第16話 真夜中に二人で…
12月27日 前半 レオナルド
ふと、何者かの気配を感じて目を覚ました。
あたりはまだ暗闇に包まれている。
それでいて、静寂に支配されている。
そういった状況から察するに時間帯はまだ真夜中といったところだろうか。
廊下の軋む音がわずかに聞こえる。
ここ数週間に仕込まれたトレーニングの間に俺の感覚は鋭敏になっていた。
以前だったら、このような気配に感付くこともなく、ひたすら眠りこけていたに違いない。
侵入者がやってきたのかもしれないと思い、俺はベッドの下に置いていた剣に手を伸ばす。
足音の主は俺の部屋を通り過ぎ、そして、階段を下りて行った。
俺の部屋を通らないといけない部屋は一つしかなかった。
アリシアとおふくろが横たわっている寝室だ。
俺は動揺した。
もし、足音が外部の何らかの悪意を持った人間のものであるとするならば、その主は既に寝室で用事を済ませて、これから家を出ようとしていることになる。
そして、その気配にあのアリシアが気付かないはずがない。
それにも関わらず、侵入者は着実に一歩一歩、歩みを進めていく。
おふくろもアリシアも、もう、賊の手に落ちてしまったのか。
アリシアをもろともしない相手に俺が太刀打ちできるか。
寒さと怖さで震えながらも、俺は覚悟を決めると、階段をゆっくりと下りて行った。
1階に下りると、既に人の気配はなかった。
もう、外に出てしまったのか。
思い切って、玄関の扉を開き飛び出し、あたりを見回した。
居た。
防寒用のローブに身を包んだ背の低い何者かが、村の出口に向かってゆっくりと歩いていた。
「誰だ!」
叫ぶと、驚いたように影は全速力で逃げ出した。
俺は必死で追いかける。
全力で走っているつもりでいるのに距離はどんどん離されていく。
(このままでは逃げ切られる)
そう考えはじめた時だった。
影はゆっくりと走る速度を落とし、やがて止まりこちらに振りむいた。
漆黒に揺らめく長いまつ毛に青い瞳。
影の正体はアリシアだ。
彼女は目を合わそうともせずに申し訳なさそうに俯きがちでいる。
「どういうつもりだ」
「ごめんなさい」
「謝るだけじゃ分からないだろ。事情を話してくれないと」
一陣の風が吹き、ローブがなびいた。
「七日……七日だけ、大事な用事があるから家を離れたいの。七日たったらすぐに返ってくる。あなたに迷惑はかけないわ。だから、ここは見逃して」
七日という日数をやたらと強調する。
「質問の答えになってないな。事情を話してくれと言ったんだ」
迷っているようだった。
伏し目がちでいて、時々、ちらちらとこちらを上目遣いでこちらの様子をうかがってくる。
「今まで記憶喪失と言っていたが、それも嘘だったのか?言えないような過去を持っていて、それを俺たちに話すのがは嫌で、黙っていたのか!」
ついつい、しびれを切らして責めるような口調で言ってしまった。
彼女が見せる泣きそうな表情を見て、それは失敗だったと俺は反省した。