第15話 少年が成長するとき
12月23日 アリシア
レオのやつの太刀筋が急によくなった。
ふっきれたかのように僕の方へ太刀を叩きつけるようになったのだ。
これまでは腫れものに触るかのように遠慮し、あえて急所からは狙いを外して攻撃を仕掛けてくるので、僕は飄々ととびはねながら返り討ちにしていたのだが、そういった遊びを入れる余裕がなくなってしまった。
レオの技術が突然あがったというよりは彼の内面で何かが変化したというのが表現としては正しいだろう。
勝負根性がついたというか、度胸があがったというか、凛としたその表情は今までとは別人のようだった。
格好いいなとしばし見とれてるが、幾分かして我に返る。
男の身でありながら、男を見て胸を高ぶらせるなどとは正気の沙汰ではない。
このままでは心まで女に染まってしまうのではないか。
そのような恐怖を胸に抱いたのだった。
12月26日 アリシア
レオにはじめて一本をとられた。
油断していたところを間髪入れずに一太刀、二太刀と叩きつけ、手がしびれて竹刀を落したところを拾おうとしゃがんだところを、肩をびしっと叩かれた。
それほど痛くないあたり、多少は手加減をしているようだった。
完敗だ。
いつかは越えられる日が来るかと思っていたが、それがこんなに早く来るとは予想だにしていなかった。
それだけ、レオの潜在的な才能は僕が思っていた以上なのだろう。
もちろん、女の身になり、身体能力が衰えているというのもあるだろうが。
「やはり、女の体だな。本気で立ち向かうのはこれきりにしよう」
レオはそうぽつりとつぶやいた。
引っかかる言い回しだった。
単に女だとは言わずに女の体と僕のことを表現した。
それは僕の正体が男あることを知っているかのようにもとれる言い方だった。
その言葉の真意を訊いてみたくなったが恥ずかしくなってやめた。
これまでの僕は別人の姿になったことに浮かれて羽目を外し、かわいこぶりっこしていると言われても仕方ない調子だった。
そのような僕の正体が男だと知れるという状態は、到底、羞恥心に耐えることができるものではなかった。
それこそ、「お前、男のくせに情けなくないのか」なんて指摘された日には三日くらいは一睡もできずに、延々と悶えるに違いなかった。
レオに何を言われるかと恐怖し、心臓の鼓動が激しくなったが、次のセリフはごく平和的なものだった。
「これまで剣術のいろはを教えてくれて本当に感謝している。ありがとう」
「あ、どうも」
レオが白い歯を見せた後、こちらに深深と一礼すると、僕は拍子抜けして、礼を返した。
レオは基本的に礼儀正しいのだった。
「今度は俺があんたにお返しをする番だ。詳しい事情は知らないが、あんた、何者かに追われているんだろ?変なやつがやって来たら俺が返り討ちにしてやるよ。まかせとけって!」
今のレオの実力は到底ゴルドに及ぶものではないのだが、不思議とその言葉には説得力が宿り、頼もしさがあった。
だけど、その一方で、男のくせにまるで守られヒロインのような立場に甘んじている自分の無力さに歯がゆさを僕は感じていた。
やはり、僕はこの家を出ていくべきなのか。
もし居続けるにしても、何かこの家の人たちのために出来ることはないか。
近いうちに決断しなければならないな。