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放置というコマンドは存在しない

興奮さめやらぬまま、家に戻ったジュンペイは心ここにあらずといった感じです。

---


俺が家に着くと時計は既に夜の八時を回っていた。


「お兄ちゃん、今日は遅かったね」


「ん、ちょっとな」


妹さまはソファーに座っている俺の膝に乗っかり、既に止まってしまった自分の端末を脇に置いて二十年ほど前に流行したレトロな携帯ゲームに興じる。


今プレイしているのはオーソドックスな横スクロールのシューティングゲームだ。


このゲーム機はもともと叔父のもので、他にも大量のハードやソフトを譲り受けた。


去年、叔父がようやく重い腰を上げて結婚することになったのだが、相手から趣味の物の処分を言い渡されたらしく、どうしても捨てられないものが俺のところに来たというわけだ。


叔父はたまに遊びに来てはひとしきりゲームをプレイして帰る。その度に浮気を疑っている叔父の奥さんから電話がかかってきて俺が適当に滞在理由を説明するのだが…。まぁ長続きはしないだろうなという感じが。


話は戻るが、この時間になると妹さまの使っているスマートフォンは緊急通報と家族への連絡など一部の機能を残しすべて停止する。


それまでは子供も自由を尊重されるべきという流れに乗せられていた世間だが、返信は数分以内という謎のルールでやり取りされるメールや課金しなければ仲間はずれにされるソーシャルゲームのやりすぎでノイローゼになったり、犯罪に走る小中学生が続出し、反発する業界を無理やり封じ込め、一昨年に通信端末規制法が制定されたのだ。


基本的に16歳以下の子供が使用する端末は通称「モノリス」と呼ばれるものに限定される。


この端末は充電端子やイヤホン端子すらない完全密閉式になっている。生体認証機能により使用者を限定し、通信カードの差し替えによるペアレンタルロック逃れやファームウエアのクラックが出来ないよう対策されたのだ。


インストールできるソフトウェアも限定され、通信内容はすべて親が閲覧できる。


充電は無線誘導と液晶画面に組み込まれた高効率なソーラーパネルにより行われ、さらにデータのすべてを暗号化してセントラルコンピュータに持たせることで、万が一の紛失にも対応する。


平日で使える時間帯は午後三時から夜の八時。要するに夜寝る時間から下校時間までは家族以外の通話やメール、ゲームといった機能が停止する。


もちろん、学校からのお知らせなど緊急を要するメッセージの閲覧はいつでも可能だ。


その他、課金に関する取り決めも厳しくなった結果、低年齢層を食い物にした粗悪なソフトは瞬く間に駆逐され、オフラインでの遊びが徐々に復活しつつあるという。


オフラインの遊びというのも変な表現だが、子供たちの間でサッカーや野球といえば、ずいぶん前から画面上のスポーツという認識なのだ。


ちなみに据え置きのパソコンはモノリスを近くに置かないと使用できず、制限はモノリスに準じる。


「それで、結局のところ隣に座っているお姉ちゃんは何者なの?」


妹の頭をなでつつ、俺は隣で眠る少女の顔を眺める。


「お母さんにも詳しく聞かせてほしいな」


はい。


---


時間は一時間ほど前に戻る。


リターニャと名乗った彼女は俺に「つながりの全天星図スターマップ」を見せるために力を使いすぎたのか、そのまま崩れ落ちるようにして眠ってしまった。


いくら学校に警備システムが備わっているとはいえ、年頃の女の子を屋上に放置するわけにはいかない。


「ええっと、リターニャ。そんなところで寝ると風邪を」


思わず抱きかかえてしまったのだが、非常に軽い。


ちゃんと食べているんだろうかと心配になるくらいだ。


幸いというか、俺の家は学校から徒歩十分の場所にある。


完全に気が動転していた俺は後先考えずににリターニャを背負って家に連れ帰ったのだ。


何故か誰にも会わずに家にたどり着く。


---


「ええっと、彼女は今日学校に来た交換留学生のリターニャさんで」


「うんうん」


「なんか手違いで住む場所が手配されていなかったとかで」


「それで?」


「旧校舎の屋上にある機械室にいたところを見つけて」


「ほうほう」


「…」


「お母さん、怒らないから本当のことを言いなさい?」


やっぱりうそはつけない。俺は本当のことを説明した。


---


「それで、リターニャは違う世界から来たらしいんだが…」


「い、異世界!!!!!まじっすか?」


声のトーンが変わり、目の色も変わる母さん!


あまりの変化に妹さまもぽかーんとしている。


「リタちゃんは世界を救う勇者を探しに来たってところなの?そうなの?」


改めて眠っているリターニャの服装を確認する母さん。


「そうよね!マントもそうだし、あと服に下着!こんな材質、それにデザイン。見たこと無いわ!」


母さんの行為は既にセクハラを通り越し、スカートもめくり放題だ。俺は目をそらすのに全力を使う。


「母さん、ジュンならいつかやってくれると思っていたわ!」


いや、まだ何もしてない…。


「ゲームの中だと勇者の母親って息子をたたき起こして城に送り出すくらいの役目しかないけど、母さん、全力でサポートするわよ!」


母さんも叔父、つまりは兄の影響なのか、昔のゲームに詳しすぎて…。


「まず何からしたらいいの、ジュン!早くコマンドを!」


いまどきコマンド選択のRPGとか…。


「…。ごはん?」


リターニャのおなかが「くー」とかわいらしく鳴ったのだ。

裏サブタイ「ゲーム脳は母さんでした。」

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