魔機工学とアンチターミネイト計画
前回までのあらすじ。
順平は旧校舎屋上で保護した謎の少女、リターニャを自宅に連れ帰った。
彼女は滅び行く故郷を救う方法を探すべく「世界」を渡ってきたと言う。
そして、二人目のリタが現れ…。
居間に集まった皆にジュースを勧め、俺は黄色い缶でおなじみの最大コーヒーを。
リタAが食いつかんばかりに見つめてくるので、仕方なく半分ほどおすそ分けだ。
美香が面白くなさそうな顔をしているが…。
「まずは…拙者たちの故郷、古より「ゼ・ディウス」と呼ばれる世界について説明するでござるよ…」
リタB、つまりは本家リタにより、彼女達の世界、ゼ・ディウスの現状が説明された。
地球で言うところの科学と「魔力」と言われる未知の力が融合した「魔機工学」と呼ばれる技術が発達した世界。
その魔機工学だが、「ゼ・ディウス」でつい二百年ほど前に突然「発掘」されたのだと言う。
「その場所は保護という名目で閉ざされているが、文献によれば古代の遺跡だったと…」
要となったのは新たなエネルギー資源、エーテルの理論とそれを「魔力」へ転換するための機械。
大気から無尽蔵に抽出でき、枯渇することのない純粋なエネルギー。
それまでは存在すら知られていなかったエーテルを「魔力」へと変換する機械が世界を一気に発展させ、贅沢を言わなければ食べるものや水にも不自由しない理想郷を生み出した。
リタAが持っていた毒々しい色の水や、例の黄色い箱のあれに似たスティック状の固形食は「魔機工学」の産物だという。驚いたことにブラックボックス化された「魔機」から製品状態で出てくるらしい。
「発掘」されたのは食料を生産する魔機だけではない。それは移動手段であったり、闇夜を照らす明かりであったり。優れた医療用魔機により病気や怪我によって死ぬことは殆ど無くなり…。そして複製可能な魔機は全世界に行き渡り、誰にも等しく与えられる力は奪い合う必要も無い。
争う理由をなくした人々は、いくつかの国によっていがみ合い分断されていた世界を一つにすることに同意する。何よりも「魔機」には争いに転用できないよう厳重なロックが掛かっていたという。
「しかし、いい事尽くめ、とはいかなかったのでござる」
ひずみは思わぬ形で始まった。「魔機工学」が広まって数十年後に起こった突然の出生率低下。そして生まれてくる子供の男女比率は徐々に崩れ始め。
「拙者達の世代が最後だと知ると、大人たちは大慌てしたのでござるよ」
十六年前。その年に生まれた子供はゼ・ディウス全体で数百人前後、全員が女子といわれている。それ以降、子供が生まれたという報告はなされていないそうだ。
「魔機工学」によって発達した写し身の技術、つまりはクローンも影響を受けた。男性の細胞は培養液の中では分裂をやめてしまうというのだ。
このままでは女性だけの世界になってしまう。成長しないコピーを作り出すクローンだけに頼った世代交代はすぐに破綻するだろう。
「そこでじゃ…ある計画が」
アンチターミネート計画。最後に生まれた子供達は何故か知力や体力に秀でた者ばかり。そこで世界各地に散らばっていた最後の子供たちを集めて英才教育を施し、この状況を打開するための頭脳集団を作り出すことにしたというのだ。
リタBもその一人に選ばれ、今では大掛かりな研究施設ひとつを任されているという。
「そこで拙者は・・・「魔機」に頼らない新たな力を得るための基礎を研究するよういわれたのでござる」