1 ポケットの中の妖精
以前に「和風小説企画」で666文字小説なるものを書き、非常に面白かったので、今度は異国風666文字小説にチャレンジしてみました。
ちなみに「666文字小説」とは、りきてっくす様(http://mypage.syosetu.com/18867/)が考えられたものです。が、拙作に氏は一切関係ございません(苦笑)。
氏がこちらをご覧になられているのなら、再び勝手に真似っこゴメンナサイ。m(__)m
私は、妖精を飼っている。
悪戯好きの妖精で普段私のポケットの中で眠っているが、たまに起き出しては悪戯をするのだ。もっとも、その姿は誰にも見えないが。
妖精は時々、悪戯をする。
今日も、大嫌いなビリーのカップの中身を泥水に変えていた。
ひとくち飲んだビリーが怪訝な顔をして吐き出し、大声で悪態をついた時には、笑いを堪えるのが大変だった。
そう。ビリーは、妖精の標的なのだ。
彼が何もない所で転ぶのも、大切な会議の時に「くしゃみ」を連発するのも、妖精の仕業。
可哀想な気もするけど、仕方がない。小さな悪戯こそが妖精の糧なのだ。悪戯をしなくなったら、私の妖精は、死んでしまうだろう。ポケットの中で。
ある日。
大嫌いだったビリーは、私にとって一番大切な存在になった。
いや、最初からそうだったのだ。私にとっては。
ビリーとつき合い出してから、妖精はポケットから出て来なくなった。
どんどん小さくなって行き、今では小指の先ほどの大きさ。眠ったままの妖精は、起こしても起きない。
私は、妖精の事を忘れた。
「乾杯」
グラスを空けると、何故か抗いがたい眠気に襲われた。
「ケイト? 眠ったのか?」
起きては、いる。でも、もう瞼が動かない。うまく話せない。
と、誰かが室内に入ってくる気配があった。
「ご苦労様です。ミスターランバート」
「ケイトは? 妻はどうなるんですか?」
「奥様の能力は、無意識に他人を傷つけるもの。放置は出来ません」
何を言っているの?
「知っています。妻はいつも、殺意を隠していた。ポケットの中に」
「では、こちらの書類にサインを」
ポケットの中で、妖精が大きな伸びをした。