第28話 アリシアの帰還
1月1日 レオナルド
初日の出を背にしてアリシアは帰ってきた。
少女と太陽という組み合わせはとても美しく、原始宗教のような素朴で神神しい雰囲気を醸し出していた。
なぜ、勝手に出ていったんだと追及したが、彼女はごめんなさいと謝るばかりで何をしていたかについては、頑なに口を閉ざした。
ただ、自分の目的は果たすことは難しいことが分かったと繰り返すばかりだった。
なぜ果たせなかったのか、今後果たせる見込みはどれだけあるのかを聞いても、やはりはぐらかされるばかり。
さらに「その目的を果たす上で俺が手伝えることがあるか」と、訊いたら、急に真っ赤な顔をして、他の質問以上に必死で逃げ出そうとするのだ。
「そんなこと、とてもじゃないけど頼めないよ!」だの「恥ずかしい!」だのと、急にしおらしくなって、身振り手振りを交えて、うわごとのようによく分からないことを口走る。
その普段との態度とのギャップが面白いものだから、意地悪をして何度も同じ質問を繰り返してしまったが、少しやりすぎたかなと今では反省している。
最後に「もう、旅はやめるのか?」とだけ訊くと頭を縦にふったので、帰途につくことにした。
故郷へ帰ろう!
1月5日 レオナルド
予定よりは1日だけ遅れて、故郷の村に帰ってきた。
親父とおふくろが俺をお説教。
どうして、アリシアと別にお説教なんだろうかと不思議に思っていたら、どうも、おふくろは俺たちが駆け落ちしたのだと思っていたらしい。
若気の至りで、女の子の一生を棒に振るなんてだとか、男としての甲斐性がどうだとか、誤解に基づいて色々と好き勝手に言われたが、いきさつを説明するとなんとか分かってもらえたようだ。
それでも、親を心配させたことには違いないし、少しは反省しているつもりだ。
それよりも、今の俺には大事なことがあった。
剣術大会が10日後に迫っていたのだ。
そして、剣術大会の日が近づけば彼女に会うことができる。
彼女と言うのは当然、アリシアのことではない。
ミナ、去年の大会のときに泊まった民宿で、親の手伝いをする元気な女の子。
黒い髪をなびかせ、つぶらな瞳に唇は薔薇色。
俺は彼女を一目見るなりその可憐な姿にときめいてしまった。
アリシアに慣れた今とは違って、当時は女の子というものに免疫というものがなかったということもあるかもしれないが、それでも、あのときの胸の高鳴りだけは本物だった。
俺は優勝して彼女の前でいいところを見せなければならない。
絶対に負けられない理由があるんだ。