第27話 おとぎ話のマリオネット
12月31日 アリシア(5/5)
「人を愛すること?」
僕は彼女が言ったことをなぞった。
想像だにしない答えだったからだ。
薬を飲むことによって体の劇的な変化が訪れたのだから、当然、元に戻る方法も処方された薬を飲めばいい。
漠然とそんな簡単なことですむと思っていたのだ。
もっとも、彼女が本当のことを言っているとは限らない。
口からの出まかせで、僕の心を惑わせようとしている可能性だって十分ある。
僕だって駆け引きで偽のナイフを使ったんだ。
相手だって、偽の情報でこちらをかく乱させようとしていることは十分に考えられた。
「そう。人を愛すること。心から愛することができたものと口づけを交わし、『元に戻れ!』とひとこと言えば、それであなたは元の姿に戻れるわ」
「まるで良い子のためのおとぎ話みたいじゃないかっ!」
「童話みたいな純粋無垢な恋ってステキじゃない?大人として長年生きてきたからこそ、汚れなきワンダーランドの良さが分かるのよ」
「その主役に僕はなれというのか」
「その通り。愛する人にベーゼをされて元の姿に戻る。なんて美しくて儚いエンターテイメントなんでしょう!」
僕は彼女にとって娯楽を提供するための存在なのか。
せっかく、こっちの有利なペースに持ってきたと思ったのに、すっかり弄ばれる立場に逆戻りしてしまった。
「キスの相手は相手は男がいいのか女がいいのか」
「性別はどちらでもいいわ。ただし、お互いが相思相愛であることが条件」
淡々と会話を続けているが、僕の頭の中はパニックになっていた。
もし、仮に彼女の言うことが本当だとしよう。
口づけの相手が男の子だとしたら、僕は心が男だから男同士になってしまうし、相手が女の子だとしたら、僕は肉体が女なのだから女同士になってしまう。
どちらにせよ、僕にとって、ものすごいことを要求されていることには違いなかった。
「その話が本当である証拠は?」
「自分で試してみればいいじゃない。」
「そんな恥ずかしいことできるわけないだろっ!」
「それがいいんじゃない。こういうのって恥じらいがいちばん大事だしね。なんならあたしと試してみる?」
なんだか、頭がくらくらしてきたぞ。
「何が狙いだ?なぜこんなことを……」
「うーん。ある人からお願いされたとだけ言っておきましょうか。もっとも、あたし自身も楽しんでやっているところもあるけどね。口づけで元に戻るようにしたのはこっちの判断だし」
僕は自分の意志で生きることを決意し、自分の意志でここまで歩いてきたきたつもりでいた。
だが、そんな行動も、彼女とその背後にいるらしい黒幕にとっては予定調和なことにすぎなかったのか。
僕は見えない糸で操られているマリオネットでしかないのだろうか。
己の無力さにただ絶望するしかなかった。