第8話 若きレオナルドの悩み
俺の名前は、レオナルド。明日の一流の剣士を目指して師匠のもとで修業をやっている。
師匠が俺に与えた試練はシンプルだ。
剣術大会に出場するために師匠が手に持っている木札を2週間以内に奪い取れ。
師匠曰く、これすらも自力で奪い取れないようであれば、大会に出ても勝ち目はないという。
敏捷性を養うためにこのような訓練をする流派があるということは、耳にしたことがある。
おそらくそれは効果があるのだろう。
だけど、この訓練を行う上で俺には看過しておれない大問題が一つあった。
俺の師匠は女の子だったのだ。
きっと、この相手が例えば、老練の達人だったり、ガタイのいいマッチョマンだったりするならば、俺は殴られるのを覚悟で木札を奪いにかかることができただろう。
だけど、彼女の細い腕、赤い唇、白い足を見るたびに俺は心がかき乱される。
木札を奪い取るためには、きっと彼女の体のどこかに触らなければいけないだろう。
ああ、神様!
いくら生意気なやつだとはいえ、女の子の体に触れるだなんて、俺がそんな大それたことをしていいのでしょうか。
12月8日 レオナルド
修行開始の3日目、俺はついに勇気を出して、彼女に向って全力で飛びかかることにした。
しかし、彼女はひょいひょいと目に見えないほどの素早い動きで身をかわしていった。
教えてやると生意気に言うだけのことはあった。
しかし、人並み外れたの身のこなしを彼女はどこで身につけたのだろうか。
女の身でありながら、これだけの動きができたら、どこかの街で武術の名声を獲得していそうなものだが、それがこんな辺鄙な村にいるだなんて不思議なものだった。
12月10日 レオナルド
正攻法は無理だと察した俺は奇襲策にでることにした。
ぞうきんがけをしている師匠に忍び足で近寄ると背後から襲撃した。
まるでやってることが変質者のようで情けなかったが、大会出場札を取り返すためには四の五の言っていられなかった。
しかし、案の定というか予想した通りというか、彼女は俺の存在を瞬時に察知すると、右手を軸に倒立をし、そのまま腕力でふわりと宙に浮かぶと、こちらにあかんべーをするのだった。
そして、肝心の俺は気付いたらその華麗な動きに見とれていた。
12月12日 レオナルド
俺はついに彼女が寝ている時間帯を狙って、札を奪い取ることにした。
これが男として恥ずべき行為だということは十二分に理解している。
だけども、こちらには絶対に大会に出なければならない、譲れないわけがあるんだ。
そっと、寝室に入ると、ターゲットはおふくろと二人でツインベッドに横たわり、寝息をたてていた。
なんという無防備。チャンスだと思った。
寝ているのにも関わらず、木札を抱きしめているようだった。
俺が深夜にやってくることは想定の範囲内ということなのか。
と、いうことはだ。
ひょっとしたら、このまま寝ているところを全力で奪いにかかってもぱっと目を覚ましていつものように、ひょいと身をかわすのだろう。
そういうつもりならば、遠慮はいらない。
全力をもって襲いかからせてもらうにしよう。
そう思った俺は、彼女の手首を押さえつけ、木札に手を伸ばした。
すると彼女は目を覚ますと驚いたのか急に叫び声をあげたのだった。
「きゃああああああああ!」
家中にその叫び声が響き渡った。
「わわわっ!これは誤解だ!違うんだ!」
おふくろが目を覚まして、俺がアリシアの体をおさえつけている姿を目の当たりにした。
12月13日 レオナルド
今日はおふくろのお説教が堪えた。
「年頃の娘さんになんてことをするのっ!あんたをそんな子に育てたおぼえはないよっ!」
いや、分かってるんだ。分かってるんだけどもっ!
俺はあの札を取り戻さなきゃいけなくってっ!
必死で弁解したけれども、夜這いした言い訳にはならなかった。
あと、1週間か。こんな調子で本当に取り戻すことができるかな。
だんだん、自信がなくなってきたぞ。