第20話 対決!盗賊の親分
12月28日 夜 アリシア
盗賊の親方という存在と実際に会ったことのあるという人は市井の中にはなかなか見当たらないもので、たいていの場合は、物語や講談の類で伝聞するのみである。
その中で多くの人がステレオタイプとして思い描くのが酒に強くて粗野な豪傑の姿である。
人々の空想の中で生きている山賊は、たいていが刹那的で自己破壊的な生き方をしており、後先を考えずに残虐非道な略奪を繰り返す。
しかし、そのような破滅的なスタイルをもってして長続きした盗賊団というのは、現実にはそうはいないもので、ある程度の規模の大きい盗賊団となると、優秀な頭脳が組織を潰さないように暗躍している。
今、レオと向かい合って座っている盗賊の頭はそのような頭脳派タイプであるように僕には見えた。
青白い肌をして、目は窪み、他の盗賊たちと比べても、明らかにやせ細っていた。
髪は七三にびしっと分けられており、第一印象では病弱でモラリストな文学青年といったたたずまいだ。
「君はマルコのやつを自分の付き人にしたいと、そう、言うのだね」
大人の男性にしては高めの、まるで裏返ったような声で頭は話を切り出した。
「そうだ。だから、あんたのところの盗賊団から足を洗わせてやってくれないか」
「嫌だね」
即答だった。
「そいつは、赤ん坊の頃から、我々が手塩にかけて盗賊の流儀を仕込んだんだ。今さら、堅気の世界に返すことなんてできると本気で考えているのかい」
「そこをあんたを男と見込んで頼んでいるんじゃないか」
「そんなマッチョイズムな理想論を振りかざされても困るね。盗賊の世界はシビアなんだ。もし、そいつを堅気の世界に戻したらどうなる?いつ自警団なり公安なり、我々を退治しようとしている組織に肩入れして、情報を流さないとは限らない。これは我々にとって死活問題なんだ」
そう言うと、頭は見せつけるように狩猟用のナイフを床につきたてた。
彼なりの恫喝の手段なのだろうが、レオは眉ひとつ動かさない。
「約束しよう。絶対にあんたたちを売るような真似はしない」
「初対面の人間同士の口約束ほど、もろくて崩れやすいものはない。さながら、砂上の楼閣のようだ」
「ならば、あんたが信じたくなるような証拠を見せよう」
レオは上着の内ポケットから、2つの指輪を取りだした。
毒々しいまでの赤と青の光を放つ宝石。
リングには古代文字と思わしき象形文字が刻まれていた。
「このペアの指輪には呪いがかけられている。青の指輪の持ち主がある呪いの言葉を唱えるだけで、赤の指輪の持ち主をいつでも殺すことができる」
「それを君がつけるというのかね?」
「そうだ。あんたに俺の命を預けよう……」
レオがそう言うと、頭は腕組みをした。
「その指輪の効果が本物であることをどうやって証明する」
「信用できないというのなら実際にこの場で試してみるといい。俺が生きるも死ぬもあんた次第だ」
レオは指輪をそっと薬指にはめ、赤の指輪を頭に向けて放り投げた。
「あんたが赤の指輪をつけて、『セムダ・エトゥーサ』と一言唱えるだけで、その瞬間に俺は死ぬ」
「実験で君が死んでしまっては意味がないではないか」
「そうだ。だから、あんたは俺を信じるしかない」
頭は高らかに笑った。
第一印象とは全く違う、豪快な笑い方だった。
「君はとてつもないバカか、そうでないとしたら、よほど腹黒いペテン師だな。どちらにせよ、大した度胸の持ち主だ。気にいった。いいだろう。君の男気に免じて許す。マルコをどこへでも連れていくがいい」
回りの子分が不服そうに眺める中、レオと頭は二人で高らかに笑い続けた。