リタの二乗と事情
日曜日。
妹さまやリタと一緒に魔窟から小物を運び出していると。
「ぴん↑ぽーん↓」
間の抜けた玄関チャイムの電子音がポケットにおさまった端末から聞こえる。
家にいるときはカメラが内蔵されたドアホンとの通話もできるよう端末を設定してある。部屋にこもってゲームをしているときにチャイムが鳴っても聞こえるように…。主に宅配便の受け取りのためだが。
「おじさんかな?にしてはずいぶん早い…」
ポケットから取り出した端末に知り合いの顔が映し出されていた。
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「あらー、美夏ちゃん!おひさしぶり!」
「おはようございます、おばさま!むがっ!」
俺よりも先に母さんが玄関を開け、美夏に抱きついていた。
一歩出遅れた俺は、母さんの山脈に埋まる知り合いが窒息しないか心配する。
「飛び込むならジュンのほうがよかった?…ええっと、そちらの方は?」
灰色のぶかぶかしたパーカーを着て、フードを目深にかぶった小柄な人物が美夏の隣に立ち、そのフードの人物は玄関先の一点を見つめているようだ。
「ええと、順平君に聞きたいことがあるそうで…」
出しっぱなしのリタの靴。そしてたった今気づいたのだが、フードの人物もリタと同じような女学生風ローファーを…。正直嫌な予感しか。
「リターニャ!!!!!」
フードの人物が大声を出し、魔窟から荷物の運び出しをしていたリタが「ぴょん!」と跳ねる。
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片付けは一時中断となり、居間を重苦しい空気が覆っている。
「拙者、リターシャ・エル・タリウスと申す。この度は私の写し身がご迷惑を」
違いといえば瞳の色くらい、瓜二つの二人がソファーに並んで座り、片方はうなだれ、片方が謝る。
「記憶転写の最中にいなくなるとは…研究所内を探し回った私の苦労を…」
都合、最初にうちに居た赤い瞳のリタをAとし、美夏と共に現れた青い瞳のリタをBとしよう。
リタBがリタAに説教している間、俺は美夏からリタBについて聞く。
「昨日、遅い時間になって学校に忘れ物をしたのに気づいて、爺やに車を出してもらって…ちょっと気になって旧校舎の機械室に行ったら、リターニャさんがいたのよ」
と、俺のときとほぼ同じ感じでリタBを保護したいきさつを語った美夏。
カップのきつねそばをすすりつつ、壊れかけの液晶テレビで「暴れてもSHO-GUN」のBDを見ていたらしい。
しかし、万能すぎるだろう…あの時代劇のBD。どうやったらあれで日本語が覚えられるのだ?謎でござるよ。
「おぬしが先走ったばかりに、帰還の為の宝玉もエネルギーが切れて当分使い物にならんではないか!」
ガミガミと怒るリタB。見ればリタAの瞳にはうっすらと涙が。
「なぁ、その辺に…」
リタBはややつり目になりつつ俺に食いつく。
「こやつが暴走したばかりに、こちらの世界にも災いが降りかかる…」
「災い?」
「そうでござった。拙者達について少々話さねばならぬことが」
リタBはリタAの説教をやめ、彼女達の世界「ゼ・ディウス」について語り始めた。
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