第26話 君のおかげで強くなれる
12月31日 アリシア(4/5)
今のところ予想していた以上に思い通りに事が運んでいる。
こんなうまくいっていいものなのか順調すぎて怖いくらいだ。
全ては「アレ」を僕にくれたレオのおかげだ。
アレを僕が受け取ったのはつい昨晩のことだった。
レオが宿泊先で旅行鞄の中を熱心に探し、そして、取り出したのだ。
何の変哲のない棒きれ、大工道具か何かだろうかと最初に思った。
レオが引き金を引くと、刃のようなものが浮かび上がった。
なるほど、これは折り畳みナイフかと次に思い、そう口に出した。
ところが、甘いとばかりに笑みを浮かべると、レオは自分の手のひらをそれで貫いたのだ。
あまりに突発的な自傷行為に僕は驚いて目を両手で覆った。
剣客としてそれなりに自信があった身としては情けない話だ。
「大丈夫だから目を開けて」と言われ、それにならっておそるおそる目を開けると、レオの皮膚にあるべき傷口がない。
刃はレオの皮膚を貫いたままだ。
きょとんとしている僕にレオは説明をした。
「これはホログラム、ただの立体映像だよ。実在しない刃がいかにもあるかのように見せかけるこけおどし武器だ。今は以前ほどには戦争が激しくはないから、こういう護身用の武器が親父のところにも注文が来るのさ。もっとも、売れ行きはそれほどでもないけどね」
これはいざというときに交渉材料として使える。
そう僕は直感した。
そして、その機会は思いのほか早く巡ってきた。
目の前の交渉相手は偽りの刃に怯え、及び腰になっている。
さすがに、これが本物の鋭器だったならば、僕も生身の人間に投げつける勇気はなかっただろう。
レオにお礼を言わないといけないな。
このはったり武器をくれなければ、山賊相手にはったり半分で交渉をしている勇姿を見なければ、こんな思い切ったことを試してみようという発想は出なかった。
レオと出会たおかげで、僕は少し強くなることができたのかもしれない。
ラムダは落ち着きを取り戻したのかゆっくりと立ち上がった。
肩で息をしているのが分かる。
その様子を見て、僕も平静さを取り戻し、彼女のことが少し気の毒になった。
元の姿に戻るためとはいえ、自分をかわいがってくれてきた人にこんな仕打ちをしていいものかという罪悪感がもたげてきたのだ。
だが、ここまで非情に徹しないと、本気を見せつけないと彼女は口を割ってくれないであろうことも事実だった。
僕がやるべきことは男に戻って、強さを取り戻して、ゴルドからの脅威を取り除くことだ。
そうしなければ、一家は悲惨な末路が待っている。
ただでさえ、こうして長い旅をしていて家は無防備な状態なんだ。
手ぶらで帰るわけにはいかなかった。
「こっちは丸腰なのに、ナイフを放り投げつけるだなんてひどい子だねえ……」
そう言われるとずきりと良心が痛む。
もう少し穏やかな手段もあったのかもしれない。
少し頭に血がのぼって我を忘れていた。
「まあいい。そこまで元に戻りたいという気持ちが強いならば方法を教えてもいい」
しばしのもったいぶったような沈黙の後、彼女はこう言った。
「人を愛することだ」