表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

3 忘却の川辺にて

 満月の夜。

 静寂の闇の森が、不意にざわめいた。何処からともなく笛の音が鳴り響き、おぼろげな光明が集まる。

 今宵は宴。妖精達の宴。笛の音に、そして鬼火に人間共は恐れをなして近寄っては来ない。


 と、川向こうにおぼろげに浮かび上がる幽鬼の姿が現れた。

 月に浮かび上がる青白いおもて。狂わしい声で、何事かを叫んでいる。



 勇気ある妖精が、川を超えてその女に声をかけた。

「まだ、川を渡らないの?」

 女は答えず、ただ狂ったように笑うばかり。

「貴女の思い人は、すでに川を渡っている。だから、もう良いんだよ」

 振り乱された金色の髪。狂える青い目が、妖精を見た。

 そして、女は息を飲む。

「ねぇ、貴女が忘れてくれたら。貴女の大切な人も産まれる事が出来るんだ。だから、一緒に川を渡ろう」

 手を差し出す、その妖精は、彼女の愛しい人によく似ていた。

 女は笑った。笑いながら妖精の手を取る。

「忘れない。私は、決して、忘れたりしない。あの人を愛し、あの人を恨んだ事を。そして、あの人を許す事が出来るまで、わたくしはここに居るのです」

 忘却の河を渡れば、まっさらになって生まれ変わる事が出来るから。

 それでも、忘れてはならない運命を――またいつか、生まれ変わる事が出来るなら、同じ過ちを繰り返さない。

 狂える女の、それは業。

 先に、川を渡ってしまった恋人が、許せない。

「デンマークの王子よ、復讐を忘れるな!」

 腕をきつく掴んだ。その痣は決して消えないだろう。


 その言葉は妖精の心にいつまでも蟠り続けるだろう。

 そして彼は再び絶望にかられた姿で現れ、今度こそ二人で成し遂げるのだ。



 同じ苦しみを。―共に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ