサイコーである。
「そもそも体育祭がおかしいんじゃないか?」
陸上競技が好きじゃない坂倉が積極的に答えた。なんか珍しいと、舟と相場は感じていた。
「校庭で運動する必要がどこにある?このくらい暑かったらプール使って運動会しようぜ。そこまで変わらないだろ?」
「水泳祭ってか?坂倉は水泳もできるよな」
「平泳ぎ100mも、徒競走100mも変わらないもんな」
「今日やったら涼しくて気持ちよさそう」
確かに一理あるなと、舟、相場、四葉も頷いてから。5秒ぐらい経って気付いた。
そして、自分の鼻から流れ出る赤い液体に気付く。
「女子の水着か!」
「スク水はなし!ビキニあり!イチャイチャし放題!」
「裸で見つめ合えるわけだね。素晴らしい!そして、更衣室でむふふ」
ちょっとした会話から急激な盛り上がりを作る、若きに猛る男達。そう思えば次の運動会はプールでやろう!全校生徒の女子達の水着姿。目当ての女子達を妄想すれば止まらない。
「川中さんの水着見てーーっ!」
「坂倉!ナイス発想!お前、校長に提案しろ!」
「マジか!?そこまで行く!?」
相場達が騒ぐと、それを聞いた思春期男子達も次の運動会はプールでやろうと署名運動をもう行なおうとしていた。水泳も運動だ。たまには体操着から水着に変わってもいいだろう。女子!そうだろう!?
◇ ◇
「えーっ、これより水泳祭を始めます」
そして、待ちに待った水泳祭。男子達の署名運動が実った新たな行事であった。全学年の男子達(希望者のみ)が集結したプールサイド。
「プールの広さに限りがあるので男達だけで水泳祭を始めます!では盛り上がっていこー!」
「盛り上がるわけねぇーだろうがーーー!!」
署名運動をしての開催が決まったわけだが、女子からはあまり好評に至らず。男だけの祭となってしまった。妄想が現実となる時は非情な結末ばかりである。
男達はヤケクソながら1日で3キロ以上も泳いだという……。