第13話 ゴルドの異常な愛情
12月22日(2/3) レオナルド
「やっぱり、アリシアのことが好きなんだな……」
スミスという男は確認するかのように訊いてきた。
おそらくやつは俺が彼女のことを思っていて、それを正直に話すことへ照れがあると、この長い沈黙を解釈したのだろう。
だが、あいにく、俺は他に思い人がいる。
アリシアは可憐な外見をしているとは思うし、美しさに見とれてしまったことがないと言えば嘘になるが、決して本命の相手ではない。
正直に答えるとするならばNOということになろうだろう。
しかし、俺が口に出したのはその本音とは全く逆の内容だった。
「ああ、俺はアリシアのことが好きだ。愛している」
おそらく、この闇社会で生きているであろう男は、理由は分からないがきっとアリシアのことを殺しに来たのだろう。
だけど、彼女の身辺捜査をしているうちにやつなりに情がわいてしまった。
もし、彼女に思われ人がいなければ迷うことなく殺し、いれば殺すのをやめる。
そういうシナリオならば、返答次第では死人が出るという発言もつじつまが合った。
そういった仮定の元、出した答えはイエスだ。
こういうときは嘘も罪にならないものだ。
俺の考えすぎならばそのときはそのときで後で訂正すればいい。
「そうか。好きか」
そう言うと、スミスはそれまでの強面が嘘かのように柔らかい笑顔を浮かべ、しみじみと語り始めた。
「俺には初恋の人がいた。南国の青い海のように澄んだ瞳をした美しい娘だった。若かった俺は果敢に彼女に何度もアタックした。だけど、彼女は醜い俺に一度たりとも俺に振り向くことはなかった。時には軽蔑の眼差しさえ向けさえした。彼女はある強い剣豪と恋に落ち、そして結婚をした。そのときは三日三晩泣いたものだよ……。俺はそれでも諦めきれずに、その剣豪の弟子となって彼女といい関係になれないかチャンスをうかがっていた。そんなある日だよ、彼女が病魔にかかって死んだのは」
そこまで語るとスミスは視線を外し無防備な格好になった。
今なら待ちに待ったこの男に奇襲できるチャンスだ。
これで、アリシアはピンチから逃れることができるかもしれない。
だけど、俺は行動を起こさなかった。
この男の話の続きを聞いてみたくなったからだ。
「彼女は剣豪との間に一人の息子を遺した。息子はすくすくと成長して、10歳くらいになった頃には母親と顔が似てきやがったんだ。俺は心がかき乱された。母親の面影をもつそのガキをどうにかしてやりたいと考えるようになった。俺はホモセクシャルな考えをそれまで持ったことがなかっただけに自分でもショックだった。だが、その欲求も長くはなかった。息子は思春期を迎え変声期を経てだんだん男らしくい体つきになってきたんだ」
「それがアリシアとどんな関係があるんだ?」
俺は当然の疑問をぶつけた。
すると、男は高笑いをはじめた。
その目には狂気が宿っていた。