未確認外国人
夢の中で見た世界を書き綴ってみたり。
ここは、とある田舎の公立高校。
物語は暇人の集う「カード全般研究会」の活動拠点から始まる。
「たはー。沼しかでねえ」
「まさに泥沼だな!ぬまたくん」
「うるせー!」
「男子、うるさい!占いの邪魔!」
「「へーい」」
十数名の男女が今流行の萌え系カードゲームから古典タロットまで、様々なカードを弄繰り回す。
放課後、生徒の自由研究のために開放した旧校舎の空き教室を「古今東西、カードゲームの歴史と文化を学ぶ」という目的で借り受けているのだ。
そこに珍客が現れた!
ガラララララ!と勢いよく開かれた扉がストッパーを乗り越えて外れる。
「おい、おまえら。じゅんぺいを見なかったか?」
やや目つきの悪い女子生徒が教室内を見渡す。彼女の名前は上坂奈緒。生徒会長の補佐を勤める二年生だ。
「こ、上坂先輩!こんにちは!あの、じゅんぺいのやつになにか?」
「ん、居ないならいい。邪魔したな」
外れた扉を無理やり閉じてあわただしく遠ざかる足音。
「今度はなにをやらかしたんだ、あいつ」
じゅんぺいと呼ばれる生徒。なぜ先輩が探しているのか…。
全員があっけにとられていたのは、ほんの数秒。
各々がカードに視線を戻す。
「あら、じゅんぺいくん。太陽の逆位置が出ちゃった」
一人の女子生徒が興味本位に占ったじゅんぺいの運勢は下り坂のようだ。
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「先輩、今度は何が気に食わなかったんだ?」
俺は校内を迷走していた。
テリトリーである旧校舎の屋上機械室に滑り込み、なんとか逃げおおせたと一息つく。
昼休みも教室に乗り込まれて散々だった。
「さて、昼飯もまだだったよな」
昔、エレベーターのウインチを収容していたという頑丈な機械室は、物置と化していた。
人が常駐して監視を行っていたらしく、壁際には半壊した制御盤の名残があり、年代物の机やいすも残されていた。
入学直後、たまたまここを見つけた俺は、昼休みや放課後一人になりたいときはそこに入り浸るようになる。
新たに増やした液晶テレビ、BDプレイヤー、据え置きゲーム機、LEDスタンド、小型冷蔵庫、IHクッキングヒーター、電子レンジ、扇風機や電熱暖房器具。
それらは不用品バザーなどで入手して修理をし、電気は機械室に供給されていたので勝手に拝借して好きに使っている。
元々、旧校舎の設備は壊さない限り「自由」にしていいという話だったし。
うん。俺悪くない。ちなみに火の元だけは気をつけている。
「たしか昼前に買ったやきそばパンが…ない!」
購買で買って冷蔵庫にしまっておいたやきそばパン、そして炭酸飲料も何本か消えていた!
突然、物置の奥から聞こえた「けふ。」といういわゆるゲップの音。
「けふ?」
この物置最大の特徴、仮眠用の奥座敷からそれは聞こえた。
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「だ、だれだ!美香じゃない、よな」
間仕切りの向こう側に敷いた簡易マットの上。
俺愛用の寝袋が人の形に盛り上がっている。寝袋はセールで買った1980円の封筒型だ。
恐る恐る寝袋をめくると、外国人らしき少女が口の周りにソースをつけたまま眠っていた。
奥座敷の隅にはやきそばパンの包みと飲み口がすっぱりと切り落とされたペットボトル。
外国人と判断したのはくしゃくしゃになった金髪と西洋的な顔立ち、そして寝袋の隙間から見える服は俺の知識には無いもので、そちらに興味がわいたがまさか寝袋をひっぺがすわけにもいかず。
「おい、おきろ。おきてください。あーゆーきこえてますか?」
ゆさゆさとゆすっても起きない。若干であるが、汗と体臭の混じったなんともいえない…決して悪いにおいではないのだが…。
奥座敷を満たす女の子のいいにおい。うっすらと汗ばんだ肌。ずいぶん前から眠っているのだろうか。
物置の西側につけられた金網の入った小さな窓から夕日が差し込む。
「参ったな…。このまま置いていくわけにも」
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「おかあさん、お兄ちゃん、帰り遅くなりそうだって。学校の用事がなんとかって書いてある」
「あら、ジュンにしては珍しいわね」
少女の差し出すピンク色にデコられた子供向けスマートフォンを覗き込む女性。
「真菜、お兄ちゃんにお夕飯をどうするかメールで聞いておいて」
「はーい」
少女は三日月とハンバーグとクエスチョンマークのアイコンを並べ、送信した。
しばらくして、バツ印が戻ってくる。
「お兄ちゃん、夕飯いらないって!」
「ほんとにどうしちゃったのかしら…ははーん、またミカリンとどこかに」
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「っくしょん!」
日が落ち、吹きさらしの屋上はあっという間に気温が下がる。
電気ストーブに火を入れ、丸くなって暖を取る。
「こんな時間までいたのはいつぞやの流星雨観察以来だな…」
この場所を知るもう一人の人物、幼馴染の佐伯美夏と臨時の天体観測会を…。
そういえば、あの後先輩がやたらと突っかかってきて。
考え事をしていたら、「ごとっ!」と奥座敷から物音が聞こえた。
「ようやくお目覚めか…。しかし、どう見ても外国人だったし、俺英語だめだし」
間仕切りの向こうから、不思議な服装の少女が現れた。
マントのような…よく見ればマント全体が半透明の小さな板のようなものに覆われて、LEDスタンドの明かりが反射する。
「オハヨウゴザイマス、イセカイノアルジドノ」
「あ、はい、おはよう…て、日本語!」