僕と未知の大陸・3
R18にならないように書き直しましたが、どうでしょうか?
問題になりそうな描写は、削除しました。
「チャスカ、おいで」
当然と言えば当然なのだが、体がカチカチだ。僕は一晩でどうにかしてしまおうなんて、がっついた事は考えていない。先は長いはずだし、焦る必要は無い。ここ数日、僕は意識的にチャスカの側に体をよせたり、手を握ったり、時に額や髪に軽くキスを落としたりした。その反応を見る限りでは、僕を受け入れる気持は十分に育っていると見て良さそうだ。
「こんな事、やるんだけど、わかっているか?」
僕は書斎のデスクの椅子に掛け、膝にチャスカを乗せながら、一緒にいわゆる春画の類を見た。帝国の物もミッケリの物もミズホの物も有る。どれもその手の作品としては出来の良いものばかりだ。平成の日本なら未成年に見せられない画像ってやつだが、チャスカは息をひそめて見つめている。呼吸が荒くなって、顔が真っ赤だ。無理はさせないつもりだ。先ずは僕の体に慣れさせ、僕に触れられる事を受け入れさせようと思った。
「今から一緒に風呂に入るよ」
「おせなか、おながしいたします」
喉から胃袋が飛び出しそうな顔になっているくせに、健気にもそんな事を言う。春画の中には風呂で戯れる様子を描いた作品も幾つかあったから、僕がどんな事をするつもりか、見当はついているだろう。
「今夜は……大丈夫かな?」
「はい」
小さいけれど、覚悟は決めていたと言う声だ。
(以下自粛)
「恥ずかしいのか?」
「はい」
確かに恥ずかしい事の連続だろう。羞恥の所為も有るのか、体中が薄桃色に照り輝いている。
「こうして僕に抱きしめられるのは、嫌?」
「いいえ」
そう返事をすると、嫌ではないと言う意思表示のつもりか、感情の高ぶりの所為か、僕の口づけをせがむように自分から顔を近づけた。
三日間、共に入浴し、ベッドで抱きしめ合って眠る事を続けた。本当の二十代の若者なら、こんな気の長い焦らしは出来ないだろうが、僕は見た目が二十代なだけで中身は中年、いや前世分をカウントすると初老のオヤジだから後の事も計算に入れて、冷静にチャスカの感覚が広がり育つのを待つ根気強さは持ち合わせている。
「わたしをすっかり、ぜんぶ、でんかのものにしていただきたいのです」
「十分気をつけはするが……構わないの?」
「はい。おしたいしていますから、へいきです」
「可愛い事を言う」
(以下自粛)
「良い表情だ」
「ああ……」
チャスカは真っ赤に染めた首を、なよなよ揺さぶる。感じやすい体が本人の意図せぬ内に、熱い感覚のうねりに乗り始めていることに、ひどく狼狽している。
「恥ずかしがらなくて良い。感じやすいのは、素敵な事なんだから」
どうやら、死ぬほど恥ずかしいらしい。
「あッ、あッ……へん、へんです……」
幼い美貌が淫蕩な喜びに火照っている様は、僕の目を楽しませる。ついに鋭い快感に反応して体がピクンと跳ね、歔き声が噴き上がる。
(以下自粛)
やがて明確な言葉を口にした後、獣めいた呻き声を上げ、恍惚とした表情を浮かべたまま、チャスカは気を失った。そこからは一気に事を運ぶ。
(以下自粛)
次第に僕の力とチャスカの力が寄り添い融合し始めるのが感じられた。
新鮮だった。新しい境地を感じた。これまでの妻たちとは違う、何か大切な絆が新たに結ばれたのだとはっきり確信できた。
「愛しているよ、チャスカ」
「おしたいしています、でんか」
瞬間、僕の脳裏に碧の光が煌めいた。そして、あの碧の霊鳥の高く鳴く声が聞こえたような気がした。事が果ててからもしばらく抱きしめ合い、身じろぎもしなかったが、互いの呼吸が整い鼓動も落ち着くと、チャスカがほんの少しだけ体を解き、淡い光を指さした。
「でんか、むねかざりが」
チャスカの言葉でベッドサイドに置いたあの翡翠の胸飾りを見ると、碧の煌めく光が見える。僕にはまるで意味の分からない謎めいた絵文字の数が増えたように思うのだが、どうなのだろう。
「絵文字の数が、増えたよね。チャスカはこの絵文字は読めないのだね?」
「はい。ちちはおそらくよめたはずですが、わたしは、まったくよめません」
ちょっとばかり残念そうだ。確かに自分の運命に大きく関わる内容であるらしいのに、さっぱり読み取れないのはもどかしく残念だろう。
「僕と一緒に、ヤガー君に絵文字の読み方を教えてもらうか?」
「はい。おねがいいたします」
近頃のチャスカは熱心に帝国の文字の読み書きなども習い、マナーや礼儀作法の習得にも熱心なようだ。僕と特別な関係になると言う事は、この黄金宮で特別な存在になる事を意味するのだから、自覚して努力してくれるのは良い傾向だと思う。
この夜から、チャスカは僕を名で呼ぶようになった。僕が望んだからだ。
するとその事実は、たちまちに黄金宮の中を駆け抜けたようだ。恥ずかしい事この上ないが、中には「おめでとうございます」などと言う者までがいて、驚いた。
「めでたいか?」
僕は、僕に向って祝いの言葉を述べた御前会議のメンバーでもある老貴族に尋ねた。
「ええ。帝国の慶事ですとも。聞けば不思議な神霊の加護が有る未知の大陸の娘だと言うではありませんか。これで御子でも授かれば、ミッケリの勢力など楽々排除できそうですな」
「さあ、そうなるかなあ」
「なりませんかな? ミズホの場合のようには参りませんか?」
「ミズホよりはるかに広い土地で、多くの国々が存在する様なのだ。どうであろう」
「簡単ではないにせよ、大きな足ががりにはなるのでは有りますまいか?」
セルマにも「おめでとうございます」と言われてしまい、背中から久しぶりに冷や汗が流れた。明らかにセルマは不機嫌だった。眉ひとつ顰めてはいないのだが、僕にはわかる。
「ユリエ様は御褥すべりをなさいましたし、私もそろそろかねて申し上げておりますように、女子修道院に住まいを移そうかと……」
「まだ、早いじゃないか。せめてユリエと同じ年ぐらいまでは……」
僕なりに色々考えての慰留なのだった。セルマにだって、御前会議での正式な認証も与えられた側妃だと言う自負や、長年僕に仕え、子もなしたと言う意地が有るだろう。
「御正妃がおいでになりましたら、そろそろ私は失礼させて頂きますわ」
セルマの微笑みはホッとするより、なんだか怖いと僕はつい、思ってしまった。
「まさかとは思いますが、グスタフ様、御自身で未知の大陸においでになる事など、有るのでしょうか?」
「有るかもしれない」
「まあ……ならば、私はまた、留守番役を務めるのでしょうか?」
「ああ。おそらく。父上が御健在の内に、一度は未知の大陸を自分の足で踏むべきだと言う気がするのだ」
僕が本気だと悟ったのだろう。セルマは深いため息をついた。そして僕に抱きついてこういった。
「何処にお出かけになっても、必ず御無事でお戻りくださいね。私は御留守を守る以外、大したお役にも立てませんが、それでもいつも、グスタフ様がお元気でお幸せでいて頂きたいと願っております」
セルマとのキスは懐かしい感じがする。僕はこのセルマも傷つけたくはない。それははっきりしていた。