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第18話 山賊少年

12月28日 昼頃 アリシア

寒空の下、名も知らぬ広葉樹林が自然の迷路を形作っていた。


今歩いている山道は主要都市の間を結ぶナブ街道にまで続くまがりくねった小道であり、人の往来も決して多い方ではない。


村を出てからすれ違った相手もせいぜい3人程度の老人たちくらいで、レオが会釈をしたあたり村の顔見知りであろうことが分かる。


それでも、ところどころに崩れかけた手すりがあったり、凝った意匠の橋がかけられていたりして、かつては炭鉱街への道として整備されていた面影がわずかに残っていた。




このあたりは治安が悪いらしい。


特に夏場になると、樹林が生い茂り、賊が隠れることのできる死角がたくさんできるのだ。


村人たちは国の警備隊にパトロールの強化を嘆願したが、もはや、産業的に重要ではないこの地域の住人を守るメリットはなく、放置され、見捨てられたような状態である。


もっとも、今は冬場なので、賊たちの活動の主要な活動拠点は他に移っているようで、村と街を往来するにはちょうどいい季節であった。




山賊など出るはずがない。


僕も、そしてレオもそうして油断していた。


だが、襲撃者は突然やってきた。


「たああああああああああっ!」


大きな叫び声が間近に聞こえ、僕とレオは身構えた。


左右を見て次に後ろを見る。


誰もいない。


そうなると、襲ってくる場所は一つしかなかった。


上だ。


僕は手提げカバンを盾の代わりにして襲撃者の攻撃を受け止めた。


僕は腕に痺れが走り、少し横によろめいた。


足腰の踏ん張りが男の頃よりも弱っていた。


昔の僕ならば、こんなことないはずなのに。


計算外のよろめきに対し、間髪いれずに賊は足払いを入れてきた。


「きゃあっ!」


女みたいな叫び声を出してしまった自分自身に驚き、思わず僕は後ろに倒れてしまった。


賊は僕からカバンを要領よく奪い取ると、走り去ろうとしたが、そこにレオが刀を鞘に入れたままの状態で脇腹に叩きつけた。


「ぎゃっ!」


賊はずしりと音をたてると前のめりに倒れ頭を打った。


なんてことだ。


完全にレオに助けられた形になってしまった。


剣豪を自負しているにも関わらずなんとも情けない話だ。


僕とレオが剣を抜き、囲むと観念したかのように、仰向けに寝転んだ。


顔を見るとそれはまだあどけない顔をした10歳くらいの子どもであることが分かった。




「殺せ……」


息を切らせながらそうつぶやいた。


「おいらは、どの道、殺される運命なんだ。それならいっそのことひと思いに楽にしてくれ」


目線は焦点を合わせず上の空だった。




僕はこのような子どもを今までたくさん見てきた。


街では捨て子が盗賊に拾われることはよくあることだ。


捨て子に幼い頃から、盗みや殺しの技術を覚えさせ、そして、実践投入する前に、試験として旅人を襲わせる。


そして、その結果、ものになると判断されれば、一人前と認められ、そうでなければ落伍者として『処分』される。


きっとこの子も、どこかから今の一連の仕事を監視されていて、そして、失敗したので『処分』の対象と見なされるのだろう。




「殺される運命って一体どういうことなんだよ?」


レオは分かっていないようだったので、僕はかいつまんで盗賊の流儀について話した。


「お前はなんでそんなこと知っているんだ」と言いたげな表情を浮かべながらも、素直に聞いていた。


「よく分かんねえけど、こいつは、命を狙われるわけか」


「ええ。盗賊の組織に深入りした以上は、生かしておくと彼らにとって、色々とまずいから……」


ここまで話して、はたと気がついた。


与えられた仕事を失敗し、死を命じられ、それに素直に従う。


それはほんの少し前までの僕と全く同じ境遇なのではないかということを。


ごたごたに巻き込まれないように、情を捨て、少年を見捨て、この場をそっと立ち去ろうと提案しようと思っていたが、それがここにきてその気が一気に消え失せてしまった。




「こいつを助けてやりたいと思っているだろ?顔にそう書いてあるぜ」


僕の方を見ながらレオは笑顔でそう言いながら剣をしまい、次に少年に声をかけた。


「よし!おまえは今日から俺の子分だ!盗賊なんかにびくびくしなくていいから、俺に付いて来い!」


「だ、だめだよ!あんたら!おいらと一緒に歩いたりなんかしたら、うちの親分に命狙われるぜ!死ぬのはおいらだけで十分だ!」


「じゃあ、その親分とやらと話し合おうじゃないか。アジトに案内してくれよ」


「無茶苦茶だぜ。あんちゃん。死ぬ気か?」


「死ぬ気になれば何でもできる。なーに任せとけ」


レオは自分の胸をどんとたたいた。




「そういうわけだから、ちょっと寄り道していいか?」


急に声をかけられあわてたが、僕はこくりとうなずいた。


レオは日に日に男らしく頼もしくなってきている。


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