ややこしい僕の事情・1
垂れ流し気味ですが、ともかく完了まで頑張ります。R15は多分そのうち? です。主人公の意向に関わらず無理やりにでもハーレム気味になるかも知れません。
「なんだ! これは! 」
驚くなというほうが難しい。いきなり自分が赤ん坊になっていたら誰だってパニック状態になるだろう。この時の僕がまさにそうだった。
「まああ、可愛い」
「元気なお声で、本当にようございました」
「皇帝陛下もお喜びでございましょう」
明るいブラウンの髪に同じ色の瞳の女性が二人、代わる代わる僕を柔らかい布で拭き清めておむつをして、産着を着せた。それからベッドにいる女性に僕を見せる。プラチナブロンドで淡い茶色の瞳の気品のある顔立ちの女性だ。
「まあ、聖帝様と同じ黄金の髪に碧の瞳、おやまあ、泣き止みましたね、私が母ですよ。早く母上と呼んでおくれ」
「お名前は何と、おっしゃいますのか?」
「陛下がお定めになった名前がその緑の巻物に書いてあるはずです。見せておくれ」
「こちらで御座います」
「おお、男子ならグスタフと名付けよとのことですね。そなたはグスタフ・ステファン・アナス・カール・アブ・ランゲランと名乗るのですよ。我がテオレル帝国の皇太子として、健やかに立派に育っておくれ」
それだけ僕に言い渡すと『母上』は、満足そうな笑みを浮かべて、安らかな寝息を立てて眠り始めた。お産で体力を消耗したようだ。
僕はすぐ隣の部屋に連れてこられた。乳母というのかそういう立場の女性が待ち構えていて、でっかい乳房を銜え込まされた。飲めるかよ! と瞬間思ったが、完全に体は赤ん坊に変換されているらしく、ひどく乳がうまい。
「おお、産声も大きくていらっしゃるだけあって、よく飲んでくださいます」
デカパイのおばさんは自慢気だ。何と言うべきか僕はこの声があまり好きじゃないと感じていたら、突如変な言葉が無秩序に脳裏に飛び込んで来た。
(皇太子殿下の乳母になれて、本当に良かった。姫君ならどうしようかと思ったわ。この分なら殿下の御威光を借りて、ウチの亭主や息子たちの栄達も望めそうねえ)
(くっ、成り上がりの下品な家の出のくせに偶々皇后陛下のお産の時期に間に合うように、子を産んで乳母に納まるなんて、許せない。ここはうちの息子をお遊び相手にお召し頂けるように、各方面に付け届をぬかりなくしなくては)
(私の産んだ子が実は陛下の庶子で、殿下の兄にあたると早く認めていただかないと。それにしてもバカ亭主が邪魔だわ。赤ん坊の殿下より私の産んだ子の方が皇帝の位にふさわしいはずよ。だれか早く味方を見つけないと)
おいおい、陰謀渦巻く宮廷社会ってヤツの中で僕は生き続けなくちゃいけないのか?それにしても、説明がつかないのは各人の本音と思しき言葉が感じ取れたのは、なぜだ? ひょっとして、僕ってエスパー? どうやら僕と同じ部屋にいる三人の女たちの思念を同時に受け止めたらしい。どいつもこいつもロクな事を考えてないのは確実なようだ。
悲しいかな赤ん坊の体力では、これ以上持たなかった。後はトロトロと心地よい眠りに入ってしまって、すっかり夢の中だ。白いもやが広がり、その中にズルッとした貫頭衣と言う感じの白い衣服を着た白髪白ひげのじいさんが、やけににこやかに話しかけてきた。
「いきなりで、驚いたかね。気の毒だが君の地球における寿命は尽きた。これは地球側の手違いだったのだが、そのおかげでこちらは理想とする魂を召喚できたよ」
「お爺さん、あなたこの世界の神様か何かですか?」
「そうだ。この世界ルンドの管理者だ」
「創造主ではないのか?」
「違う。創造主がいかなる存在か私も知らんのだよ」
「あなたは何処から来て、これからどうするんです?」
「気が付けば今の姿でここにいて、命の続く限りここでルンドの為に招くべき魂を探し求めているのみ」
「あなたは、人か?」
「人ではないだろう。餓えず乾かず眠らずと言う有様だから」
「ルンドで人が死ぬとどうなる?」
「霊格により千差万別だ。悪霊となるもの、人に生まれ変わるもの、精霊となるもの、無に帰すもの」
「僕が死んで、地球に生まれ変わる事は可能かな?」
「一般的にルンドでは事故死や突然死の場合、人間に生まれ変わるのは難しい。ああ、お前さんは特別コースだからルンドの不老不死の皇帝になって貰う」
「不老不死? 赤ん坊のまんまって事は無いよな?」
「肉体は二十代半ばの健康な状態まで成長したら、そこからは変化しない」
「なあ、僕は彼女にプロポーズして、OKをもらったばかりだったんだぞ……二度と彼女に会えないのか?」
「そうだな、ならば、その女の魂をルンドに迎え入れるとするか」
「ひょっとして、彼女の、美保の命を奪うのか? それは嫌だ」
「それは無い。……ほおお、なかなかに優れた女子のようだ。ふむふむ。地球の祖霊たちの加護が厚く、幸せな家庭を築き、百歳の天寿を全うするな。そうなればなおのこと、美保の魂は強く優れたものとなろう。お前の皇后になって貰うのはそれからでよかろう。容姿はお前の好みに合わせてやろう。お前好みの絶世の美少女に転生するのだ」
「ええ? それって百年待てって事か?」
「いかにも。お前は不老不死だし、皇帝になるのだし、良いではないか」
「星にも大宇宙にも寿命ってものがあるのが、僕の元居た世界では常識だぞ。不老不死って胡散臭いな……それに百年も待つのか……耐えられるだろうか?」
「不老不死は、並の人間では見当がつかんほど寿命が長いというほどの意味なのかも知らん。細かい事はわしも知らんよ。まあ、何はともあれ、いとしの美保ちゃんが転生してくるまでに、お前の治める帝国とこのルンドをより良い場所にするのだな。そうすれば美保ちゃんは、末永くお前と共にこのルンドを支えてくれよう」
爺さんにお気楽な感じで「いとしの美保ちゃん」なんて勝手に言われると腹立たしい。しかも僕の死後、誰かと結婚して家庭を築くのだ。とても平気でいられない。確かに……美保には幸せになってほしいが……でも、悔しいし、腹立たしい。なぜ相手が僕じゃないんだ! 頑張って希望していた企業の内定だって貰ったんだ。秋には結婚の予定で、両家の親やら親戚やらの説得もほぼ済んでいた。それなのに……いや、ここは冷静になろう。もう僕には、ここで待つ以外の選択肢は用意されていない。だから聞いておくべき事が幾つかあるわけだ……
「さっき、周りの人間の思念が読めたみたいなんだが、あれは何だ?」
「地球でいうところのテレパシーだな。お前だけの特殊能力だ。ルンドの皇帝だけがお前の意識に直接語りかける力がある。だが、皇帝はお前のようにすべての人間の意識を読み取れるわけではない」
「他人の意識が大量に無差別に流れ込んできて、気が狂わないか?」
この問いは爺さんに大いに評価してもらえたようで、ブロックの仕方と、意識を読みたい人間への焦点の合わせ方を懇切丁寧に教えてくれた。
何ともまあありふれた話だが、僕は驚いたことに異世界に転生してしまったらしい。これまたありふれた剣と魔法のファンタジックな世界かと思ったのだが、いわゆる魔法が世界全体に行き渡っているという世界でもないようだ。色々奇妙な独自ルールが存在するが、それはまたおいおい説明できるだろう。