マヌケな船長と被害鹿たち
ある森のある午後、動物たちは元気に森を駆け回り、風が吹き、鳥がさえずっていた。
何も変わらないある森の午後・・・ではなかった。ふいに、歩いていた鹿の群れが立ち止り、警戒態勢に入る。がさがさという音と、低い音が近くなってくる。鹿たちが焦り始めたころ、がさっという音がして一人の少女が低木の茂みから出てきた。その少女は、鹿たちに気が付くと、興味津々の目で観察し始めた。どう見ても害のなさそうな少女がこちらをじっとみつめるので、鹿たちは、ますます焦った。見つめあっててもしょうがないと思ったらしく少女は唐突に
「よう、はじめまして。あたしはレナだ。よろしくな。」
と自己紹介し始めた。鹿たちは心の中で、(いや、いきなり鹿相手に挨拶はやめようよ。っていうか、実は中身は男だったりするのかな?)とツッコミを入れた。そんな鹿たちの反応を見事に無視し目をきらきらさせると、
「なあ、海ってこっちか?あたし、方向音痴でさ。ちょっと探検に来たら、もどれなくなったってわけさ。うちの船員らは問題ないとは思うが、船長のあたしが迷子っていうのは船員にしたら、先が思いやられるねえ…って感じやろうな。」
と一息で言った。それを聞いた鹿たちは、マヌケな船長を観察した。銀色の髪に青色の目を持った美人な彼女は、相当な方向音痴らしく、海とは逆の方向を見て、あっちから来たような気がするなどと言っていた。鹿たちがそろそろと立ち去ろうとしたとき、後ろから「いいこと思いついた!」という声が聞こえ鹿たちは振り向いた。すると彼女―レナは満面の笑顔で鹿たちに歩み寄り、ズボンのポケットから皺だらけになった小さな紙を鹿たちにみせ、
「ここに書いてある通り、あたしは海賊船<ワンダーランド>の船長だ。海まで案内しないと炙って食っちゃうぞ。」
と言った。鹿たちは別にレナを恐れたりはしなかったが、断る理由もないので、レナについてくるように合図をすると、海に向かって歩き始めた。