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【更に先の話・2】新たな土地、新たな街・1

生まれ変わった子供らが、いよいよ本格的に活動開始、という話です。

 マテウスは一歳半を過ぎて、近頃は活発に歩いて話をするようになった。

 僕が転生して百二十五年目にエミナと結婚して、十か月後にフレゼリク・グスタフソン、つまりフレッドが生まれて、翌年にあの白い石を携えて聖地インティプンクに行ったわけだが、転生を望むモタさんを受け入れたのでこうして、マテウスが生まれた一件については、すでに述べたとおりだ。


 フレッドは元気な駄々っ子という感じだが、マテウスは宮中の皆にあいさつをし、何かをしてもらったらかならず「ありがとう」と可愛く微笑んで言うので、宮中の職員たちに非常に人気が有る。特にマテウスが聖人エガス・モタの生まれ変わりだと教会に正式に認定された事も有って、モタさんの故郷レイリアと生前活動していたアイリュの出身者の中には、一日に一度触れてもらうことを願うものが多い。

「聖人様の生まれ変わりでいらっしゃる皇子様の御姿を毎日拝見出来て、まことに私は果報者です」

 そんな風に言って、深々と地に這いつくばらんばかりに礼をする老女もいる。

「マテウスはさ、やけに『おりこうさん』過ぎて、時々いやみだなあ。それにこいつを拝みに来る坊主やら尼さんやらが、また鬱陶しいや」

 まだ三歳のフレッドが眉間にしわを寄せてそんな事を言う。

「あの聖人の生まれ変わり認定の時に勝手にやってきた坊主がさ、実にまた鬱陶しいったらありゃしない」

「ああ、あの大司教はモタさんと同じ町の出で、弟分みたいな人なのさ。モタさんを見習って坊さんになって、そのあとは……ちょっと路線を変えちゃったみたいだけどさ」

 帝国の首都であるこのトリアの大司教は、教会本山のトップである大聖に出世する最短コースの役職と見なされているだけに、昔から目配りの細かい抜け目のない坊さんが多い。内面は……本当に聖人にふさわしかったモタさんあたりとは大違いの、とんでもない俗物も多いわけだが。

「あのくそ坊主、ごますり野郎で気分が悪いや」

「まあ、わかるが、あまり顔に出すんじゃないぞ」 

「マテウスもわかってるのに、よく我慢するなあ。まあ、坊主も使いようで、それなりに役には立つのかもしれないけどさ。でも、あいつの行儀が良すぎて、俺はバカなことがやりにくいんだよなあ。親戚連中もマテウスが生まれてからしょっちゅう顔を見せるようになったし」

 僕のこれまで結婚した女性たちとに間に出来た子供らや、その子孫が時折僕に会いにやってくる。その中のかなりの者たちが神聖教会の熱心な信者で、高齢の女性が多い。彼女らは誘い合わせて入れ代わり立ち代わりやってきて、僕や現在の妻であるエミナと共に食事やらお茶やら楽しむ、ってことはかなり頻繁に有る。

「ワッデンの婆さんたちもさレイリアの姪やらもさ『マテウス様のお行儀が良くてお可愛らしいこと』とか、キャアキャアうっさいぜ」

 高齢で神聖教会の信者である連中のお目当ては『転生なさった聖人様』であるマテウスだったりするのだ。フレッドがそう感じるのも、無理はない。

「うーん、フレッドだって御婦人方はほめていたと思うがな」

「お祈りやら教会の何チャラ聖人やらの話なんぞ、俺はわかんねえもん、ばあさん連中とは話が合わねえや」

「それは僕も一緒だ」

「おやじさんも?」

「ああ。神聖教会なんて、僕もあんまり興味が無いからな」


 そこへトコトコとマテウスが歩いてきた。


「ちちうえ、あにうえ、おねがいがあります」

「マテウスのお願いって、僕は初めて聞くな」

「そうそう、おりこうさんのマテウスがめずらしいや」


 僕が手を差し伸べると、マテウスは素直に抱っこされた。やっぱりその辺は一歳半なのだ。


「初めてのお願いだからな、ちゃんと聞くよ」

「ありがとうございます」

 言葉遣いが折り目正しすぎて、確かに並みの二歳前の幼児なら有り得ない。発音がはっきりしていて、筋道が通っているのも、並みの一歳児とはまるで違うが。

「多分、二歳の誕生日プレゼントに出来る様な話じゃないね?」

 マテウスの二歳の誕生日パーティーは内輪で行う予定だが、親戚連中は皆やってきそうな感じがする。

「はい」

 抱っこした瞬間に広い平原の情景が僕の脳裏に浮かんだ。

「……デカい草原だなあ、どこかな」

「あいりゅよりも、またさらにみなみのはらっぱです……ははうえは『あるぜんちん』みたいなばしょだろうとおっしゃいました」

「アルゼンチンからウルグアイ、パラグアイあたりだなあ。アイリュ帝国の力が及ばない所か。ここをどうしたいんだ?」

「あたらしいまちを、つくっていただきたいのです」

「僕が? テオレル帝国の直轄地として?」

「ええっと、そこにすむひともあいりゅのひとも、ておれるていこくのひとも、みんながなかよくくらせるおおきなまちができると、いちばんいいんですけれど」


 マテウスは発音がたどたどしいが、言いたいことはまともな話だ。確かにルンドにはアルゼンチンやウルグアイ、パラグアイに相当する国家が存在しない。素朴な発達段階の民族の人々が昔ながらの暮らしを送っているが、おそらく農業や牧畜には向いている土地なのだろうと思われる。地球だとスペイン人が持ちこんだ牛や馬が勝手に野生化して増えた、なんていう土地なわけだが、ルンドではそのような事は起きていないはずだ。

 少数のミッケリ人が入り込んだが、現地人に全員殺害された、などという事件は有ったようだが、我がテオレル帝国は一切干渉していない。現在その一帯の土地はどの国家にも属してはいないわけだ。


「周辺の住民とうまく融和できるのが一番だけどなあ」


 恐らくマテウスにはアイリュの南端部分から、効率的に改革を進めるための基地にもなりうる、そういう考えもあるのだろう。


「ちゃんとしただいがくをつくったり、みなとをせいびしたり、できることはあるとおもうのです」

「学校だけじゃなくて、病院なんかも作ればいいじゃん。父ちゃん腐るほど金持ってるし」


 実行するとしたらマテウスの言うようなやり方になるだろうが……フレッドの言うほど金が有り余っているわけではない。だが、鉱山での増産を少し行えば街一つを造成する資金ぐらいはひねり出せる。それでも箱モノよりもそれを作って以降の方が問題なんで、話は簡単じゃない。


「腐るほどはさすがに無いよ。でもまあ、ドーン大陸産のダイヤモンドは良く売れているから、国全部なんていうと無理だけど、海岸部に街を作って整備できればそれなりに効果が有るだろうかな。南部から、アイリュの貴族や皇族の既得権益とぶつかりにくい一帯からしっかり固めていくということかい?」

「はい。できれば、ほくぶのみつりんちたいのどこかにも、もうひとつまちがほしいところです」


 確かに、ブラジル北部にあたる部分から中米一帯の中心となるような基地も欲しいところだ。


「既存の小さな基地を、整備して街にする……てことなら出来そうだな。アイリュとテツココ双方の支配があまり及んでいない場所を中心に選んでみるか。これはお前たちの母上やラルフさんや太田さんとも、よくよく相談しないとな。それに国会でも皆に承認してもらわねばいけないだろうし」

「おやじさんは、新しく税金を掛けたりしなくてもどうにかなりそうなのが、強みだよな」

「確かにフレッドの言うとおりだ」

「ふながいしゃや、てつどうがいしゃもぎょうせきがこうちょうで、おおかぶぬしのちちうえは、ますますおかねもちになったのではないですか?」

「新聞でも読んだのか、マテウス」

「ははうえにおねがいして、みせていただいています」


 まったく、変な三歳児と一歳児だ。


「マテウス、母上はまあ、その、異教徒なのだが、その辺は教会の連中はどう考えているのかなあ」

「わたしのだいじなははうえですから、けいいをはらわぬぶれいものにはくちをきいてやりません」

「ということは、やっぱり教会の保守派の中には、異教徒の皇后に対して、よくない感情を持つものも多いってことか?」 

「わからずやは、ろうじんがおおいですから、すうねんのうちにじょうせいはかわるはずです。ぜんせのでしやこうはいは、みかたにできるでしょうし」

「トリア大司教は、どうなんだい?」

「かくしごとはおおいですが、うそはつきません。あにうえがだいしきょうをおきらいなのも、むりはないですけれど、あれでもつかいものにはなるのです」

 マテウスは口頭では説明しなかったが、大司教は家族を幾度かモタさんに救ってもらったらしい。大司教にとってモタさんは兄貴分というだけではなく、恩人なのだ。敵に回すと執念深くて大変な人らしいが、味方にすると結構頼りになる人物のようだ。

「なるほどなあ」

「けっ、おやじさんと二人の世界をつくっちゃってさ」

「なら、フレッドも抱っこだ」

「いいよ、べつに」

「あらあ、どうしたの?」

 エミナがおやつのワゴンを持ってきた。

「あ、パイだ!」

 フレッドは好物のさつまいもとリンゴのパイを見ると、僕の腕から飛び降りた。そしてあっという間に自分の席に行儀良く座った。以前はがっつく動物のような食べ方だったのだが、最近は見違えるようにマナーが向上した。

「近頃のフレッドの御行儀は、とってもよくなったわ。お客様の前ではちゃんと品の良い言葉で話ができるし、ほっとしたわ」

「家族の前では、相変わらず俺だの、おやじだの言っているけどな」

「そんな俺のどうでもよい話より、マテウスが言った事、どうするのか考えなくちゃいけないだろう?」

「ああ、新しく街を作りたいって話、かしら?」

「うん。僕はついさっき初めて聞いて、まだどうすべきか何も考えがまとまってないが、エミナはどう考える?」

「あの、今は手つかずの状態の大草原地帯だけど……どこかの無法者たちが入り込んで、以前の密林地帯の金鉱山の乱開発みたいなことが起こらないとも限らない、なんて思うのよね。やっぱり私たちがきちんと計画して、開発なり自然保護なり、した方が良いと思うの」

「そのための基地として、街が必要、ってことかな」

「本当は……街をただ作っただけでは、あまり大きな効果が無いかも知れないとは思うのよね」

「ほう」

 エミナは既に自分なりに、色々シュミレーションを思い描いた事が有るのかもしれない。

「なかなかに、難しいでしょうけど……」

「ちちうえとははうえが、いちじてきにでも、あたらしいまちに、たいざいなさるといいでしょうね」

「そう、そうよ。マテウス。その通りだと私も思うの」

 

 なるほどなあ。マテウスのいうことは、真剣に考えてみる価値は有りそうだ。




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