第22話 男同士の内緒話
12月29日 昼 レオナルド
コルコトに着いたのはお昼すぎのことだった。
本来、昨日の夕方頃には到着し、宿をとるはずだった街だ。
遅れを取り戻すために、さっさと簡単に旅に必要な買い物だけ済ませて先を急ぐつもりだった。
それなのに、アリシアのやつはあくせくとあちこちを歩きまわり何かを探している様子だった。
何を欲しているのか、俺が見つけてやろうかと聞いてみたが、自分で買うとはぐらかされるばかりなので、尾行が得意だと自負しているマルコに探りを入れさせることにした。
しばらくして、マルコが戻ってきたので、問うてみると「あんたは別に知らなくてもいいことだ。追求するのはやめてやりなよ」と、つれない返事。
そう言われてみるとますます知りたくなるのが人情だ。
ひょっとしたら、あいつが隠そうとしている過去と関係あるのかもしれない。
今夜の宿泊先あたりで詳しく突っ込んで聞いてみようかな。
しばらくすると、アリシアが戻ってきたのであわてて馬車の手配をして街を発った。
なるべく、お金のかからない徒歩の旅をするつもりだったが、目的地への距離と1週間という目安期間を考えると仕方ない。
同日 夜 アリシア
町外れの民宿に着くと、当たり前のように僕とレオたちとは別の部屋に案内された。
一緒の部屋がいいとさんざん主張したのだけれど、年頃の男と女を同じ部屋にすると、間違いがあってはいけないからと、宿の女将さんが何度もとがめるものだから、僕も諦めてしぶしぶ一人部屋に行くことにしたのだった。
第一、僕は男だし、レオは真面目だし、万一にもそんなことはないと思うんだけどな。
旅の道中に部屋に一人ぽつんと残されるのは、のんびりまったりとくつろげる安心感もあったが、旅と言うからには道連れ仲間と雑談やトランプ遊びをしてわいわいやるのが醍醐味だろうという気持ちもあった。
静かな部屋に取り残されて寂しくなったので、レオとマルコが居る部屋に遊びに行ったのだけれども「今は男同士の話をしているから女は入ってくるな」と、拒絶されてしまった。
男同士の話で女を輪に入れたくないものだなんて、だいたいが猥談の類の聞いたら聞いたで気分のよくないものが多いのだが、それでも以前ならば当たり前のように入れたであろう会話に入れないということは、それはそれで寂しいものだった。
僕は今でもずっと気持ちでは男のつもりなんだけども、やっぱり、2人から見たら女の子なのか……。
カバンから、ナプキンを取り出した。
今日のお昼に雑貨屋さんに旅に必要なものを訊いたところ、婦人用品も必要だと言われたので、街をさんざん練り歩いて買ったものだった。
普通の女性であれば買いなれているので、この手の売り場をさっさと見つけるのだろうが、今までこういったものに興味を持ったことのなかった僕は頓珍漢なところをうろつきまわっていたのだ。
僕は薬で女の体になった身だが、その薬の正確な効用は知らない。
擬似的に女に見える体になっただけなのか、あるいは今後、これを使う必要があるような体になってしまったのか。
いずれにせよ、備えあれば憂いなしということで旅のお供に持っていくことにしたのだ。
今後の人生で何かの間違いがあれば、出産することになるのかもしれないのか……。
ゾッとするような想像ではあったが、最悪の事態が起きればそうなりうるということも今のうちに可能性として考えて、自分の体を大事にしないといけないな。