第24話 全てを知る者
12月31日 アリシア(2/5)
僕が錬金術師ラムダとはじめて出会ったのはまだ齢は5にもならない頃、親父と従者に連れられてのことだった。
うちは実践寄りの流派であるために毒物やしびれ薬などを刃物に塗ることもしばしばあり、その発注の多くはここになされていた。
彼女はその頃から、お面を被り、素顔を一切、僕たちには見せようとはしなかった。
「どうして顔を見せないの?」と、まだ幼かった僕は無邪気に訊ねた記憶がある。
それに対し、彼女は「あたしは素顔のない人間だ」と、答えたことがとても印象に残っている。
どういう意図でそういうことを言ったのかは僕にはよく分からなかったし、未だによく分かってはいない。
従者は帰り道に「どうせ醜い顔をしているのだろう」「実験中に薬品で顔がただれたのを言い繕っているのだろう」と悪態をついていたので、そういうものなのかと子どもなりに納得していたものだった。
そういえば、彼女は500年もの間、生き続けているという噂を耳にしたことがある。
僕が常識として知る範囲では、人生というのは50年で幕を閉じるものであり、大往生したと言われる村々の長老たちもせいぜい100歳といったところだ。
500年も生きながらえるなんていうことが仮に事実ならば、彼女は人でない何か、物の怪かあるいは仙女か、人智を越えた存在ということになるのだろう。
そのようなものが、こんな山奥で日夜ひっそりと錬金術に明け暮れているというのも、なんとも神秘性を感じさせるものだった。
「色々聞きたいことはあるが、いちばん大事なことをまず単刀直入に聞こう。君が僕に自殺用の薬と称して3か月前に処方してくれた薬があったね。あれを飲んだらこんな体になった。元の体に戻る方法を教えてくれ」
「元に戻りたいの?もったいないなぁ。女の子の生活を楽しめばいいのに……」
「冗談じゃない。こんな体になったせいで僕がどんな酷い目に遭わされているのか知って言っているのか」
「中身が本物の毒薬じゃなかったおかげであなたは今こうして生きていられるんじゃない。アリシアちゃんだなんてステキな名前までもらっちゃってさ。感謝してもらいたいくらいだわ」
「この体のせいである男に狙われている」
「ゴルドなんて大して悪びれたことは考えてないわよ。あんたを脅して遊んでいるだけ。あんな小者が本気であの一家を殺そうなんて大それたことを考えているはずないじゃない」
一体、こいつはどこまで、事情に精通しているんだ。
おそらくだが、僕が今まで村で体験したことから、ゴルドが内心考えていることまで、何もかもをこの女は知っている。
やはりこいつは限りなく神に近い存在なのか。
それとも、誰かが彼女に僕の行動を逐一耳に入れているのか。
どちらにせよ、僕より一枚も二枚も上手の相手なことだけは確かだった。