第17話 涙の意味
12月27日 後半 レオナルド
しばしの沈黙の後、話を切り出したのはアリシアの方だった。
「知り合いの錬金術師のところに行って薬を調合してもらってくるだけ。そしたらまた、戻ってくるわ。その往復に一週間かかるの」
「具合が悪いのか?それならば、病人のお前が行かずとも俺がお使いにいってやるよ」
「ううん……。私でないと、錬金術師さんにうまく事情を説明できないの。だから、何も言わずそこをどいて行かせて」
アリシアが横をすり抜けようとしたので、俺はとおせんぼうをした。
「いくら剣の腕があるからといって、そんなよく分からないところへ、女の子を一人で行かせるわけにはいかないだろ」
「女の子」という単語に対してアリシアはびくついたような反応を見せたように俺には見えた。
やはり男なのか?
男だから、女の子として扱われることに対して後ろめたさのようなものを感じるのか?
「少なくとも今でもあなたよりは剣の腕はあるつもりでいるわ。女の身だからって侮らないで」
「この前、俺に一本取られたじゃないか。油断していたら、俺くらいの程度の使い手にもやられる可能性だってあるんだろう。このあたりも決して治安がいい方ではない。どうしても行きたいというのなら、俺も護衛についていくさ」
「あなたたち家族に迷惑をかけるわけには……」
「今でも十分迷惑をかかっているんだよ!」
俺はアリシアのあまりにもの分からずやっぷりに思わず怒鳴りつけてしまった。
ビンタしようと手を振り上げたが、振り下ろすのは思いとどまった。
暴力では何も解決しない。
余計に相手が心を閉ざすだけだ。
「自分一人で不幸を抱えて、悲劇のヒロインぶってるんじゃねえよ。困ったときはお互い様だろ。どんどん頼ってきてくれよ。あんたがどんなつらい過去を背負って生きているか俺は知らないけどよ。それでも色んな人の助けがあって、ここまで大きくなってきたんだろ。一人で何でもかんでも解決しようなんていうのはとんだ甘ったれだぜ」
俺はスミスに会って以来、アリシアに対してつのりにつのった感情をぶちまけていた。
「だから、話せる範囲でいいから俺に話してくれ。そして、その錬金術師とやらのところまで護衛させてくれ」
アリシアは涙を流していた。
きつく言いすぎたかと思って謝ろうとしたが、「うれし涙だから」と断ってきた。
「何を考えているのかよく分からないやつだ」と俺はため息をついた。
アリシアによると、彼女はあるいきさつで飲んでしまった薬の作用によって、身体能力をフルに活用できなくなってしまったのだという。
剣の腕もかつてより衰え、身のこなしも悪くなった。
そこで、その薬を作った錬金術師のところに出向いて、解毒剤を作ってもらおうというつもりらしい。
その薬の作用とやらはもしかして男を女にする薬なのかと訊こうと思ったが、今日のところはやめておくことにした。
そこはアリシアが隠したがっているところのようだし、急いで訊きだすこともないだろうと思った。
俺は荷物をまとめ、置手紙を残すとアリシアと二人、村の門をくぐった。