友人が「チーズ蒸しパンになりたい」とうわごとのように言っているからチーズ蒸しパンになってチーズ蒸しパンと恋愛するはなし頑張って考えた
※変則文体、変則表現型の短編
チーズ蒸しパン。それは、甘美なる食べ物の名前。
チーズ蒸しパン。それは、人類が創りあげし至高の存在の名前。
チーズ蒸しパン。それは、運命に翻弄された、悲しき一族の名前。
ti - zu mu si pa n
かの少女は言った。
チーズ蒸しパンになりたい、と。
「ならばその願い、叶えてあげましょう」
それが本当に叶うとは思わずに。
物語の幕開けは、少女の知らぬ場所で始まっていた。
………………………………………
とある一室の卓上で、積み上げられた書類に筆を滑らせる男がいた。
「なんかこう刺激が欲しいよね。しげき」
「ご冗談もほどほどに。手が止まってますよ。ホラ、早く仕事を片して」
男の名前はなんといったか。悠久に続く時間の果て、本人さえも忘れてしまったその名を知るものは、もはや存在しない。かといって彼が名無しであるのか、といえばそうではなく、男はごく親しい者達からこう呼ばれていた。「擬似神様」と。
とってつけたような怪しい名称だ、と本人にはたいへん不評であるが、名付け親からすればこれ以上おあつらえ向きの愛称は無いらしい。そして、その擬似神様、今現在において何をしているのかというと。
「なぜここまで放置するんですか」
「面倒くさくて」
「そんな理由で納得してもらえるはずないでしょう。大問題ですよ」
夏休みの宿題を溜め込んだ小学生のように叱られているのであった。
「これもこれもこれも、ずいぶん前の案件ですよね。終わったらそのままにしないで詳細まとめてファイリングしてくださいって、いつも言ってるじゃないですか。なぜしないんだ、なぜ」
「しないからしないんだ」
「理由もなく放置する悪癖を直してくださいっ」
「終わったスグ後って疲れてるんだよね。事後処理とかめんどくせえ次の日でいいかな、って思っちゃうの。つか、溜まったら溜まったでこうして片してるんだから良いじゃないですか。お目こぼしお願いしますぅ」
「ダメですよ。こういうの凄く大事なんですからね。この紙ひとつとっただけでも充分に機密書類なんです。万が一でも紛失したらどえらいことになりますよ」
「どえらいってどのくらい」
「世界まるごとぶっとぶか増殖するかくらい」
「それ面白くね?」
「狙ってやったら首ふっ飛ばしますよ」
「生真面目だよねえ。俺の周りみんな生真面目だよねえ」
「あなたが飛ぶ鳥を落とす勢いで楽天家なだけです」
こうしたお説教を繰り返しながらも、神と呼ばれる男は着々と紙の束を減らしていく。
それを間近で見ていた傍仕えの青年は、なんとも言えない表情でぼそりと呟いた。
「……馬鹿とハサミは使いようって真実なんだな」
「聞こえてますけどお!」
「はい。僕の独り言ですが存分に気にして下さい」
「そこは普通、違うせりふ」
「いいえ。気にしてください」
「馬鹿といえば」
「まったく気にしてないですね。何ですか」
「もう一人の馬鹿はどうしてんの?」
「僕に聞かれてもなあ。この中で一番あの人のこと把握してるのは神様だと思いますよ」
「マジで。きもい」
「あんだけ世話になっといてその言い草は無いと思います」
「いやもうだってね?あいつ男子じゃん?俺も男子じゃん?嫁いねえじゃん?負け組みじゃん?そこに男同士の友情じゃん?お前のことを理解しているのは俺ダゼ!じゃん?ねーわ。まじきめえありえねえねーわ。ねえわ、あ、やめろまじ……落ち込んできた……女子に会いたい……」
「これはヤバイ」
「無表情で言うな!悲しくなる!」
「まあ無期限休暇中にしても、そろそろ帰って来てもいい頃合…とかそういうのをとっくに過ぎてますから、もう戻らない気っていうかそもそも愛想つかして出て行くための嘘だったんじゃないですかね。これ結構な信憑性のある噂として広まってますよ」
「そんなの出回ってんのかよ!俺まったく知らないでいまかいまかとあいつの帰りを待ってたよ!しかもそれ否定できないくらいリアリティのある仮説だな!」
「そもそもなぜ無期限で許可出したんですか」
「あいつが帰ってきたら俺が無期限休暇に入る約束だった」
「へえ……」
「やめろよ。詐欺に引っかかったアタマの足りない子を見る目やめろよ」
「詐欺って言いかた悪いですけど、概ねそれで正解だと思いますよ」
「俺も薄々そうかも!って思ってた」
「あなたが頑張らない分が、すべてあの人の負担になってましたからね。疲れてしまったんでしょうよ。もうしばらく知らぬふりでもしてあげたらどうです」
「いや、それがそうもいかなくて」
「馬車馬のように働かせた相手をふたたび召還して更なる鞭を打つ気だとは。鬼ですか」
「ちげーよ。最近気づいたんだけど、なんかあの辺り変なことになってるんだよね」
「人口数とか環境汚染とかですか?」
「ううん。チーズ蒸しパンが生きてるの」
「人生を舐めてるとしか思えません」
「しょっぱなから嘘と決め付けんなや。信じろや」
「にわかにはちょっと」
「証拠になるかは分かんないけどホラこれ」
「………」
「………」
「最近って言ってましたけどいつ気づいたんですか」
「3、4ヶ月前。ん、違うかも。5?良く考えたら1、2年前?ん?」
「どうしてそれをすぐ報告しないんですか!年単位を最近とは言いません!」
「だってここ時間軸おかしいじゃん。俺ら外見こそ若いけど中身おじいちゃん通り越してミイラだよ?1、2年前なら最近でセーフっしょ!」
「そこは反論しなくて結構ですよ!どうするんですか!どうするんですかこれえ!」
「どうにもできませんね!放置しましょう!」
「できるか!うわあ、もう、なんだこれ……」
「あのね、多分それね、自然発生じゃないんだよね、たぶんね」
「……ああ、ああ、ああ、なるほど……?それで普段は我関せずの神様が珍しくも、『もう一人の馬鹿はどうしてんの?』なんて言いだしたんですね?」
「うん」
「早く言ってくださいよ馬鹿うわあああ」
「でね、俺かんがえたのよ。これを解決するには、チーズ蒸しパン達の動向や意見を知るべきだってね。でもさ、俺こっから動けないじゃん。お前も動けないじゃん。つか誰も動けないじゃん。だからね。ちょっとね。さっきね。あっちの子を一人チーズ蒸しパンに変えといたの」
「は」
「チーズ蒸しパンに変えといたの」
「は」
「チーズ蒸しパ」
「なぜそんなことをしたんです」
「やべえそろそろ処理しないとなあどうしようかなあ、と思ってあっち覗いてたら、ちょうどチーズ蒸しパンなりたいって声がビビビっと来たから」
「ねえ?余計なことするのが神様の仕事?違いますよね?ねえ?」
「なんかスゲエ怒られてるけど俺がんばったよ!」
「胃が痛い」
「まじか。薬のむか」
「とりあえずその子を元に戻してあげましょう。可哀相ですよ理不尽ですよ人権無視ですよ」
「ごめん無理」
「まさかこれ以上に悪条件が重なるとは思いませんでした」
「まじごめん。電波妨害キタと思ったらその子と通信が途切れちゃって。いまどうしてっか分かんないんだよね。探ってるけどプロテクト掛けられてるっぽいわ。積んだ」
「とりあえず神様」
「おう」
「辞表を書きましょう」
「おう……」
………………………………………
平坦、平和、平凡で終わるはずだった、とある日の夜。罪の無い少女が一人、チーズ蒸しパンへと姿を変えた。
両親に食べられそうになったところを命からがら逃げ出した少女は、迷い込んだ路地裏でチーズ蒸しパン達に保護される。束の間の休息。食べられるという恐怖を体感し、心も体も疲れきった少女は、倒れ込むようにして眠りに付いた。
翌朝、少女に告げられた現実は残酷なものだった。彼らは沢山の仲間を無残に食い殺されたことで、人間への復讐を誓う、いわばレジスタンスだったのだ。苦悩する元人間の少女。仲間である少女を守ろうとするチーズ蒸しパン。彼女が辿り着く終焉は、復讐劇の中か、神の思惑の中か。
運命の歯車は、いま、静かに回り始める―。
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なんか人物紹介と攻略対象っぽいもの
【チーズ蒸しパン子】
主人公
【チーズ蒸しパン隊長】
チーズ蒸しパン軍のトップ
漢気あふれるナイスチーズ蒸しパンガイ
【チーズ蒸しパンニート】
媚びぬブレぬ働かぬナイスチーズ蒸しパンキチガイ
【チーズ蒸しパン一等兵】
新入りである主人公のお守りを任された兵士
ぶっきらぼうだが根は優しい
【チーズ蒸しパン情報兵】
情報戦に長けた兵士
体育会系うぜぇと心から思っている
【チーズ蒸しパン先輩】
数々の戦場を潜り抜けてきた古参の兵士
カビてる
【ただのチーズ蒸しパン】
そのまんまチーズ蒸しパン
【元凶っぽい擬似神様サイドの人達】
しょうもねえ