2 『花を摘む少女』
二十年ぶりに展示される事となった絵を見て、美術館の館長は不思議そうに目をすがめた。
『花を摘む少女』と、プレートには表示されている。
花ざかりの庭で草花を摘む、女の絵。
どこにでもありそうな絵だ。
だが何か違和感があるのか、何度も首をかしげながら、それでも館長は絵の前から立ち去った。
その様子を見て、不審に思った青年がいた。
何事だろうと、絵に興味を持つ。
そこに広がるのは、とても綺麗な景色だった。
五月の陽の光に輝く、花ざかりの庭。その真ん中で花を摘もうと手を伸ばす、金色の髪の女。
長い髪はゆったりと束ねられ、白い首筋に後れが数本まとわりついている。
身体のラインがはっきりと解る薄手の服を纏っている為、ふっくらとした白い胸に思わず目が行った。
とても艶やかで美しい、だがそれは「少女」ではない。妙齢の女。
花を摘もうと、僅かに身をかがめて手を伸ばした胸元がはだけ、少し角度を変えれば谷間の奥まで見えそうだ。
もっとも、絵なのだから角度を変えられるわけもないのだが。などと思いながらも、角度を変えてみる。
花を見る女の、視線の先近くに。
と、絵の中の女が上目遣いに男を見た。
恥じらうように衣服を整え、嫣然と笑う。
ばら色に染まった頬が、とても魅力的で。男はつられたように微笑みを返した。
閉館前。館内を見回っていた館長は絵の前に佇む老人に気付き、帰宅を促す。
老人は、尚も絵から離れずにいたが、やがて諦めたように出口に向かった。
その絵を何気なく見やって、館長は驚愕をおもてに貼り付けて数歩、後じさった。
描かれたのは、五月の庭で楽しげに花を摘む。
幼い、少女の姿。