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第29話 高まる胸騒ぎ

「勝者レオナルド!」


審判の甲高い声が会場にこだました。


レオは順調に予選を勝ち上がっている。


このまま、決勝大会に進出するのは間違いないだろう。


アリシアはその堂々とした彼の晴れ姿に勇気づけられながらも、胸中は不安でいっぱいだった。


『怪しい男が尾行している』


ボラムの街への道中にマルコがこっそり耳打ちした言葉だ。


その男の特徴を聞くと、ゴルドのそれと酷似していた。


先日、ラムダはゴルドのことを脅して遊んでいるだけだと評したが、それでも、何を考えているのか分からない以上は、引き続き警戒すべき存在であることには違いなかった。




「おめでとう!決勝に向けて頑張ってね!」


ミナは笑顔でレオを出迎えた。


その様子をアリシアは複雑な心境で見守っていた。




大会前日の晩、アリシアはミナに部屋に呼び出された。


自分が女の子になっているとはいえども、同年代の女子の部屋にいくことへの慣れはなかったため、アリシアは若干そわそわしていた。


2回ノックをすると「どうぞ」と返事があり、ノブを回し入った。


部屋の調度は宿屋らしく、花が飾られていたものの、全体的に見ると取り立てて少女趣味な置きものもなく、客室と変わらない程度に地味なものだった。


ミナはベッドの上に足を組んで座り、物憂げな表情で明後日の方向を見つめていた。


「あなた、レオナルド君とどういう関係なの?」


唐突に飛ばしたその質問には明らかに嫉妬の色が籠っていることをアリシアは読みとった。


「ただの居候です」


相手を刺激しないであろう、いちばん無難だと思える答えをアリシアは返した。


「うそをおっしゃい!」


ヒステリックでいて、それでいて部屋の外には聞こえない程度に抑えた声をミナはアリシアに投げかけた。


「宿に着いてからずっと慣れ慣れしく喋ってたじゃない。友達かそれ以上の関係としか思えない!」


宿にたどりついたときに、アリシアが受けた彼女の第一印象は、細かいことを気にしない、こざっぱりして、さばさばしている良い子だというものだった。


宿の亭主である父親の言うことを素直に聞く働き者で器量のいい娘さん。


彼女のことを悪く言う人などいないだろう……そう思っていた。


しかし、そのときアリシアに見せた彼女の表情は嫉妬に狂った鬼そのものだった。


男として生きていれば、おそらくここまで露骨に見せられる機会はなかったであろう、人当たりのいい娘さんの悪意の顔。


アリシアは自分の肉体が女になったことは今までさんざん実感させられてきたが、自分が社会的にも女性として扱われているんだということをはじめて強烈に痛感したのだった。


アリシアはレオの本命の思い人はあなただということを伝えて誤解を解くべきか迷ったが、レオが自分で告白したいと言っていることを尊重し、ミナからの罵詈雑言を甘んじて受け入れたのだった。




ミナがレオの汗をタオルでこれ見よがしにふいている姿を見て、アリシアは胸がずきりと痛むのを覚えた。


(僕が嫉妬している……?そんなバカな。男を巡る争いに男である自分が本気になるなど正気の沙汰ではない。きっと、僕が内心ではミナのことが気に食わなくて、恋路を邪魔してやろうという気持ちがむらむらとわきあがっているだけなんだ。レオへの恋愛感情とかそんなのじゃない)


自分に言い聞かせるかのように、アリシアは自分の中に芽生えた新たな感情を押さえこんでいた。

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